五章 ❻ 薬師ギルドとリスティ
あまり天気が良くないのと、持病の閃輝暗点が発症してしまい明日に花見は変更しました。
さて気になる昨晩の続きになるけど、お話の後、王国騎士団やスルートスさんが続々と到着し、俺の制限武具の事について俺、親方、ドレファンさんで話をした。
制限武具自体の制作費は殆どの場合、国と使用者で折半になるそうだが、俺の特殊能力の特異性と、制限武具に付くであろう鬼神のユニークスキル(『再生』か『超速回復』)を鑑みて全額、国で負担となった。
それだけ薬の開発は重要で、国民が死ににくくなればそれだけ税収も増えるそうだ。
それに『聖水』の高騰で、ポーションを買うことができなかった一般市民に薬丸が広がれば、薬税から国庫が潤うという二段構えだ。
はっきり言って、制限武具の製作費位で考案者の命を守れるようなら安いものだ、とドレファンさんは見積もったのである。
と、言うようなことを直接俺に話してくれた。
まだ会って間もないというのに、かなり気に入られた感じがする…。
そして今日は朝一から薬師ギルドの方に来ている。
カランと薬師ギルドの戸を開く。昨日より更に人がいる。薬師や商人だけではないみたいだ。
昨日、リスティさんがこちらで研究などを始めると言う話だからだ。
「こんにちは〜。」
「あー!レンさーん!!」
俺の事を見つけるとカウンターから身を乗り出して手招きをするターニャさん。
すると、何時もは見かけないお客さんがスススッとこっちに近付いてくる。
「申し訳ございません」
ピシャリと常連さんと俺の間にリスティさんが割って入る。
「申し訳御座いません。こちらの方は今からお話が入っておりますので…
ではどうぞこちらへ」
二階の応接室へ通される。
そこに、ターニャさんも連れて来られる。
リスティさんがターニャさんへ向き直り、メガネをクイッと上げる。
「ターニャさん、大変申し訳ないのだけれど、今後、ギルド内でレン様の名前を呼ぶ事を控えて頂けますか?」
「あっえっと…私…」
おっと…ターニャさんが凄く困ってる。
ちょっと止めないと…と思っていたらベルドさんが入って来た。
「リスティ。ターニャには僕から話しておくから、今日のところは勘弁してくれ」
「ベルド先輩…分かりました。お願いします」
「ターニャ。こっちに来てくれ」
カチャっと音がして扉が閉まった。
「レン様。少しお話があります」
あー俺にもですか?
「はい」
「ちょっとお掛けください」
するとターニャさんは、隅っこの黒板を引き出して来た。
「昨晩ですが、隣国で真光聖教排斥運動が始まりました。」
カッカッカとチョークで黒板に文字を書いていく。綺麗な字だ。
「えっ!?」
「かなりの広がりを見せているようで、恐らくこのブルガルド王国にも、入ってくるのではないかと見られています。
行われたことは、教会の焼き討ちです」
「そんな…」
「幸い早い段階で火は消し止められ、死者はでなかったという情報が有りますが、実際どうかは分かりません」
真光聖教側も現在は冷静に対処していますが、強硬派からは『一光戦』の発動まで議題に登ったそうです」
「せ、『一光戦』!?」
「先ずはざっくりと、真光聖教とブルガルド王国国教の概要と関係をお話しすると、
真光聖教は各国に根を降ろす宗教ですが、その強固なまでの一神教の形が、元々各国にあった宗教や慣習と対立を深めているのが状況です。
なので、世界に根は降ろせても国教としている国は一国しか有りません。
このブルガルド王国は多神教で有り、主神を始め十二の神を祭り、主に主要六神の中のいずれかを崇めますが、其々の神も崇めます。
隣国も全くと行って良いほど似た宗教観を持ち、ブルガルド王国と非常に良い関係を数百年以上続けています。
そして『一光戦』とは、そう言った土着の宗教や真光聖教に属していない人々からの攻撃を受けた時、一つの神の名の下に、真光聖教に属する全ての人々の力を持って、戦いによってその土地を支配し、宗教から慣習までの一切を真光聖教に上書きする事です」
「えっ…ぇぇぇえええええ!!?
そっそれって凄く危険な……」
「そうですね。けれど何故これまでそんな宗教が各国に入れたかと言うと、昨日議論にも登りました『聖水』のお陰です」
「そこで『聖水』!?」
「そう。『聖水』は正しく神の如きモノでした。
ポーション精製に絶対不可欠なのですから」
「じゃぁ…俺が思っていた以上に…」
「話はそれだけで終わらないんです」
まだ続くのか…かなり根の深い話だな…
「実を言うと、薬師ギルドは真光聖教から脅されていたのです」
「えっ?」
「ポーションの製造方法と、高レベルの薬師さえ手に入れられればお前達は無用だと…」
「酷いな…」
「その都度、私達は『聖水』の値段の吊り上げを飲んできました
それでも何とか薬師ギルドの結束を固めていましたが、それでも少しづつ薬師ギルド以外のポーションも出回るようになって来ていました。
私も本部の技術研究員として頑張りました…。が、力及ばずいつになっても『聖水』の代わりになるものは作れませんでした」
もう、説明というか独白になっている。
しかも所々嗚咽が混じってる。
聞くに…耐えない。
「もう限界という所まで来た矢先、白丸と言う使用される薬草も容易に手に入る『聖水』の代替え品となるレシピをが持ち込まれたと聞いた時、私は歓喜の次に自分の無力さに打ちひしがれました」
この人は…何というか…真面目なんだな。
「そして、この薬の欠点を見極めようとレシピの検証を直ぐに行いましたが…逆に火の打ち所のない成果に、自分の浅ましさに気付きました」
もう泣いている。スッと彼女の前に立って肩を抱き寄せる。
「!!?」
ビクッとリスティさんは身を震わせる。けれど直ぐに任せてくれた。
ちょっと間をおいて、「大丈夫です」と言って離れた。
「続けます。
昨日の会議の中で、私は最初若い狩人から齎されたと知った時、偶々スキルに恵まれ、しかも真光聖教の様にがめつい人間なら幾分救われると思いました」
一旦啜り上げる。
「でも!その狩人さんは、この街の防衛に先陣を切って戦って、鬼神とか言うもう私では何のことかわからないくらいの魔物と戦って、でもまだ武器をとってこの街を助けるとか仰られました!
その時、完全に負けたと思いました…。
そして、私はもう薬師を引退しようとも思いました」
「えぇ!!?ちょっ!!」
待ってください。いや本当に。
「でも、直ぐに私に仕事が舞い降りました。
その人はこの薬の開発や量産、販売全てをギルドに委託すると仰られました。
然もロイヤリティも多く求めずにです。
昨日、ケーラ様は王都へ帰還される間、馬車の中でずっと静かに泣いておられました。
私もそれを見て涙が止まりませんでした。
そして昨日の深夜、隣国の薬師ギルドからもたらされた情報を精査して、緊急事態という事から夜明けと共にこちらに転送陣を使用して来ました」
「良いですか?レン様。
あなたは今非常に危うい立場にあるという事を自覚して下さい。
何故なら、ブルガルド王国もギリギリの判断を迫られているからです」
「それはどういう?」
「今、レン様の白丸などのレシピの公開をすると、これまでの経緯もあり真光聖教弾圧が世界各地で起きる可能性があります
それに対して真光聖教は『一光戦』によって応じるでしょう」
「それは…一つの宗教による世界同時多発戦争じゃないですか…」
「はい。各国の諜報機関は既に動いています。
昨晩の段階で我がムルガルド王国支部にも何件も問い合わせが入っております。
そう、隣国では無く我が国のです。
我が国に寄せられている案件が、隣国より圧倒的に多いのです。
もう、何らかの事情を掴んでいるのかそれとも流された情報を掴んでいるのか分かりません。
けれど…
「失礼する!」
バンッとドアが開き、ファティナさんが厳しい顔で立っている。
「私はファティナ=フォンバーグ=ブルガルド。王国騎士団、銀の薔薇騎士団の団長です!
二等星狩人レン=ミングル。大至急登城されたし!!緊急の事案につき、転移陣の使用も許可する!!」
おっと…。
ちょっと心が追いつかないな…。
話が飛躍してる…。
「ふぅぅ〜」
「返答はいかに?」
「畏まりました。けれど登城するには衣服が御座いません」
「それは王城にて用意する。その身一つで登城せよ!!」
考える暇もないらしい。
「はい」
「レン様…」
リスティさんが何か言おうとしてる…
「話の途中で御免。どうも行かなきゃならないらしい」
「ん〜〜〜」
何かいい案はないかな…あっ!
「あ、あ〜薬の事頼みましたよ?」
「はい!」
決意に満ちた目だ。良かった。
直ぐに一階へ降りた。
「ちょっとだけいいですか?」
「手短になら…」
さすがファティナさんだ。
出掛けにターニャさんの所に行った。
「今日はごめんね?俺、何の考えもなしに入って来ちゃって」
「いえ、今やレンさんは薬師ギルドの救世主なのに…それを気付かずに…私…」
「いや、大丈夫だよ。気にしてないから。
じゃぁ又明日ね」
カラン
何時もの軽快な音がやけに重く感じた。
自分でも分からないくらいどんどん話が飛躍していってます。レンはいつになったら龍人の里に行けるんでしょうか?




