五章 ❶ ミョルニルの槌と新装備
新章です。
酷い二日酔いを自分が作った薬でとる。
まったくなんて日だったんだ昨日は…。
緊急クエストをこなして、それから戻ってムンティス防衛戦。
そして、追撃戦の果てに鬼神討伐。
もう、死に急いでいると言われても否定できない。
はぁ〜。
この頃は日が昇るのも早くなった。
それでも流石に昨日の今日だ。
誰も起きてこない。
庭に出て、水を汲んで顔を洗い、体を拭う。
この日課は欠かさない。
そのまま鍛治工房に向かい、武具作成の依頼を発注する事にした。
「親方〜」
「おうレン。もう良いのか?お前酒は強い方だったか?」
「いえ、二日酔いの薬があって」
「ほ〜ぅ。それ、後で俺に分けてくれ。そしたら少しまけてやる」
「本当に!?やった!!」
「あんた…酒は程々にしなよ?」
女将さんが、俺の肩越しに親方に圧をかける。
それはもうとんでもない圧だ。
なんでこんな圧を発する女将さんを気がつかなかったんだろう…。
「お、おぅ…当たり前よ!」
親方ぁ…声裏返ってますぜ…?
「レン、話が終わったら食堂に来な!朝ごはん、その調子なら食べれるんだろう?」
「あっ、はい。でもちょっと遅くなるかもです」
「いいよ、待っといてあげるよ」
「有難うございます」
女将さんにお礼を言って、親方の方に向き直る。
「で、なんだ?まーたブロサイクロプスでも倒してきやがったかぁ?」
「ん〜違うけど見てもらったほうが早いかな。
取り敢えず…庭にいいですか?」
親方は、もう驚かねーぞ?と言う気持ちを体で表すかのように腕組みをしている。
「はっ!」
もうカードを使わずとも空間術を使用出来るようになったから、掌を広げて前に突き出すだけで討伐した鬼神を召喚する。
「なっ!!!」
親方声が出ない。放心状態かな?
「馬鹿野郎!!!コイツは鬼人?いや、鬼神か!!!」
「さっすが親方〜。話が早いわ〜」
「お前って奴は……」
親方何か俯いている。
そして俺の服の襟を勢いよく掴む。
「馬鹿野郎!!!」
俺、ビビる。
「いいかぁ!?こんな風にどんどんつえー魔物を倒すのがお前の仕事かもしれん。
けどなぁ?お前の倒すスピードは異常なんだよ!
覚えておけ!敵を倒す以上にお前自身が強くならねぇと………死ぬぞ?」
背筋がゾッとした。
親方の迫力にじゃない。
昨日、死にかけたことにだ。
親方は何人も…両手じゃ数え切れないくらいの弟子がいる。
親方の弟子の取り方は一人づつだ。
一気に何人も弟子を取らない。
だから、かなり長い時間を鍛治に傾けている。
何人もの狩人に全身全霊の武器を捧げ、けれど帰ってこない狩人。
帰って来れなかった狩人に俺を重ねたのかもしれない。
その人からの戒言だ。
俺は調子に乗っていたのかもしれない。
窓を開けて、ヴェール姉さんが二階からこっちを見ている。
言いたかったのは、こう言うことだったのだ。
どんな力も暴走すれば自壊する。
止め切れなければ破壊される。
運が良ければ誰かが止める。
最後の何かに誰かがならなければならない。
「ごめんなさい…」
「ふぅ〜俺もちょっと言い過ぎたかもな…中に入れ」
「…はい」
親方に続いて中に入る。
窓越しに女将さんとリーンさんが見ていた。
◆◇◆◇◆◇◆
「さて…あいつを使って何作るんだ?
あの図体はブロサイクロプスに迫る。
お前二人分はいけるぞ?」
つい今しがた叱られたばかりで、頭の中が混乱している。
大きく深呼吸して考えを落ち着けようとした。
そこへ、
「親父ぃ。あれは鬼神だ」
ヴェール姉さんが割って入る。
「分かってる」
「作れんだろ?」
「馬鹿野郎!制限武具を作れってか!?
最低でも二等星からだろうが!!」
「あぁ…そうだ。コイツは昨日付けで二等星だ」
「なにぃ!!?」
親方がこっちを向く。
焦点が震えている。
「本当…か?」
「はい」
「お前の得意武器はグレイブだったな?」
「はい」
「今ある武具を出せ!」
「はい!」
直ぐに殆どが破損した武具を出す。
「おま…なんだ…こりゃあ……」
親方の強い眼差しがレンを射抜く。
「昨日の事なんだが……」
ヴェール姉さんが昨日の事を細かく話す。
ここ数日、緊急クエスト発布されていた事。
魔族の手引きによりムンティスの防衛戦が起こった事。
鬼人や蛇人と戦った事。
鬼人が鬼神になった事。
完全制限解除が遅れ、全滅寸前だった事。
俺が割って入り、完全制限解除までの時間稼ぎをして凌ぎ切った事。
その時の攻撃で、武具が破損した事。
親方は必死だったと言う事を知った。
俺が必死で戦い続けたと言う事を知った。
そして瀕死の重傷を負ったと知った。
ミラ姉さんが俺を救ったと言う事を知った。
「さっきは怒鳴っちまってすまねぇ」
親方は頭を下げた。深く長く頭を下げた。
「親方…」
「だからよ、親父、アタシはコイツに最高級の武具が必要だと思ってんだ」
「ヴェール…」
「姉さん…」
「分かった。
まずは、現状の武具の補修をやる。
それから制限武具の製作に入る。
俺の…いや、ミョルニルの槌の総力をあげて最高級の一品を仕上げてやるぜ!
それでいいな!?レン!ヴェール!」
「はい!有難うございます!!」
姉さんも一息ついて、壁に寄りかかっている。
「よし、先ずは制限武具の説明から入る」
「はい」
何だろう…胸が高鳴る。
「制限武具ってのはその性能上、人界で使うには危険がありすぎて、ギルドマスターから制限が課されている武具だ。
もう知ってるかもしれんがな?ヴェール、ミラ、セリアは一等星以上の階級だ。
今、一等星の次の等級、二つ星だったか?」
姉さんは、コクンと首を縦に振る。
「だいたい一等星以上は、特殊能力を覚醒してやがる。
制限武具と特殊能力。
この両方を封じられているから、コイツらは人界では全力を出せん。
そして、片方だけの制限解除はリリース。
完全制限解除をフルリリースと呼んでいる。
覚えておけ。
そして、各々の特殊能力に呼び名があるように、制限武具にも固有の呼び名がある。
例えば、ヴェールの制限武具の『爛れを促すもの』がそうだ。
溶岩龍の素材を使っているから、近づく敵味方問わず燃焼の効果を与え続ける。
更にヴェールの特殊能力『龍の血』はヴェール自体の力の底上げもあるが、ヴェールに流れる炎龍の血を覚醒させる。
「つまり、相性抜群って事か……」
「そうだ、武具自体の効果を引き上げつつ、武具からのダメージを受けない。
使用者と武具の理想的な関係だな。
で、お前のなんだが……
この鬼神は恐らく特殊能力を覚醒させたまま死んでやがる」
「『鬼の血』とか言ってたぞ」
ヴェール姉さんが割り込む。
「『鬼の血』ねぇ……皆目見当がつかねぇ…」
親方もさっぱりそうだ。
ヴェール姉さんが思い出した。
「確か、アタシの完全制限解除状態でも焼かれるそばから治ってたぜ?」
「と、すると…超速再生か……。
レンには丁度いいかもしれん。
死亡確率が大幅に減ると言うことは、それだけでプラス要因だ。
それに、お前が持ち帰った大刀はバガン鋼を鍛えて作ってやがる」
「バガン鋼?」
「魔界の魔樹から取れる鋼材だ。
木ではあるがそこいらの鋼より硬くて燃えん。
恐らく、『爛れを促すもの』の攻撃を耐えたのはバガン鋼だったからだろう。
それ以外の並みの武器なら溶けて蒸発だ」
「はー。凄い鋼材もあるもんですね」
「しかも魔力の通りもいいからな。
取り敢えず全ての武器の芯材をコレにして、鬼神の素材で補強する。
コレで武器自体の再生速度も、ブロサイクロプスの再生力を上回りつつ、自身の再生力も上がるからガンガン戦える。勿論強度も半端ないぞ。
通常の武器と比較する為に、鬼神の素材の含有率を上げ、且つミョルニルの槌の技術の粋をぶち込むから、制限武具を発動した時はとんでもない威力を出すだろう。
まぁ、本番の前に一度試し斬りをギルドマスター公認でやるからな」
「そうなんですかぁ…ヴェール姉さんもやったの?」
「あぁ、そうだな。
ミラとセリアも一緒にやったぜ?」
「そうなんだ」
「一応、制限武具にも等級がある。
ヴェールの『爛れを促すもの』は単品だと、一等星だが、ヴェールが使う事で二つ星に昇格する」
「何で?」
「一番の理由は、ヴェール以外が使えば自傷し続ける」
「あ、納得」
「コレはもう、使ってみなければわからない世界だ。
先に入ったボルドとゴドフリーの案件は、連絡してお前の通常武具だけ先にやらせてもらうが、制限武具は後回しになる」
「はい」
「通常武具は元が残ってるから、二日もあれば出来る。
休暇だと思ってのんびり過ごすこったな」
「わっかりました!」
「じゃぁ飯食って、風呂にでも入ってこい。
それと…薬忘れんじゃねーぞ?」
「はい」
大浴場の無料チケットを二枚貰った。
最後の方は二人とも小声になった。
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