五章 ❽ 薬師ギルドとリスティ②
賢人会議から解放され、また王の間に戻ってきていた。
姉さん達は直ぐに街に戻ったらしく、ボロ雑巾のようにドレファンさんが打ち捨てられていた。
王様直々に助け起こして
「よくやったドレファン。お主のおかげで世界が救われたぞ」
とか言っている。
どうやら姉達がタイミングよく訪れたのは、ドレファンさんの手によるものだったらしい。
薬丸のパンチ力を姉達の持つパンチ力で抑え、下手に手出しをしようものなら、直ちに勇者や聖戦士の反撃が襲うと分かれば、何処の国も当面は手出しができない。
何故なら勇者や聖戦士は単体で万の軍隊に匹敵するからだ。
さらに、犯人が捕縛されていたのも運が良かった。
ああそうだ。
「そう言えば魔術審問官とは一体何なんでしょう?」
「あぁ、そうだね。その前に…クルムリード公国は魔術大国でもある。
そしてその研究によって得た魔術を使って生活をより豊かにし、更に犯罪などを上手く取り締まっているんだ。
その中で魔術を使って自白の誘導や、記憶の洗い出しなどを得意とする審問官を魔術審問官と呼んでいるんだ。
その腕は優秀で、犯人さえ解って仕舞えば立証は容易いらしく、犯罪率は六ヶ国中最低なんだ」
何とか立ち直ったドレファンさんが答える。
「そんな人達がいるんですね〜。
我が国にはいないんですか?」
「いるんだけど、クルムリード公国と比べるとね。
それに、あの職業は闇術に適性がないといけなくて精神に負担が大きいので、成り手が少ないんだ」
「そうなんですか…そう言えば……シャラムリア神聖国のサルーサ教皇は元気がなかったような…」
「今までは『聖水』の影があったから何かと強気に出れていたのだ。
しかし、今はそれももう消えかけておる。
その上、クルムリード公国の一件。
かなり内政面で不安要素が多くそして大きいのだろう」
王様は冷静に見据えていたのか、こんな精神的に負担がかかるなんて王様なんて請われてもやるもんじゃないな。
ま、今日の所はこれで終わりだろうし帰るとするか。
「では、私はこれで…」
「ちょっと待ちなさい」
ドレファンさんが引き止める。
「えっ?」
「君は報償金も受け取らずに帰る気なのかい?」
「えっと…昨日沢山頂いてますし?」
「それとこれとは話は別だ。現金で用意するかい?
それとも、振り込んでおいたほうがいいかな?」
「あっ、振込の方が助かります」
「わかった。手配しておくよ」
「おお、そうだレンよ」
王様が割って入る。
「はい。何でございましょう」
「先程賢人会議にて話に出たリスティという娘は元気にしておるか?」
「えっ?リスティさんですか?今迄、『聖水』
の一件でかなり心を痛めてたみたいですがもう大丈夫ですよ」
「そうか…うむ、わかった。
今後もリスティと協力して薬丸を軌道に乗せて欲しい」
「畏まりました」
さすが王様だな。一人の研究員まで気にかけるなんて。
「では、レン=ミングルスよ大儀であった。
今後もこのブルガルド王国に尽くしてほしい」
「はっ!」
◆◇◆◇◆◇◆
「ドレファン」
「はっ。如何でございましたか?」
「ふむ。それなりに我が国への忠義もあり、奉仕の精神もある。
機転も利き、後ろ盾も確立してある。何より若い。
文武におけるバランスも良いが、何方も国レベルで影響を与えかねん。
そこが危うい…。
こちら側から誰かつけるか、それとも何かあった際の報告をさせたほうが良いであろう」
「はっ。現状で出来ることとしますれば報告義務を課す程度ではないかと思います。
何故ならレン君についていける程の人材が、私の手元におりません」
「そうよな、あれ程の才能。比肩する方が難しかろう」
「幸い聖戦士候補生でありますので、聖戦士からの報告義務を繰り上げて行わせ、制限武具が出来上がり次第、聖戦士に格上げさせれば宜しいかと」
「ふむ」
「昨日、ミョルニルの槌の店主と話をしてきたところ、制限武具の作成に、おおよそ一月と聞いております。
なので、報告義務を二ヶ月間の間とすればスムーズに移行も出来るかと思います」
「成る程。よし、今日中に通達を出すのだ。
それと、あまり負担になってもならん。
最初のうち、報告内容は極力抑えたもので良かろう」
「はっ!」
「ふむ。ついでだ。他の候補生はどうなっている?」
「は、今ひとつです。特に制限武具の作成素材の調達が難しく…」
「そこへ行くとレンは運が良かったな。鬼神…あれ程の素材。そうそう手に入りはすまい」
「左様でございます。龍に匹敵する素材ですから…。
その戦いにおいてレン君は一度死にかけているそうで相当な激戦だったそうです。
…王?」
「ふむ…いやな……まだ狩人になって一年や二年しか経って居らぬというのに…過酷な生き方だな?」
「王…私も狩人でありましたので一般論を申し上げさせていただくと、彼は異常な部類に入ります。
幾ら何でも一年程度ではまだギリギリ六等星や漸く五等星です。
しかも、ムンティスギルドマスターゼオに聞いたところ、彼はソロ。
異常と言うより偉業の部類です」
「ふむ…私はその様な生き方、請われてもやりとうはないな…」
◆◇◆◇◆◇◆
王城内の転移装置を使い、ムンティスに戻ってきた。
まだお昼にはさしかかっておらず、歩いて薬師ギルドに向かう。
道すがらジロジロと見られたり、こちらを向いて頭を下げる人がポツポツいた。
皆んなで守った街か…そう思うと何だかこの街全てが愛おしく思えてきた。
気付いたら薬師ギルドまでもう一息というところまで来たので、迂回して裏手から入るようにした。
職員専用通路みたいなものだ。
途中で仕切りが建てられていて、横にボタンがあったので押してみると人が走ってくる音がした。
目の前の覗き窓があき、目がチラッと見えた。
カチャカチャっと音がして扉が開く。
「ただ今、ターニャさん」
「レンさん!お帰りなさい」
「まぁ、そんな大した事じゃなかったよ」
嘘だ。けれど心配させるのは本意じゃない。
「本当ですかぁ?」
上目遣いで聞いてきた。
「王様の前で薬の説明をしただけだよ」
嘘はついていない。
王様がいっぱい居ただけだ。
「あれだけの薬ですものね。王様もびっくりしちゃいますよね?」
「そうだね。皆んなびっくりしてたよ。
じゃぁ、今からまた頑張るよ」
「はい。頑張ってください」
外側からの階段で二階へ登った。
研究室の札がかかってある扉にノックをする。すると、どうぞとリスティさんの声があったので中に入った。
中にはリスティさんを含め、四人が作業をしていた。
「おっ、お帰りなさい!」
俺をみるなり、リスティさんが飛びついてきた。
「おっと…た、ただ今。リ、リスティさん?」
バッと離れ、直ぐに研究室続きの隣の部屋に誘導された。
そして俺がドアを閉め終わると、また抱きつかれた。
「お帰りなさい…」
そして、声を殺して泣き始めた。
そっと後ろから手を回して抱きしめる。
何だろうこういうの、ヤバイな…。
二、三分して落ち着いたのか、そっと離れて向こうを向いた。
「ごめんね。いい歳した女が…」
「いえ…。ちょっとビックリしただけです」
もういつものリスティさんに戻っていた。
「それに、いい歳って言っても幾つなんですか?そんなにお歳を召しているとは思えないんですが…」
「それ…聞く?」
「一応」
「二十一よ」
「えっ!全然若いじゃないですか…」
「ほら、おばさんって思ってたんでしょ?」
あちゃー言葉間違えた。
「いやおばさんって言うか、髪まとめてメガネでキリッとして綺麗だし、何て言うか大人の女性だなって…」
「綺麗…大人の女性…」
おっ!ちょっとは?
「私ね、十五の頃からこっちの道に進んだの」
ん?
「それから、ずっと頑張った。スキルのおかげでそれなりの成果もあげて、ケーラ様の下で働ける様になって…」
ん。リスティさんもスキルを持ってるんだ。
だから王様も気にかけてたのか
「でも、この数年苦しかった。
本当に苦しかった。
解き放ってくれて有難う。
私頑張るわ。力を貸して」
「勿論です」
俺が差し出した手に、細いけれどしっかりとした思いの籠った手が重なった。




