五章 ❷ 薬師ギルドと会議
なんやかんやとお昼を回っている。
俺はカランと薬師ギルドの戸を開く。かなり人がいる。
薬師や商人だけではないみたいだ。
「こんにちは〜。」
「あー!レンさーん!!」
俺の事を見つけるとカウンターから身を乗り出して手招きをするターニャさん。
常連のお客さんはひそひそと小声で何か話してる。
「あっはい。どうしたんですか?」
「どうしたんですか?じゃないんです!」
「えっ?」
「昨日の夕方から医師の方や、商人の方からどんどんレシピの開示要求や発注要望が…」
「おっと、そこから先は私がさせてもらうよ?」
話が終わったらしいベイルさんが慌てて奥から出てきた。
「じゃぁこちらに…。」
誘われて応接室に通された。
「レンさん…先日レンさんから齎された例の黄丸、青丸、赤丸、白丸、喉飴何ですが…」
「はい」
「恐らく昨日、狩人の方々に渡されたのだと思いますけど、そこから街の薬師の方へ問い合わせがあり、予想以上に反響があっておりまして…」
「ありゃ〜」
「昨日の内に王都の薬師ギルドムルガルド王国本部に通達を出しまして、もうそろそ薬師ギルドマスター統括がお見えになるという事です」
「うわ〜。帰ります」
「待って!」
袖を掴まれた。
「どちらにせよ、こちらから『ミョルニルの槌』へ使いを出す手筈だったんです」
「えぇ…」
コンコン
「どうぞ」
キィと音を立てて扉が開く。
ターニャさんだ。
「ギルマス!お見えになられました!」
「なに!?」
「二階の応接室にお通ししております!」
「わかった。すぐ行く」
直ぐに二階の応接室に向かう。
コンコン
「入りなさい」
柔らかく優しい女性の声だ。
中に入ると、身分の高い身なりをしている男女が八人、円卓に腰掛けていた。
その中にはファティナさんとマクレイルさんも混じっている。
ん〜差し詰め、其々の要職と補佐官だろう。
「私、ムンティス薬師ギルドマスターをさせて頂いております。ベイルと申します。」
「お初にお目にかかります。
昨日、二等星の等級を承りましたレン=ミングルと申します」
「はい。存じております。
先ずはお掛けください。」
促され、空いている席に座る。
「しかし、レン殿のご活躍。
もう、私の耳に届いておりますぞ。
昨日の魔族による災害級のスタンピードを打ち破り、更には勇者、聖戦士と共に伝説の鬼神を討ち取った英雄であられるとか…」
中年の貴族風の男性が、にこやかに微笑みながらバリトンを披露する。
「何と!?
それは誠ですか!?」
こちらはでっぷりとした、聖職者風の男が頰に汗を伝せながら驚く。
「はい。ですよね?ファティナ様?」
「はっ。嘘偽りは御座いません。
ハンターズギルドの規定により、二等星に落ち着かれましたが、実力はゼオ殿に匹敵するかと感じております」
「そっ…それは言い過ぎでは?」
でっぷりとした男は何故か焦っている。
「いえ!昨日、勇者のセリア様、聖戦士のヴェール様、ミラ様立会人の元、ムンティスハンターズギルドマスターのゼオ殿と試合をされている所を拝見させて頂きましたが、正しく強者の戦いでございました。
試合後、私はゼオ殿とお話しをさせて頂きましたが、一年後には抜かれているかもしれないと仰っておられました」
「立会人に勇者!?聖戦士!?紫電のゼオ殿の試合!?」
「レン殿は勇者殿や聖戦士殿とどういったご関係なのか…」
ここで中年の優しそうな女性が語りかけてくるが、コレもファティナさんに奪われる。
「はっ、私の伝え聞くところによれば、孤児であるレン殿は、幼少より勇者殿や聖戦士殿の保護下に置かれ、日夜鍛錬を積まれたと聞いております!」
「何と!!?正しく聖戦士と成るべくして育てられたと申されますか?」
態とらしく、貴族風の男性が持ち上げる。
「そうは申しませんが、歩まれている道は聖戦士のそれと存じます。
更に、このお歳で三名、獣人の弟子をとっておられ、先日の功績から、三名は四等星にランクアップされております。
因みに、レン殿は今年十七、お弟子の方々は十六になられます」
「何と何と。これは重畳ですなぁ。
次代の世界を守る剣が、この様な新芽であること。
そして既に、後進も育てておられるとは…
このブルガルドに、この様な吉兆が育っておるとは…私、想像もつきませんでした。」
でっぷり男は混乱して何も言えず、貴族の叔父さんと薬師ギルドのマスターはニコニコしている。
ファティナさんは目が合うとウィンクしてきた。
なんかコレ、おかしくない?
なんか一方通行の様な気がする…。
「さて、本題に入りましょう。
ん。おぉ、レン殿。
我らを存じておられまするか?」
「大変恐縮では御座いますが…」
「いやいや、勇者殿や聖戦士殿が大切に育てておいでになったのでしょう。
それでは私が自己紹介も含めて、ご紹介させて頂きましょう」
えぇ…お偉いさんが紹介とかどうなのそれ?
「私はブルガルド王国宰相ドレファン=ブルードと申します。これなるは補佐のスルートスと申します」
「スルートス=グルーエンと申します。
以後お見知り置きを」
「はい」
一礼する。
私の返事を待って、右手を何かを乗せて持ち上げる様な形で上げる。
「此方の御仁は…真光聖教ブルガルド王国支部司祭長グールズ=モールズ殿で御座います。
そして控えておられるのは司祭のジェームズ殿です」
一礼する。
けれど、向こうはジェームズと言われたニコニコしている司祭さんは頭を下げたが、グールズと呼ばれた肥え太った司祭長さんには一瞥されただけだった。
なんか…態度悪いな〜
「そして、此方は…薬師ギルドムルガルド王国本部ギルドマスター統括のケーラ=ステファン殿。
そして控えておられるのはのリスティ殿です」
今度は左手を上げる。
「新しき英雄殿にお会い出来て大変光栄に思います。
これからもどうぞ宜しくお願い致します」
「お願い申し上げます」
こっちは感じのいい上品で柔らかいお婆さんだ。
おばあちゃんがいたとしたらこんな感じのおばあちゃんがいいなって思う。
そして後ろに立つ女性は眼鏡をしていてキリッとした態度を崩さない。
「そして…」
「あっ、王国騎士団の方々とは面識が御座います」
「おぉ、そうでありましたか。
これは失礼致しました」
えらく腰が低いなぁ。
なんか狙ってる?
「さて、今回レン殿が齎したとされる丸薬と呼ばれる、ポーションに勝るとも劣らない新たな薬についてですが…。
効能については既に聞き及んでおりますが、これが真実であれば我が国のみならず、世界中が騎士団や傭兵団、狩人の育成が進みます。
つまり、魔物に対抗する力足り得ると思われ、:それ程重要のものと、我がブルガルド国では認識しております。
理由としましては一に値段。そして作成段階における難度の低さで御座います。
これまでのポーションは値段が高く、そして材料費と人材の不足から、大量生産に向きませんでした。
そういった理由から前線で使われる事も少なく、特に最前線とも言われる狩人達の間では極端に使われる事も少なかった。
そして、いくつもの命が失われる事が起こっております。特に駆け出しの狩人や高位狩人の被害は如何ともし難いところがございました。
それが一気に解決される事で、百年にも及ぶ長き戦いに終止符を打ち、世界中で平和を謳歌しようでは御座いませんか!」
ふーん。成る程。相変わらず演技っぽいのはこの人の個性かもしれないけど、ポーションは国として結構な懸案事項の一つだったのか…。
魔族との戦いは、領土の奪い合いでもなくただ消費されるだけ、そうすると国力が衰え平和を迎えた瞬間に他国から攻め滅ぼされる。
確か、魔族侵攻時における不可侵条約があるみたいだけど、『魔族侵攻時』だからなぁ…。
もしかすると、ブルガルド王国としてはかなり逼迫しているのかもしれないな。
しかし、真光教の司祭長さんはさっきから汗をかきっぱなしで、落ち着きがない…。
何故なのか…。
「さて、我がブルガルド王国の意見だけでは話が先に進みません。
皆様方にも忌憚なき意見をお聞かせ願います。
それでは、薬師ギルドとしましては如何でしょう?
「はい。これは我がブルガルド王国支部だけではなく世界の薬師ギルドの総意として申し上げます。
私達、薬師ギルドはドレファン様のお話にあった、ブルガルド王国としてのお考えに賛同させて頂きます。
薬師ギルド創設以来、様々な研究がなされてきましたが、これほど高性能で安価な回復薬を見た事はございません。
また、即効性は若干ポーションに劣りますが、取り回しに関して丸薬は上をいっておりますし、飲み切る必要も無いので然程気にもならないかと存じます」
「ほうほう、薬師ギルドとして我がブルガルドに賛同して頂けるとは…更にこの回復薬の御墨付きまで頂けるとは大変嬉しゅう御座いますぞ。
むっ?レン殿?」
皆が一斉に此方を向く。
まぁ手をあげてたからなんだけど。
「発言を…お許し頂いても宜しいでしょうか?」
「この薬の考案・開発者の方からの御意見。止める理由は御座いませんぞ?」
「では…。
先ず、即効性についてなのですが、それに対してアプローチを考えて来ました。」
「「「「「「なっ!」」」」」」




