五章 ❸ 薬師ギルドと聖戦士候補
全員が口を開けている。
「それはこれです」
一枚の紙を取り出す。
「それは薬の包み紙ですか?」
リスティさんが、眼鏡の端を持ち上げながら聞いてくる。
「はい。保湿紙です」
「「「「「「保湿紙?」」」」」」
「どうぞお手にとって下さい」
皆が触る。
しっとりとした感覚が指に伝わっているようだ。
「はい。丸薬は調合後一定の水分が含まれた状態だと、ポーションと同程度の即効性を生み出します。
そこで、乾燥を抑えるこの保湿紙であればその点を改善できます」
「勿論、この保湿紙は紙ですので、大量生産が可能で別の用途にも使えます」
「「「「おぉ!」」」」
「そして…。」
「ま、待たれよ!まだ何かお有りか!?」
ドレファン宰相は、驚きに次ぐ驚きで逆にウキウキしている。
「そうです。保湿紙はオマケなので」
「何と…」
「コレです」
紫色の丸薬。
「こ、これは?」
「はい。全快とまで行きませんが三分の一程度魔力を回復する薬です」
「「「「「「えぇぇ!!?」」」」」」
「先日ハンターズギルドから発布された緊急クエストに置いて、私は魔穴の封滅を数多くこなしました。
その魔穴の近くに自生していた草の内何種類かが、その魔素を吸って尚元気に育っていました。
その発見から、もしかすると私が見つけた何種類かの草は、特定の条件、つまり魔力や魔素をその身に受ける事で薬草化するのではないかと思い至りました。
そしてつい先程、摘んできた草数種類に魔力を与えて見ると全て薬草化しました。
それを元に黄丸を参考に調合し、私自身で試したところ、主に魔力の回復が見られました。
これはまだ実験段階ですので、もう少し研究や治験が必要かと思いますが、今日これを持ってきたのはこの研究を薬師ギルドの方にお願いしたいと思ったからです。
まぁ理由は、私自身狩人なので、そちらを優先させたいからです」
「な…なりませんぞ!そのような事!」
堪り兼ねたように割って入るグールズ司祭長。
「元よりポーション以外で回復なぞ出来ようはずも御座いません!それは神の御加護の発露たる『聖水』を使っているからです!
そしてその神性を侵す『丸薬』など以ての外でございます。
この様な下賎な薬、真光聖教では認められません!」
かなりご立腹だ。
でもなる程、何となくわかってきた。
協会は『聖水』を独占ができなくなる事で、権威の失墜と収益の低下を恐れてるんだな。
けれど王国は、長い間魔族と交戦中。
只でさえ高値のポーションを、かなり安く同程度の質の薬に置き換える事が出来るのなら、そちらに乗り換えた方が国庫も潤う。
そして薬師ギルドとしては真っ向勝負を挑んできている。
薬師ギルドの総意とまで言ったんだしな。
恐らく相当な賭けに出たんだろう。
そして賭けに出なければならないほどの何かがある。
ここで鍵になるのはブルガルド王国か…。
一体どう言う案を持ってくるのか…。
「そうですか…しかし、聖戦士候補ともあろうお方が考案して、既に実用までされておられる。
その様な薬が違うはずもありますまい?」
「まっ…まだ聖戦士候補ではないでしょう!確かに聖戦士や聖戦士候補はその王国の預かりとなりますが、レン殿は要件を満たしておられるのか!?」
「聖戦士候補と預かり、そして要件…とは一体何のことでしょう?」
「おぉ、そうですな、お話ししておきましょう」
ドレファン宰相が、スルートス宰相補佐官を見る。
「では恐縮ながら私がご説明させて頂きます」
とスルートス宰相補佐官が一歩前に出て始める。
「先ず、聖戦士の素質ありと認められたものを、ギルドマスターがギルドマスター権限において申請し、国が認めれば聖戦士、又は聖戦士候補として扱われます。
そして、その聖戦士、聖戦士候補の様々な事案の処遇に対して一切の責任を国が負います。これが預かり。
最後に要件ですが、二つの内どちらか一つでもあれば候補として、どちらもあれば聖戦士と認定されます」
「その二つとは?」
「特殊能力と制限武具で御座います。」
「特殊能力につきましては昨日の試合に置きまして、私に与えられている『聖選の瞳』が発動しております。
間違い御座いません」
ファティナさんが挟んでくる。
俺の特殊能力?『聖選の瞳』?何それ?いつ使ったんだろう?
「その場にはゼオ殿もおられたのでしょう?
私としましては、信じ難いものがありますな?」
グールズ司祭長が疑念を呈す。
「なっ!それは『聖選の瞳』がゼオ殿の特殊能力に誤って反応したと!?」
「いえいえ、かような事は申し上げておりませぬ。
『聖選の瞳』を使うファティナ様が対象を間違う事も有りましょう。
なので、宜しければ直に見せて頂きたいものですなぁ」
恐らく特殊能力をでっち上げだと思っているのだろう。
けど、特殊能力何て使った覚えないんだけど?
「レン殿…昨日使った特殊能力を披露して頂けませんか?」
そう言いながらファティナさんは立ち上がり、『聖選の瞳』なる掌サイズの平たい鏡を卓上に置いた。
「申し訳ございません。ファティナさん。
なんの事か分からないんですが?」
「「「「「「えっ?」」」」」」
皆が言葉を失った。
「はっ…!はっはっはっ!ほぉら御覧なさい!聖戦士候補など片腹痛い!!」
「そ…そんな…」
ファティナさんが項垂れて椅子に座る。
「でも」
「はっ?」
「昔から使っているものなら…」
スッと席を立つ。降ろすのは異国の戦士。
『魂魄合一』
侍と意識が合わさる。
裂帛の結界が生み出される。
反応して『聖選の瞳』が輝き震えて、スキル名を映し出す。
しかし、輝きが異常過ぎる。
皆、圧に気圧されながらも『聖選の瞳』から目が離せない。
「こんな感じですけど…?」
『魂魄合一』を解いてファティナさんに聞いてみる。
「こっこんな…?」
ファティナさんは『聖選の瞳』を凝視している。
「どうしたんですか?」
『聖選の瞳』には一つのスキルの下に三つのスキルが浮かんでいた。
魂魄合一
・武門の誓願
・法師の深慮
・薬師の叡智
「今、恐らく『武門の誓願』をお使いになられていらっしゃいませんでしたか?」
「いやー。昔からそんな事考えてもいなかったので」
「昔と仰いますが、一体いつから…?」
「物心ついた時には使えてました」
「でも身体に負担がかかって使ってなかった。」
「こっこのっ!法師の深慮とは!!?」
ジェームズ司祭が瞬きを何回もしながら聞いてくる。
「あーそれは…神様を呼出す術とか言ってました」
「はぁ!?かっ神!!?呼出す!??」
グールズ司祭長が叫ぶ。
「昨日戦った鬼人と蛇人が、変な方法で力を練り上げていた時。神様を呼び出してそれを阻止したんだけど、それでも鬼神になったからなー」
「それでは…止めれなければ鬼神以上の何か
が…?」
マクレイルさんが青ざめている。
「あー生まれてたかもしれない」
一同絶句した。
『神を呼び出した』と言う事実と『鬼神以上の存在が生まれていたかもしれない』と言う二つの事実にだ。
「そ、その…もしや、この様々な薬は…この薬師の叡智が…?」
薬師ギルド統括のケーラさんが口を開く。
「ん〜何となく心当たりがあります」
確かに薬を作っている時、傍の誰かが指導してくれている感じがする。
最後にファティナさんが聞いてくる。
「勿論戦うときは…」
「全部じゃないですけど大体武人と一緒に戦ってますね」
「今のレン殿の話を聞いて推察すると…」
ドレファンさんが、信じられないと言う顔をしながら話し出す。
「レン殿は場合に応じて三体の人格の中から選び、それと意識を同調させる事で破格の力を引き出しているのでは?」
「そうですね。大体そんな感じです」
「これは確かに…特殊能力…」
「あと、制限武具なんですが、多分一月か二月位で出来上がります」
「「「「本当ですか!!?」」」」
「工房は何方ですか!?」
スルートスさんが聞いてくる。
「『ミョルニルの槌』です」
「制限武具マイスターのですか…」
「制限武具マイスター?分かりませんけど、下宿してますから」
「あぁ…そうなんですね…素材は何を使われるのですか?」
「鬼神です。今回倒した鬼神を使うことになっています。今朝決めてきました」
「お早いんですね?」
リスティさんだ。
「ここ数日で一気に磨耗したのと、最後の鬼神戦で壊れましたから、今手持ちの武具がないんです」
「そんなに戦いがお好きですか?」
リスティさんの表情は何処と無く暗い。
ケーラさんは何か知っているのか目を伏せる。
「そんなことはないんですが、もしまたムンティスが襲われたら直ぐに戦えませんから…ここには守りたい人が沢山いるんですよ」
「あっ…も、申し訳ございません」
リスティさんは何かに気付いたかのように顔を上げ、口に手を当て顔を赤くして俯いた。
「いえいえ」
何かあったんだろうか?
その一連の流れを見ていたドレファンさんが意を決したような顔で口を開く。
「これはもう聖戦士候補ではなく、聖戦士扱いでも良いくらいですね?
では、ここで決めさせていただきますが、レン殿をブルガルド王国聖戦士候補として正式に認め、レン殿考案の丸薬については、このムンティスにて研究と治験を薬師ギルドにて行い、害や強い副作用等が認められなければ随時採用していく事としましょう」
「なっ!?そっそれは早計では!!?」
グールズ司祭長は喰らい付く。
「いえ、レン殿のスキル、人となりを私が総合的に判断させていただきました」
そして、席を立ち、胸からシンプルな一本の鍵を取り出す。
その鍵を目にした全員が席を立ち頭を垂れる。
俺も慌てて従う。
「ブルガルド王代理として、王鍵に誓います。
このブルガルド王国にとって、レン=ミングルは国益に適う人物である事間違い無しと!私ドレファン=ブルードの名に懸けて!!」




