四章 21 アハト山と死闘③
雨が降ったので続きを書いちゃいました。
目の前がところどころでぼやけそうになる。
息をしたのが何時なのかさえ忘れた。
息をついた瞬間に襲ってくる攻撃を許したら死ぬ。
ギィィン!!
極限の緊張の中。
グァァン!!
身体が求める呼吸。
グゥィン!!
してはならない呼吸。
グァァン!!
水上なのに水中ようだ。
ギィィン!!
何故か時が止まった。
………。
違う。身体が止めてしまった。
一歩も動けないと止めてしまった。
大刀が迫ってくる。
もう何も残っていない。
身体も言う事を聞かない。
なのに、両腕が持ち上がる。
グァァァァァァァアアン!!!
急に景色が流れ出す。
あ、ヴェール姉。
セリア姉さん。
ミラ姉さん。
背後から衝撃が襲う。
「グゥハッ!!!
ヴゥッフッ…ガハッ…ハァアーーハァアーー…」
身体が呼吸を開始した。
生きて行く為の当たり前の事が許されない世界。
無慈悲極まりない世界だった。
そこから脱した身体がしきりに呼吸を求めている。
身体中が痙攣してる。
そして筋肉の損傷と断裂。
顔の向きを変えることさえできない。
あぁ…瞼が……お…も……。
◆◇◆◇◆◇◆
「ミラ…セリア……時間は?」
「問題無いで〜す」
「いけるわ…」
ヴッヴッヴッ…。
「完全制限解除もでました〜」
「まぁったくよぉ〜戻ったら…アイツシメるだけじゃ済まさねぇ…」
「モーラ!!回復法術!!!
ルイ!ゾッド!終わったらすぐにレンを連れて逃げなさい!!!」
「あっ…はっはい!!!」
「「ハイッ!!!」」
「行くぞ?」
「は〜い」
「ええ…」
「『爛れを促すもの』!」
「『打ち据えるもの』!」
「『星を削るもの』!」
鬼神が歩みを止める。
「お前よぉ〜…ただじゃ死ねね〜よ?」
「私のレンちゃ…」
ヴォン!!
ッドォォォオオオオオオン!!!!!
アタシとセリアの間を閃光が走った。
遅れてくる衝撃波。
ルイ達は今の一撃で邪魔だと感じたのだろう、回復法術をかけ終わったレンを、レンの愛狼に乗せて退避する。
しかし今の一撃は、アタシとセリアがいるから十分に抑えていたんだろう。
けど、碧い殺意を載せた容赦の無い一撃だ。
直撃の瞬間。鬼神は左腕で受けた。
そして吹っ飛んでいった。
辺りは粉塵で何も見えない。
『爛れを促すもの』を一振りし爆煙を払うと、尻をつき左腕に酷い炎症を負った姿が見えた。
ヴォン!!
ッドォォォオオオオオオン!!!!!
ヴォン!!
ッドォォォオオオオオオン!!!!!
ヴォン!!
ッドォォォオオオオオオン!!!!!
「グガァァアアアアアアアア!!!!!」
レーテの村での出来事をフラッシュバックした。
そして後ろを見ると、漸く一息ついたのか弓を下ろしたミラが見えた。
「ミラ!俺らの分も残しとけ!!お前だけが怒ってんじゃねぇんだぞ!!!」
我に返ったようだ。
右手を立てて謝っている。
そして、すぐにルイ達の後を追った。
大切なもの(主にレン)に危害が食わられた時、その一万倍のお返しをプレゼントしてしまう。
これがミラが恐れられる原因だ。
然も、完全制限解除中のミラは短距離精霊回廊の連続使用が可能となる。
更に様々な特性を掛け合わせた、『蜂の巣』《ビーハイブ》は正に反則級の秘奥義だ。
あれは対策が無ければ防げるものは少ない…。
漸く爆煙も落ち着き、鬼神の様子を見てみると、完全に左腕が吹き飛んでいた。
他の箇所も、鎧は吹き飛び炎症を負って急速再生を行なっている最中だ。
「セリア」
「なーにー?」
「トリはお前な?」
「え〜?」
「色々理由はあるが、アイツの素材をレンの防具にしたい」
「ん〜レンちゃん防御薄いもんね〜」
「そうだ。お前だって今日の様なレンを見たかないだろ?」
「そうだねー」
「そうすると、ラストでアタシじゃあ、あいつを燃やしちまって炭しか残らねぇ」
「確かに〜…」
「お前なら雷と光の付与術使えるから問題ねぇだろ?」
「OK」
「じゃぁ、お先だ」
再生が終わり、立ち上がろうとする鬼神に特攻をかけた。
◆◇◆◇◆◇◆
身体中から力が満ち溢れている。
素晴らしい。
けれど、身体が思考を置き去りにする。
逆は何度か味わった事があるが、こんな経験は全く初めてじゃ。
そして目の前にいる闘神などと呼ばれていた龍人種さえ、今や我が一撃に耐え切れず吹き飛ぶ有様。
しかし、侮りは禁物。
こやつらは伝え聞く『武器』を出しておらん。
今手に持っておる『武器』はそこそこの業物であろうが我が骨に響かん。
つまりは『武器』に非ず。
更に、以前戦った時ほどの重圧も感じぬ。
底が見えぬというのに、こちらは準備が出来ておらん。
さて如何したものか?
ぽっ
ぬっ?
左手に高速で突っ込んでくる何かを感じた。
危ない。もう数瞬間遅れれば、いかに我とて致命傷を負ったかもしれん一撃。
それより何より、この若者が踏み込んでくることを知らせた、小さな灯火があった。
ふっ…輩は、我に飲み込まれた後も我を気に掛けておるのだな…。
そう思うと目頭が熱くなる。
いかんいかん、百を越えれば涙脆くなるものよ。
さて、この勇猛なる若武者を糧として、後ろに控ゆる聖戦士を喰らう為の力とするのだ。
◆◇◆◇◆◇◆
全く、飽きさせぬ。
力の籠めよう、速さ、角度、軌道の変化。
どれを取っても一流。
いや…それを超えておる。
けれど、悲しきは我が強さ。
数刻前までの我が力ならば、良き勝負ができたところだが残念。我は最早その域を凌駕しておる。
けれど、まだまだ身体に思考が付いて行かぬ。
切迫した顔。
恐らく必死の覚悟であろうが…。
もう数瞬付きおうてもらおうかの。
◆◇◆◇◆◇◆
終わりじゃ。
我が圧の高まりと同時に、呼吸さえ忘れておる。
その面も見るに耐えぬほど変色しておる。
そこ迄の開きがあった事とは申せ、我にも必須の事ではあった。
せめて最後は安らかに逝けるよう、持ち得る限りの力を一薙ぎにして伝えよう。
然らばだ。
勇猛なる双剣士よ。
ぬううぅぅぅぅん!!
『やらせぬ!!』『だ…め!!』『だめー!!』
ぬぅ!!?
なっ……!?
今のは何だ?
頭の中に直接殴りかかる声!
あの若武者に宿る何かが、彼奴を護ったか…。
ふっ…あの魔薬とは正反対ではないか…。
片や祖先でさえ子孫の身を蝕むと言うのに、彼奴の方は護られる。
確かに我は力を欲したが、真の幸福はどちらにあるのだろうな…。
いや、今更考えても詮無き事。
自嘲気味に顔を上げると、三人が何やら札を掲げておる。
紅、山吹、碧。
何とも艶やかな色の札から、そのままの色が溢るる。
見入った顔を振れば、そこに武具を纏う聖戦士がいた。
これか…これが『武器』か…。
何と、丁度準備も終わったのだ。
ようやく出逢えた『武器』を纏う聖戦士。
戦さ場に出て、数カ月の後会える家族よりもより恋しいものだった。
むっ?何事か申して…
ぽっ
ぬぉ!!?
◆◇◆◇◆◇◆
何…が…?
大木の根元で奪われた数瞬間を取り返す。
そうじゃ、何やら申しておったことに耳を傾けんとして、油断した所を射られたか。
ぬぅ…左腕が痺れておる。
いや焼け爛れておるのか…。
痺れて如何とも動かん。
何とも忙しいのぉ…。
しかしこの程度…。
一陣の風が視界をよくした。直後。
ゥ
ッドォォォォオオオオオオオオン!!!!!
ゥ
ッドォォォォオオオオオオオオン!!!!!
ゥ
ッドォォォォオオオオオオオオン!!!!!
「グガァァァアアアアアアアアア!!!!!」
おぉぉぉぉ…
ここまで一方的とはなぁ…
まったく…現頭領殿が魔薬を使いたくなる気持ちも分からんでもないわぁ…。
しかし、この身体も頑丈よのぉ…。
あの攻撃を腕一本で凌ぐとは…。
それにその腕も、もう再生しつつある。
これは正しく伝え聞く鬼神ではないか?
…鬼人を突破した鬼人。
幾度もその当時の頭領達と覇を賭けて争い。
時には勝ち、時には負けた。
魔薬を用い、祖なる者共に魂を蝕まれ、異なる光に浄化され、死して尚死線を共にする輩を得て、更なる戦いを求める事で成り得た姿。
同じく神を冠する者が、都合良く眼前に立ちはだかる。
もう何にも誰にも遠慮はせぬ。
地肉の欠片となろうとも、鬼として闘うてやるまでよ!!




