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五章 ➓ ミョルニルの槌と新装備

 皆んなの怒りが大気を震わせている。


 もう、この無法者達は逃げられないのだ。


「面倒だから全員でかかってきて下さい。


 因みにそっちは好きな獲物で構いません」


「あぁ!?ふざけやがって!!」


「おい!お前ら!!止めるなら今の内だぞ!?」


 誰も声を発しない。


 冷たい視線だけが突き刺さる。


 唯一シンシアさんとラムさんだけは二人で手を握り合って不安そうな顔をしている。


「はっはぁ?こいつ死んじまうぞぉ?こっちは真剣だからな?」


「おっおい!おめーら止めねーのか!!?」


「いいから、始めよう」


 俺はこいつらの煽りを断ち切った。


 しかし、腐ってもサードだ。


 練気剣位は習得しているかもしれない。


 こっちの獲物は木剣だ。


 油断なく遠慮なく行かせてもらおう。


『魂魄合一+覇尽剣』


『ふ…ふふふ…。


 この愚図らに天誅を与えてやらん』


 やばい…中の人、えらいやる気だ。


まどか


 ぽたーーーーーーーーーーーーーーーん


 波が俺を中心に広がる。


 それとは別に四人に圧を加える。


「「「「!!!」」」」


 動いた。


 一人は大剣、一人は短剣を二本、一人はロッド、一人は杖の先から魔力を放出し槍に見立てる。


 相手の武器一本一本に濃縮したエネルギーを感じる。


 だから何だ。


 こちらはその倍以上のエネルギーを濃縮した木剣だ。


 何も恐れることは無い。


 今は斬れ味よりも、どれだけ剣に濃縮したエネルギーを纏わせれるかだ。


 脳筋的な考えだが、力量に差があれば力押しなど造作もない。


 一薙ぎした。


 覇尽剣の濃縮され尽くしたエネルギーが、はじける暴風となって奴らを壁に容赦なく叩きつける。


 大剣持ち以外は全員意識を失っていた。


 這い蹲っている戦士の目の前に立ち、木剣を突きつけ、顎を剣先で持ち上げる。


「死ぬまでやる?」


「ご、御免なさい…許してください」


 シンシアさんとラムさんは漸く笑顔を見せてくれたが、何故かこの後シンシアさんからギルマスと俺は正座で怒られた。


 ◆◇◆◇◆◇◆


「ギルマス〜こいつらどうします?」


「あぁ、取り敢えず独房に入れておいてもらっていいかなー」


「了解しましたー」


 ゴドフリーさん達が、両手両足を持って地下に消えていった。


 俺は当初の目的であった、振り込まれた金額を聞きに行った。


 でも…シンシアさんの態度がおかしい。


「あの、レン君…さっきのは?」


「ん?」


「ほら!さっきの…大事な人って…」


「あー!このギルドにとってめちゃくちゃ大事だよね!」


「………」


「ん?」


 何だろう?


「レン君…ちょっと目を瞑って…」


「はい」


 何だろう?


 このオーラは…


「顔をこっちに突き出して…」


「はい」


 でも、抗えない…


 パシィィィィィィィィン!!


 ギルド内の皆がその一部始終を観ていた。


 結局ラムさんが金額を教えてくれた。(500万マルカ)


 ◆◇◆◇◆◇◆


 あの後、必死に謝り倒して今度ご飯を誘うって事で決着した。


 それから、真っ赤に腫れた左の頬を撫でながらミョルニルの槌に辿り着き、親方と話をしながら装備することにした。


 さすが鬼神武具一揃え。


 なんかこれだけで十分上位種と戦えそうな気がした。


 しかし、なんかテイストが今迄の騎士系ではなく。


 何というか、一風変わった装備となった。


 それは受ける事より躱す事を主眼に置かれている作りで、回避後の一撃。又は攻撃の前の攻撃を可能にする為の作りだ。


 つまり、面ではなく段の作り。


 金属の面は、鎧に組み込めば組み込むほど着用者は動きづらくなっていく。


 けれど段は最低限の面は残し、上からか少しずつ下に被さる仕様となり鬼神の筋肉の強靭な繊維で縫合している。


 そして、ほんの少しずつ縫合部に甘さを残している為、面で覆うより可動域が妨げられず、動きに柔軟性と速さを載せる事ができる。


 材質が最上位種の魔物なだけに、基本的に防御力は高め。それに高速再生能力がついているので、貫通されても武具毎体が癒えてしまう。


 つまり、常に中級の回復魔法が俺と武具にかけられている状態だ。


 これなら一度武具自体が正常時を記憶してしまえば、最初の作りは維持される。


 後は『鬼力きりき解放』という能力が備えられているらしい。


 親方の『鍛冶屋の直感・極』というスキルで詳しく鑑定してみると、『五感上昇・強』という知覚を底上げする性質らしい。何より、呪われたものでは無いのが大きかった。


 親方曰く、殆どの制限武具アームズは呪いが内在してしまうそうだ。


 どうしても魔物は戦いに負けた時、憎悪の念が体を支配してしまうからだそうだ。


 逆に今回の鬼神のように一切の呪いが無く、祝福さえ感じられる素材は稀有なのだそうだ。


 まぁ、武人タイプだったしな…案外死に際には天晴れとか思ってたんじゃ無いだろうかと思った。


 ただし、どの能力にせよ能力を使っている間中は、精神力のようなものをガリガリと削るらしいので、特に傷も追っていないのにずっと高速再生を使い続けると、早い段階でガス欠を起こすらしい。


 オンオフの切り替えが、最大の課題という事だ。


 成る程、能力を使った場合は短期決戦か…。


 一気に決める必要性があって、決めきらなければ死が待っているという事か。


 あれ?これ呪われてるんじゃ…?


 まぁ、今迄より動きやすいと言うだけで十分何ではあるんだけど。


 と、言うわけで鬼神の一式装備を裏庭で試してみることにした。


 動き易い。それに尽きた。


 今迄あった動きにくさが感じられない。


 勿論、このミョルニルの槌製の防具は、恐ろしく動きやすくなるように設計されている。


 けれど、これは異常だ。


 明らかに、防具を纏っていると言うより服を着ている感覚に近い。


 しかもこれ、時間かかったんじゃ無いだろうか?凄く面倒だったんじゃ無いだろうか?


 何というか、これの代金を聞くのが怖い。


 さて、使用上限を見るために鬼力解放を試してみる。


(高速再生はそもそも無理だ。)


 親方は使用にあたって、念じればそのスキルをつかったり、止めたりする事ができると教えてくれた。


 どの程度念じるのか…軽目にいってみよう。


『鬼力解放』


 フ……ゥゥゥウウファ!!


 視野角が一気に広がった。


 前後左右上下まで見えているようだ。


 足元の虫が動く音さえも拾える。


 女将さんの作った料理の臭いが濃密に伝わる。


 空を漂う風にさえ味を感じる。


 何より、鎧を着た上で裸のような感覚が、頭の先から爪先まで感じる。


 しかし精神力の消費は…あれ?


 あんまり感じない?


 けれど、これを続けていると頭の中が容量限界キャパシティオーバーを迎えそうだ。


「ブハッ!ハァハァハァハァ…」


「どうした?まだ、三秒も経ってないぞ?そんなに消費が激しいか?」


 えっ?そんな馬鹿な…。


 俺の中での使用時間は、軽く数分は超えていた。


 つまり、押し寄せる情報を処理する為に、身体が時間を遅めた?


 これは…この鎧の基本性能と合わさると破格の品なんじゃ無いだろうか?


「おい、レン」


 ヴェール姉さんが顔を覗かせている。


「今のは普段から使うな。切り札にしろ」


「えっ?何で」


「そいつはお前を弱くする」


 ドキッっとした。


 そういう事か…。


 恐ろしく高性能なスキルの上に低燃費。


 使い続ければ、身体がスキルに頼ってしまうのだ。


 つまり、この武具が無くなってしまった場合、俺はきっと発狂してしまうだろう。


 これは一種の麻薬だ。


 スキルに頭と身体が汚染される。


 加えて知らぬ間に心まで蝕まれるだろう…。


「気付いたか?」


 ヴェール姉さんはニヤついている。


「有難う。危ないところだった」


「あ?何お前らだけで納得してやがんだ」


「親方。こっちで話そう…」


 着た感触は試せたので鍛冶場に引っ込んで話そう…


 ◆◇◆◇◆◇◆


「どうしたのヴェール?汗出てるわよ」


 背後から声をかけたミラは、ヴェールが何時も着ているタンクトップの背中が、びっしょりと濡れているのに気づく。


 まだ春も半ばだ。汗が噴き出す程気温は高くなく、ヴェールは龍人だ。多少の暑さで汗をかく事もない。


「あぁ…さっきレンが新しい武具の着心地を試してたんだ」


「へぇ」


「ありゃ…何だ…」


「ん?」


「空間が歪んでやがった」


「どういう事?」


「ほんの数秒何かのスキルをレンが使ったのはわかった。


 その数秒間。


 アイツの周囲五メートルの空間が歪んで見えた。


 全く、それから冷や汗が止まらない


 あれはアタシやお前みたいな、広範囲型のスキルじゃ無いんだろうが、レン自身のスキルによっちゃ化けるぞ。


 特に一対一なら、スキル次第で近接のアタシといい勝負になるかもしれねぇな」


「嘘…」


「あ?そう言えばありゃ通常装備か…?全く…あの親父もとんでもねぇもん作りやがる。


 まだまだ腕上がってんじゃねぇのか?


 制限武具アームズに近い通常装備なんて出来ちまったら、制限武具アームズが一体どんな性能になるのか分からねえ」

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