一章 ❻ レーテの村と事後処理
レーテ村編完結です。
出来れば簡単なご意見、ご感想をお願いします。
まだ『魂魄憑依』は維持している。が、数が多かった。10体もの魔化オーガ出てくるとは流石に戦慄した。
それでも引くことができない。伸し掛かってくる魂魄が頭の中で叫ぶのだ。
『戦え、戦って散ることこそが本懐ぞ。』
「俺は死なない!散りもしない!足掻いて足掻いて意地汚く生きてやる!!」
森から出きっていない魔化オーガは無視し、出きったやつから相手をする。しかし、劣勢は明らか。
一度でもこん棒や俺の顔ほどもある拳の一撃を喰らえば、立っていられるか分からない。
こんなにも全身が泡立つ感じを味わっている。なのにそれに反して頭は全方位を見渡せるように鮮明に、身体は鎖から放たれた獣のように自由になって行く
『ほぅ…お主こちら側か…』
「あぁっ!!?」
「グオォォォッ!」
頭の中の声とのやり取りに気を取られ、一瞬隙ができたところを狙われた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「何です!?あれは!!」
「オーガ…魔素にくるまれていますなぁ。あれは…あれは既に我らでは…!」
「分かっています!けれどそうではなく!!彼処でたった一人で戦っている人がいます!!」
「あれが例のハンターでしょう!直ぐに引きますぞ!彼に任せましょう!」
「でも!あれはたった一人で捌けるものなんですか!?」
「保ちますまい!」
「じゃぁ加勢を!!」
「団長!貴女はこんな所で団を潰すお積りですか!!?」
「うっ…!!」
「フィアナ様。参りますぞ?」
「……分かりました。」
フィアナ様…お辛いとは思いますがここは堪えてください。若者よ、すまないがこの方をこんな所で死なすわけにはいかんのだ。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
ドゴォッ!
右側方からの拳打による攻撃。辛うじて円盾で防いだが、衝撃が身体全体を震わし7メートル程吹き飛ばされる。
大刀は弾き飛ばされ、受け身も間に合わず無様に転がった。身体中が痛い。口の中は鉄と土の味がブレンドしてなんとも言えない。
魔化オーガの群れがまだ息があることに気づいたのか、それとも四肢を引き裂いて喰らうためか一歩づつ迫ってきている。
「駄目…だったかぁ…」
フュッォ!!
ドオオオォォォォッーーーーーーーン!!!!!
閃光が魔化オーガの群れに直撃した。
遅れて爆風が吹き荒れ、飲み込まれた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「えっえーー………。ミ、ミラさん?」
「何?」
「分かっちゃいるとは思うんだが…」
「何ッ!!?」
「レンが爆風にのまれたぞ?」
「あっ…あーーーーーーーー!!!」
ミラは見境なくなるとこうだからなぁ…。精霊砲じゃなくて、精霊弓の狙撃で仕留めりゃ良いものを…。阿保だなぁ…。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
何処まで吹き飛ばされたのか分からない。が、誰かの声が聞こえる。
「起きて!起きて!!」
「う、ぅぅん…」
瞼をこじ開け焦点の定まらない目を正そうとする。すると朝見かけたメガネショートの天使だ。天国かな?
「良かった!マクレイルさん!私の馬に彼を乗せるのを手伝ってください!」
「了解です!」
脱力中の俺は先に騎乗した、メガネショートの天使に体を預けるような形で乗せられた。
「少し揺れると思いますが頑張ってください!」
「フィアナ様!これで固定を!」
「はい!」
体をメガネショートの天使にロープで固定され…フィアナさんか…
「フィアナ…良い…名前…だね……。」
「ふぇっ!?」
耳元で囁く様にに呟いた。そしてそこで意識はまた遠退いた。
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次に目覚めた所は、村長の家の客室のベットの上だった。村に戻り、直ぐに騎士団の治癒法術を受けたらしい。治癒に当たっていた騎士団の方からそう聞いた
時間も2時間位しか立っておらず。怪我人は俺一人だけだった。あれだけの軍勢と魔化オーガを相手に損害が俺と俺のグレイブと大刀、円盾だけとは大快挙だ。
「武器は直して貰って、円盾は作り直してもらわないとなぁ…」
身体を起こして額に手を当てる。果たしてコレは一体いくらかかるのだろうか?全く…大損害だ。
コンコン
「はい!大丈夫です。」
「よぉ!英雄!お目覚めかぁ?」
コーヒーカップを両手に一つづつ持ってジェイムスさんが入ってきた。
「ジェイムスさん、何言ってんすか?」
コーヒーカップを一つ押し付けながら
「ふぅ〜お前さんこそ何言ってやがる。聞けば魔化オーガも出て来てたんだろ?」
「でも、最後は持ってかれましたよ?」
「知ってるよ。」
本当に苦笑いだ。しかも恐らくミラ姉さんだろう。あんな大火力打てる人はそうそうはいない。
「でもなぁ、今からあんなバケモンと張り合ってどーすんだ?それよりお前の指示と踏ん張りのおかげで、騎士団やセカンドが間に合ったんだ。」
それはそうかもしれない。けれどまだまだ力不足なのを痛感させられた。
俺が忌避している『魂魄憑依』も使いこなせていれば、もしかするとこんな無様な事にはならなかったのかもしれない。
ジェイムスさんは考え込んでいる俺を見ながら続けた。
「お前さんが何を抱え込んでいるのか分からねぇけどよ、文句を言う奴はこの村のみんなが許さねぇよ。だってお前、お前のお陰で村のみんなは無事なんだからな。ん…どうした?」
一度上げた顔をまた下に向けた。やばい、涙が出そう。良い人だ。この人絶対良い人だ。
「次に何かあっても絶対駆けつけます。約束します。」
「おぅ。約束だぜ?次は指名を入れてやんよ?」
「今日はゆっくり休んでいきな。ささやかだが、宴会も準備させてるしよ!」
「そんな!良いんですか?」
「もうすぐ春の祈願祭だ。ちょっと前倒しするだけだから全然問題ねぇよ。そもそも村がなくなっちまってたら元も子もなかったしな。それとコレも預かってる。セカンドの2人組からだ。」
メモを渡された。3行だけ書いてあった。
『今日はここでゆっくり休みなさい』ミラ
『また特訓だな!あと武器と盾は持って帰るぞ。魔素溜まりは払っといた』ヴェール
最初から見られてたんじゃないのか?と言う疑念を抱きつつ、もう一つの懸案事項を聞いた。
「あのー騎士団の方は?」
「お前の治療が終わったら直ぐに撤退したぜ?何でも王様とハンターギルドに報告するんだとさ。」
「そうなんですか…。」
「なんだぁ?あの団長さんか?」
「えぇっと…」
「何だ図星か?」
「良いねぇ…青春だねぇ。」
「うちの村にも年頃は何人かいるがアレには及ばねぇしなぁ…」
「ジェイムスさん!」
「まぁいいさ、祭までゆっくりしてな!」
ガハハハと笑いながら部屋を出て行った。
本当に気さくで良い人だ。そのまま闇の帳が降り、祭りの幕が開ける。飲みすぎない程度にエールを呷り、料理に舌鼓を打った。そして楽しい夜は速やかに更けて行った。
次からは新章です。
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