六章 ❹ レーテの村とクレア婆さん
何だかんだとお昼過ぎた!
花見!!
泉の周辺に群生している薬草が活き活きとしていた。
適度な魔素と清水で調整されたからだろう。
成る程、聖結界と清水も関係するなら、安定供給するためにはやはり、レーテの村に栽培をお願いしたほうがよさそうだ。
もっと詳しく調べないとわからないので、取り敢えずお昼にすることとした。
薬師のみんなはそれぞれのお弁当を持って来ていたが、こっちはミョルニルの女将さん特製のサンドイッチ詰め合わせだ。
まったく…美味しく無いはずがない。
しかもミョルニル製水筒には、今朝の残りのコンソメスープが暖かいまま入っている。
コレを食べていると、リスティさん達が寄って来て…
「ねぇ…それ、一つ頂いていいかしら?」
と言ってきた。やっぱり美味しそうだもんね。
一つ摘んで一齧り。
よく噛むと溶け出し、口の中を襲う旨味の暴力。
「これ、凄く美味しい」
きっちり焼かれた鶏肉を肉汁が溢れないようにレタスで包み、更にオニオン、パプリカ、ソースを挟む。
たったそれだけのことなのに、美味しいと感じるのはスレてない証拠だろうか?
「これ…誰が作ったの?」
ん?
「えっと…ミョルニルの槌の女将さんかな?」
「ふーん?」
「あぁ〜、リーンさんが手伝ってたとか何とか?」
「ふーん…」
何でだろう一回目『ふーん』より、二回目『ふーん』の方が怖いのは?
まぁ良いだろう。
あと、モーラの俺を目詰める(X)睨みつける目(O)が恐ろしく感じる。
その横で、研究室三人娘と白一点が苦笑いしている。
ヒルデは今丁度俺の従者となった事を伝えた。
やはりブラド同様に可愛がられている。
何でこんなに人懐っこいんだ?
取り敢えず軽く一回りして、群生状況と生態の状況、水と土のサンプルを取る。
三時を回ったところで、レーテの村へ移動し始める。
突然の集団訪問に泡を食った村人がいたが、入村する前に俺だけ全武装解除したので、そこそこは落ち着いている。
勿論、ブラド、マハ、ヒルデは小型化してペット化している。
懐かしいな。
コンコン
ん?
コンコン
んん?
「あー村長のジェイムスかい?外の畑にいるよ?ん?お前…レンじゃねーか?それにルイ、ゾッド、モーラまで!」
俺は振り向くとそこにトマスさんがいた。
大きな声が響き渡ると、少しづつ人が出て来た。
「あぁーいいよいいよ。
そこにいな?俺が呼んできてやっから!」
猛ダッシュで走るトマスさん。元気いいな。
「あっ有難う御座いまーす」
「レン君知り合いなの?」
「まぁちょっと前に…。
あ、ルイ、ゾッド、モーラ。お前達ここの出身だったっけ」
「「「はい」」」
「この村の孤児だったんです」
ルイはあんまり落ち込んでない。
「そうなのか…」
「でも、みんな優しかったんですよ」
モーラもニコニコしている。
「だから、俺ら頑張って一日も早く一人前になりたかったんです」
ゾッドはキリッとした眼差しで意思表明する。
「そうかそうか、それで少しは強くなったのか?」
「「「ジェイムスさん!」」」
三人が声を揃える。
ジェイムスさんは三人に抱きつかれても、受け止めながら頭をわしゃわしゃと撫でる。
この村、いい村だな。
薬師ののみんなもニコニコしている。
「それで、村の英雄様が今日はどういうお話だぁ?」
◆◇◆◇◆◇◆
ジェイムスさん宅に入って、ソファーに俺とリスティさんが座る。
それを囲むようにトマスさん、ルイ達、研究者四人が見守る形だ。
「お久しぶりですジェイムスさん」
「あぁ、久し振りだな。あの時は世話になった」
「村長。あの時って?」
ゾッドが割って入る。
「なんだ、お前ら知らねぇのか?数カ月前ここがゴブリンの大群に襲われた時、一人で果敢に立ち向かったのがレンだ」
「えっ?師匠が!?」
ルイが驚く。
「何だ?お前達レンの弟子か?そいつはいい。早く四等星位になって…」
「村長。この間四等星になったよ?」
「なにぃ!?嘘…だろ?」
「本当です。この間のムンティス防衛戦でルイ達は四等星に、俺は二等星になりました」
「二等星…ははは…」
ジェイムスさんは手で両目を塞ぐように笑っている。
「あぁ…もしかしてお前か…?ムンティスの英雄って奴は?」
「この頃そう言われるようになったかな?」
「はぁぁぁぁ……何でも言えよ。
力になれることがあるなら力を貸すぜ?」
ジェイムスさんは観念したかのように苦笑いを浮かべる。
「じゃぁ、早速お願いなんですけど。
畑を三枚か四枚程開墾してもらって、そこに薬草を栽培して貰いたいんです。
取り敢えず今年一年分の費用として、一千万マルカを提供します」
「おい!薬草の栽培はいいが何でそんなに金出せんだよ!」
ジェイムスさんは中腰になっている。
「レ、レン君…私も流石に一千万マルカはちょっと…」
リスティさんも軽く口に手を当ててこっちを見てる。
他のみんなも似たり寄ったりだ。
「あっ、良いです。それ全部俺の蓄えなんで。
お金なら先におろしてきてあるので、もしやってくれるなら契約成立ということで、前金で差し上げます」
どん!
っと目の前に金貨の袋を置いた。
「ちょっと…見ても良いか?」
ジェイムスさんは、袋の紐を緩めて丹念に中を覗いている。
「どうぞ…真金貨百枚です」
「お、おい。農業ってのは上手くいかないもんなんだぞ?
何時も日照りや強風、嵐、虫、疫病…俺ら人間より生きていくのは過酷なんだ」
ジェイムスさんは、必死で防衛戦を張っている。
「はい。で、だからなんだと言うんです?残念ですが私は狩人です」
俺は言い切る。
「ジェイムスさんの感覚は全くわかりません」
俺はゆっくりと左腕を、ハンターズリングを見せるように立てる。
「ただ、魔物の群れが千匹来ようが万匹来ようが、俺のこのハンターズリングに刻まれた、二等星の輝きに掛けて打ち倒します。
ムンティスの街や、このレーテの村を守り通します。
それが…俺の役割です」
しんとなった。
ジェイムスさんは膝に肘を置き、手を組んで眉間に当てる。
そうなんだ。いくら同じ世界で違う世界に生きる人間に、自分の世界を話したって何もわかりゃしない。
そんな事より、自分の世界を押し通せるかが問題なんだと、自分の世界を誇れるかを聞いているんだ。
それに金が必要なら出せるとこまで出しましょう。
風?雨?虫?疫病?大丈夫。秘策はある。
こっちはその覚悟で来ている。
賢人会議で大見栄を切ったんだ。後には引けない。
「分かった」
ジェイムスさんが金貨の入った袋に手を置く。
「え?」
リスティさんが口を小さく開ける。
「今から、村の若い奴を全部かき集めて直ぐ開墾に入る!
その薬草の種とか苗とか栽培方法とか分かんのか?」
「「「その、栽培方法はまだなんですけどコレです!」」」
研究者の三人娘が採ってきたサンプルを見せる。
「ん?こりゃぁ…見たことあるな!?トマス、すまんがクレアの婆さん引っ張ってきてくれ!」
「わ、分かった!!」
トマスさんは、追われるように外に走っていった。
「分かるんですか?」
リスティさんは懇願するように聞いた。
「俺にはさっぱりだ」
目を落とす。希望が萎びていく。
「だけどな、クレアの婆さんがこれに良く似たようなもんを、家の前に干してやがんだ」
「えっ!?」
少しだけ光明が差した。やはり餅は餅屋だ。
バタバタとトマスさんとお婆さんが駆け込んでくる。
「いたたた…何だい…もう…」
この人がクレアさんらしい。
「婆ちゃん、ちょっとここに座ってこれを見てくれ」
ジェイムスさんが席を開ける。
クレア婆さんは手に取った直ぐに…
「あーこりゃ北の森に生えてる薬草だね。
ずっと昔に採ってきて、裏の庭に育ててるよ。
傷薬にちょうど良いんだよ」
自信満々得意げに話す。
「じゃぁ栽培方法は分かるんだな?」
ジェイムスさんはその一点を聞きたい。
「あぁ、北の森から流れる小川の水と腐葉土を使えば直ぐに栽培できるよ。
種もあるし、一年中取れる上に育成も早いからね。
で、どうすんだい?こんなもの?
ポーションに比べりゃ効果は低いんだよ?
昔は街に傷薬で出してたけど、今じゃ二足三文になるか、ならないかじゃないか?」
お婆ちゃんは何が何やらと言うふうな顔をしている。
だが…来た!お婆ちゃんの知恵袋凄い!!
「じゃぁ、商談成立ですね?」
俺がニコッとして、ジェイムスさんの目を見て右手を出す。
「勿論だ」
ジェイムスさんは、今までの不安を吹き飛ばすような笑みを浮かべて俺の手を握ってくれた。




