一章 ❺ レーテの村とオーガ戦
レーテの村、オーガ戦です。
出来れば簡単なご意見、ご感想をお願いします。
櫓の上から俯瞰していたミラとヴェールは、王室騎士団の存在を街中に確認すると、ミラの精霊術『精霊隧道』によりレンが使った丘に落ち着いた。
「森から何か嫌な感じのモノが出てくるわ。」
「あぁ、ありゃオーガだな。恐らく魔素溜まりで強化されてやがる。普通ならフォース程度が相手すんだろうけどなぁ。強化されてるからサードで対処するのが無難だろうなぁ」
「そうね、じゃぁ…」
「待て待て待て!」
「何よ。」
「様子を見よう。」
「はっ?ヴェール、あなた何言ってるの?」
「だから、様子を見よう。」
「阿呆なの?馬鹿なの?幾ら何でも無理過ぎでしょっ!?」
「いーや。そうでも無いさ。それにミラァ、お前さっき隠し事がどうだの言ってたろ?例のアレを観れるチャンスだぞ?」
「えっ?う、うーん。そ、そー…よね…まぁいいわ。」
「もしもの時はお前の精霊弓で一撃だろ?」
「そ、そーよね!一撃で仕留めてやるんだから!」
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「強化されてるな…魔素溜まり…厄介だな…」
取り敢えず、行くか…
『疾風』
「ハッ!」
一撃入れてどの位の実力差か計ってみるか。俺の存在に気づいた魔化オーガの左側から足を払ってみる。
「グゥ?」
入る!?反応が遅い…恐らくあれだ。魔素によって身体能力は数段上がっているのだろうが、そもそもの反応が追いついてないんだな。
ズッ!
「なっ!!」
魔素の影響で反応は追いついて無いのだろうが、皮膚や肉の硬さは上がっていた。
「グ、グゥォォォッッ!!」
「ツッ!」
魔化オーガの右手に握られた、牛の胴体程の大きさのこん棒が横薙ぎに飛んでくる。
『浮身!』
グレイブの腹で受けつつ後ろへ飛ぶ。直後、圧力に耐えきれず意識が飛びそうになる。
吹っ飛ばされた体に意識が追いつくのにコンマ何秒かかったのか、気づいた時には5Mは後方にいた。
まだ飛ばされ中だ。『浮身』を使ってもこの状態だと、まともに受けて耐えれるのは騎士の上位職シールダーか…
「ふぅぅ…」
脱力しながら今回の戦いでは使い物になりそうに無いグレイブを手放し、後ろ受身を取りつつ一回転する。
勢いのままに立ち上がると同時に、カードポシェットから代替武器の太刀を召喚する。
「ヤバイなんてもんじゃ無いな…」
はぁ…今の俺の実力なら間違いなくやられる…。でもあれなら『重ね』の練習には丁度いい。
援軍もゴブリンの殲滅に時間がかかっている。やるなら今のうちだ。
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ゴブリンの軍勢は初段のレイバーンで総崩れになったものの、殲滅するのにまだ時間がかかる。
「中央はそのまま!右翼、左翼は逃げ場を塞ぐようもう一撃ずつレイバーン斉射!放て!!」
ドォーン!!ドォーン!!ドォーン!!
「マクレイル副団長!どう見る!」
「はっ!ここまで来れば自陣に乗り込むのも良し、また、マジックポーションを用いてこのままレイバーンの連射を行ない掃討でも良いでしょう。」
「ん、よし!斬りこもう!皆聞け!必ず一騎を追走し手傷を負わぬよう心掛けよ!!行くぞ!!」
「「「「「オオッ」」」」」
私が先陣を切る。後ろにはマクレイルだ。初陣で勝ち戦、だが逃げ場を失ったゴブリンが反撃を行う可能性もあり得る。
けれど、実際に打って出無ければ経験が積めない。正直怖い。だからと言って、王族が尻込んでは誰もついてこない。皆の忠誠を勝ち取らねばならない。
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「おっ!」
「あっ!!」
「油断だぞ、レン。まだ力量の推測が甘い。なぁ…待て待て待て待て!」
「な…に…?」
「ミラっ!早ぇ!早ぇよっ!!」
既に駆動弓を展開して精霊付矢を番えようとしているミラがいた。目が深く暗い何かに覆われている。ヤバイ兆候だ。
「な、なぁちょっと待てよ。」
「何を?」
「その精霊付矢下ろそうぜミラ?」
「は?私のレンが危ないの?分かる?」
やべぇ…コイツ目がマジだ…。
「さっきは納得したじゃねーか?それにまだ一合しか打ち合っちゃいないだろ?」
「…ふぅ、わかったわ、もう少しだけ待つわ。」
やっと、弓を下ろした。マジで打つ気だったな…。レン…何でもいいから早く仕留めろ。アタシでも抑えておける自身がねぇ…。
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『魂魄憑依』
ジワリ…ジワリと背後から何かが滲み寄ってくる。俺の中にいる何かが覆いかぶさってくる。
『代われ…代われ…!代われ!!』
まずい…魔化オーガの吹き飛ばしに気迫で負けてる。奥歯を噛みしめる。頭の中が凍り付く
「オォォォッ!!!」
油汗が滲んでアンダーシャツがベッタリと肌に張り付く。ヤバイな…戦う前からこれだと先が思いやられる…
太刀を握り締める。恐怖が痺れる。力が湧き上がる。
バンッ!
大地を弾けさせて一歩を踏み出す。その一歩は魔化オーガの間合いを易々と突破する。正面だ。
狙いは魔化オーガの右手首。咄嗟に対応しようと中途半端に前腕と手首だけで振ろうとしている。
それは悪し。
右腰に添えるように携え、下段からの切り上げ。手首は棍棒と一緒に真横に飛んでいった。
一瞬。振り切った刃を、左肩に置くように上段で切り返す。狙うは右首筋。動脈だ。
魔化オーガは切り飛ばされた右腕を抑えるように左腕を下げた。もう、何も遮るものはない。
ストン。
首が落ちた。魔化オーガは右腕を気にし過ぎて顔を下げたからだ。
「フゥッハァッフゥッハァ〜。」
全身の筋肉を弛緩させる。が、残心を忘れない。ヴェールの姉さんから叩き込まれた(文字通り)事は体が覚えてる。
そして恐らく、文字に起こせば100文字以上になる今の行動は3秒と経過していない。
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「見ろ!あれだ!っかー!ゾクゾクしやがる!」
「な…何あれ…精霊達が震えてる。」
「速さも!力強さも!!技の冴えも!!!全部が倍以上だ!」
「でも…たった一瞬なのに酷く消耗してる気がするわ?」
「確かにそうだ。まだ欠陥品かありゃぁ。」
「それに…敵さんは一匹じゃぁ無いみたいよ」
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「ん!!?」
「副団長。どうしました?」
ゴブリン達の殲滅も上手く進んでいる。後数分で方がつくだろう。マクレイルさんの様子がおかしい。
「フィアナ様!直ちに撤退を!」
冷や汗?顔色が?豪傑で通っているマクレイルさんが?一体何!?
「ゴブリンの殲滅がまだです。ここで逃げ出す事はなりません!」
「……。では!街の門前へ撤退し、そこからレイバーンで駆逐しましょう!今は少しでも森より遠くへ離れた方が良いでしょう!」
「森に…何かいるのですね!?」
ゴブリン殲滅の指示と殲滅後の指示を出し、マクレイルさんと一旦戦場から離れる。
「私も若かりし頃、闘神から武芸の手ほどきを受けました。その時に得た技でもって、異様な気配を察知しました。」
「そう。では確認だけしましょう。遠目で見てすぐに戻ります。手ぶらでは戻れません。」
「ふー。分かりました。確認だけですよ?直ぐに戻りますよ?」
私は苦笑した。この初老の騎士に全幅の信頼を置いている。だからこそ何が起こっているか確かめねばならない。
次はレーテ村編完結です。
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