六章 ❸ レーテの森とヒルデ
今日こそはお花見に行く!!
何とか昼過ぎには、レーテ村北の森に到着した。
予感は的中した。
マハが上空からの偵察を感覚共有で教えてくれる。
しかし、昨日は魔素が漂う程度だった。
まだ大地はそんなに荒らされてはいないはず。
荒らされる前に止めなければならない。
取り敢えず…。
「ブラド、マハは俺と来てくれ。
ルイ達はここで待機。結界を敷いて薬師さん達を守れ!」
「「「はい!」」」
三人は直ぐに周りの安全確認と結界の準備を行う。
「えっ?一人で行くんですか?」
リスティさんが驚いている。
「大丈夫です。ブラドとマハもいるし。
あと、この武具の試運転を兼ねたいので」
「でも…」
「じゃ、行ってきます!」
森の奥へと踏み出す。
◆◇◆◇◆◇◆
「あっ、あの!本当に大丈夫なの!?」
リスティさんが僕に尋ねる。
「師匠ですか?勿論です」
僕は平然と答える。
「俺らの師匠だしな〜」
ゾッドは笑いながら答える。
「私達は全力で貴方達を守り切ります」
モーラの使命感は半端ない。
「恐らくですが、全員で森に入るのはかなり危険です。
森という視野も動きも制限されて、なお何処からともなく魔物が襲ってくる場所は、貴方達を完全に無傷で守りきるのは難しいんです」
僕は恐らく師匠が考えたであろう事を口にする。
「それに、おれらの師匠だしなー?」
ゾッドは気楽だ。
「あの武具もかなりやばかったよね〜。
着てるだけ圧力がビシビシくるもん。
あれだけで魔物の群れに勝てそうだよ」
モーラの言うことは一理ある。
師匠の新装備は半端ない。
しかも今日、得物を手にした師匠を見ていない。
それだけ、あの装備と自分の力に自信があるのだろう。
サイクロプスの装備を纏えたとして、果たして今の僕らにそれができるだろうか?
◆◇◆◇◆◇◆
魔素が濃くなってるな…。
マハを先行させ、走りながらそう思う。
焦っているわけではないが、ここで手間取れば野営かレーテの村にお泊まりをしなければならない。
出来れば帰りたいし、帰らせてあげたいので早目にケリをつけたい。
見えた。ん!?
『ブラド待て!』
マハからの感覚共有で、いち早く気配を消しゆっくりと近づく。
魔穴から魔物が一体出てきた。
既にいる魔物と合わせて二体。
オーガが一体、魔化オーガ一体か…なんか懐かしいな…
しかしなるほど、魔穴の影響で魔物が突然変異をするのではなく、魔穴を通って魔物が出てくるのか。
しかし、魔物数体なら問題ない。打ち倒すのみだ。
左の籠手に力を通し、身体をゆっくりと時計回りに捻転する。
「ふっ!」
身体を捻れから解き放つように左の手刀を振るうと燕が飛んだ。
威力は申し分ない。
オーガの首を刎ねた。
残る一体。
俺は勢いそのままに飛び出す。
スキルは何も使わない。
そうだ、単純な基礎体力だけだ。
右手に宿った光を圧縮させつつ思い切り振るう。
脳天からの一撃。
魔化オーガは、目の前のオーガの首が刎ねられた事に仰天して、動きが散漫になり俺の動きに対処できなかった。
手刀兜割り。
普通ならこんな事はしない。が、やろうと思えばやれるんだな。
後は魔穴か…。
顔を上げて魔穴を見ると。
すると、もう一体魔物が出てきた。
しまった。こっちから先に潰せばよかった。
封滅はもうお手の物だ。手刀に込めた飛燕を飛ばす。
魔穴は封滅したが、魔物には反応された。
飛び出てきたのは、白く毛並みの美しい狼だ。
種族はなんとも言えないが、俺の命を待たずブラドが飛びかかる。
ん?
あれ?
あれれ?
戯れてる?
お友達ですか?
ブラドと相性がいいなら…
俺は敵意ゼロで近づく。
そして、ゆっくりとゲンコツを前に出し待った。
すると、ブラドが説明するかのように先に舐めた。
それに習って、白い狼もペロッと舐めた。
コレは…いける?
俺の魔物使いの一面がそう言っている。
『我、汝と共にあり、果てなき道を死が二人を別つ迄、共に歩まん事をここに願う』
盟友の契約。
ブラドは小さい頃から育てているからか、主従の契約になっているが、個人的にこの盟友の契約が好きだ。
のってくれるか?
あれ?頭を垂れて伏せた。
人撫でするとスクッと立ち上がり遠吠えをする。
つられて、ブラドも遠吠えをした。
問題なく契約してくれたみたいだ。
命名の儀式を早速執り行う事にした。
ん〜。白くしなやかで美しい…。
『ヒルデ』にしよう。
「お前の名前はヒルデだ。
おいで、ヒルデ」
「ワゥ!」
ペロペロと舐めてきた。
「よーしよしよし」
あ、そうだ。この子のステータスを見てみよう。
………。
ヒルデ…メス…白夜狼…主従の契約。
あれ?なんで段飛ばしで主従の契約になってるんだろうか?
まぁいいや。嬉しかったのはスキルに小型化も入っていた事だ。
帰ったらギルドで登録しよう。
しかし、メスか…。
ブラドと子供とか出来るのかな?
あと、ご飯どうしようか?一応女将さんに尋ねてみよう。
取り敢えず、みんなをここに呼ぼう。
『マハ。頼む』
『ピィー』
木の枝にとまっていたマハは飛び立つ。
さて、不穏な気配はこの小さな森からは無くなったが、簡単な結界を張りたい。
『ここで俺の出番よ』
「あっ」
『馬鹿弟子…忘れておらんかったか?』
『いえいえ滅相も無い』
『ふん。調子のいい。まぁ良かろうさっさとやるぞ。
そこにある魔物二体を核にした聖結界を張る』
『えっ?そんな事が?』
『そうだな、そこの木が良かろう』
結構大きな木だ。俺が四人手を繋いで漸く一回りできるサイズだ。
『この木の木霊に、魔物を純粋にエネルギー化させたモノを与え、聖結界を張る。
この世界の聖結界とやらは、魔素の結合を防ぐ阻害の役割を果たしているようだしな』
『どこで、そんな事を…』
『先程モーラとか言う小娘が、聖結界を張っていただろうが。その時解析した』
『何だろう。俺の中の人達って結構自由よね?』
『おぉ、そうだった。後で話がある。
簡単に言うと我らとお前の関係についてだ。
今は先にやる事がある。終わらせるぞ。』
『お、おぅ』
「師匠!」
ルイ達がマハに連れられて来た。
「おー来たか」
「オーガと魔化オーガですか…」
ゾッドが死体を見聞している。
「あれ?その白い狼は?」
モーラが聞いてくる。
「後で説明する。すぐそこに泉があるから、そこで薬草の採取と調査を始めてくれ。俺は今から簡単な結界を張る」
「「「はい!」」」
「リスティさん。俺が戻ったらご飯にしましょう」
「はい」
みんなが移動を開始したのを皮切りに、俺は魔化オーガとオーガの前に立ち呪を唱えはじめる。
『のうぼうあらた…』
いつも思うが何の呪なんだろうか?
今回はお腹のちょっと下あたりが熱くなる。
『合わせろ!』
身構える。
『『おん、あみりてい、うん、はった!』』
お腹の下あたりから大蛇が飛び出る。
ゆっくりとオーガ二体を丸呑みにしていく。
そして二体を喰らい終わると俺の中に戻る。
いきなり力の本流が流れ込んできた。
『よし、これで前準備は終了だ。
ではその木に手をつき。お前の中にある力を注げ』
俺は両手をつき、俺の中の変換された力を注ぐ。
二体のオーガ分のエネルギーを吐き出した後。
木に手をつき、この木を中心に聖結界を張る。
すると、目の前の木が聖結界維持のエネルギーを肩代わりしてくれている。
『ふむ。成功だな。後十年は維持できよう。
元々、木霊が自我を持てるくらいには成長しておったのが幸いしたな。
木霊の森を守りたい使命感と、我等の願いが上手く重なった結果よ』
そう言いながら、俺の中の人は慈しむような感触を俺の中に残した。




