四章 17 ムンティスと防衛戦 ⑤
「なっなんだあの竜巻は!!」
「分かりません。」
「けれど、すぐにお逃げになられた方がよろしいかと存じます」
「何故だ?」
「他の門も全滅したからです」
「馬鹿な!!!」
「使い魔から最後に送られてきた情報ですが…勇者の直系、闘神、精霊砲が潜んでいた模様です」
「なんっ…だとぉぉ!!」
そんな大物が潜んでいるなど思っても見なかった事だ。
逆に考えれば、少数精鋭で来て良かったというところだ。
「フゥ…フゥ…
ん…先程我に逃げろと申したか?」
「「はっ」」
「お前達どうするのだ?」
「私達はここに残り時間を稼ぎます」
「計画失敗は私達の潜行・誘導任務失敗が原因で御座います」
「「お館様はお逃げください!」」
「ならん、お前達こそ逃げるのだ。
ここでおめおめと逃げかえる様であっては、我ら魔族の為に百年もの間、勇者と合間見えておられる頭領殿に申し訳が立たん!
それにお前達は我が子らの覚えも良い。
これから先、あやつらを助け、斗魔族、引いては魔族の悲願を果たすのだ」
「それでこそ、斗魔族の長グルード閣下であられますな!」
「何奴…」
斗魔族は戦闘や、それに付随する任務に特化した一族。主に鬼人、大鬼、鬼が属する。
その長たるグルードの気配察知に引っかからないなど、相当の手練れである。
闇の中に人影が現れる。
しかし、上半身が人間、下半身が蛇という奇怪な姿である。
「蛇身族のものか…我はこの様な話の最中に割って入る様な趣向は好かん。去れ」
確かこの者は、蛇身族族長継承権をもつ若者だったと記憶している。
そして蛇身族は、魔族の中でも狡猾で魔族からも忌み嫌われる部族。
何かしらの企みがあるとしか思えん。
「そうおっしゃいますな。
我が部族が忌み嫌われておるのは重々存じ上げております。
されど、私目も我が親父殿の密命を受けておりますゆえ、どうかお耳を汚す事をお許しください」
「ふんっ、何用だ話だけは聞いてやる
だが名乗りはいらん時間の無駄だ。」
「「グルード様!」」
「よい。これが終われば直ぐに立つ。
具足の準備をしておけ」
「お供をお許し下さい」
「ならん」
「「グルード様!」」
「くどい!!……行け」
「「……はっ」」
二人は立ち、別の部屋へ出向く。
これで良い。
我が部族の者達は我が子も同じ。
未来ある優秀な若者を、死地への共をさせるなど忍びない。
此奴、何か感銘を受けている様な…
「待たせたな。で、何用だ」
「はっ。その前に、私感服いたしました。
流石は魔族一情に厚きグルード殿であらせられますな」
イラっとする。
「世辞はいらん。疾く話せ」
まったく…この様なおべんちゃらは好かん。
反吐がでる。
「はっ、それはこれに御座います」
小さな台の上に紫の包みが置いてある。
頭を下げ恭しく中腰で進み、それを我の前に置いて下がる。
「お主が開いて見せろ」
こやつら蛇身族の得意とするものは闇術、毒術、そして巫蠱術だ。
何が飛び出すかわかったものではない。
「はっ、仰せのままに」
またも恭しく頭を下げ、中腰で前に進み包みを開く。
全身を脱力させる。
側から見れば油断しているように見えるこの体勢は、心に構えが出来ていれば瞬時に動くことの出来る最善の体勢だ。
なまじっか力みを見せれば、相手に緊張を敷き
油断を誘えない。
しかし、杞憂だったようだ。
「なんだこれは…」
「はっ。これなるは『祖霊憑身薬』にて御座います」
なんだこの小さな薬瓶から滲み出る、ねっとりとした雰囲気は…
「これを飲めば一時的には御座いますが、御身に斗魔族の祖霊達が宿ります」
「つまり…」
「斗魔族の祖霊達が培った力と技の全てを出し尽くします。要するに狡をする薬にて御座います」
「そのような薬…あるならば何故ださん?」
「勿論副作用が御座いますし、我が一族の技術の粋を集めておりますれば、大量に作ることは出来ませぬ
そして…現頭領殿も勇者との戦いの度、少量ではありますがお使いになっておられます」
「ぬぁっ!!!!!
ま…まさか、現状の均衡は…こっこの…」
「御慧眼痛み入ります。
そしてこれは源薬。
使えば間違いなく死ぬか、生き残れたとしても心が壊されます。
祖霊達の手によって」
俯いて眼を瞑る。
勿論、魔族は結集して勇者や人族、精霊達と戦ってきた。
けれど、最終的に頭領殿に依存してきた。
勇者は強い。
更に、勇者を支える聖戦士ども。
単純な力だけでなく、特攻武術、魔術、武器、対抗防具を携えて来る。
神は不公平だ。
奴らの成長限界は、魔族の成長限界を軽く超える。
しかも、聖戦士の加護は時を止める。
これでは魔族の長命も何ら利点にはならない。
寧ろ人族が有利ではないか。
これでは魔族は殺される事を義務付けられた家畜ではないか…。
全く神は不公平だ…。
しかし成る程、現頭領殿はこの不公平に抗っておられるか…。
我ら魔族に希望を与うるが為に、絶えず御身を蝕ませておられるか…。
「良かろう。この薬の事を詳しく申せ。
そして問いたい。お主らは知っておったか?
ラムスの街に、勇者の直系等がいると言う事を」
「はっ。存じておりました。」
「ほぅ」
手に力が篭る。
「我が部族は極端に他部族より嫌われておりますれば、情報の連携が滞っております。
我が部族に力をお貸し頂いているパズズ様が、精霊の森にて手傷を負った事、お耳に入れる事叶いませんでした」
「むっ?それは知っているとは言えんのではないか?」
「いえ、そこにいた者共から辿れば、ラムスの街に行き着きます」
パズズ殿が手傷を負ったことは知っていた。
我が斗魔族はパズズ殿の名誉の為、勇者の直系に手傷を負わされたという事、それ以上の事を詮索しなかった。
更にラムス奪還作戦軍議の折、豪魔族が蛇身族を呼ばず、そのまま軍議をなしたラムス奪還作戦司令官たる我が責任か…。
別の意味で手に力が篭る。
魔族の力を結集とはよく言えたものだ…。
「ではこの妙薬の事だ…」
「はっ」
◆◇◆◇◆◇◆
「よし。外の様子はどうなっている?」
具足の着付けが終わり、愛用している大刀を一振りする。
それだけで埃が舞い上がる。
「はっ。この大風穴のある山の麓まで進軍しております」
「ふん。こちらから打って出るか…
では行け。これ以上の異論は許さん」
「「御館様!!」」
「行け…」
魔穴は魔族領の魔穴と直結できる。
しかし、様々な制約があり、更に精霊の加護や輝霊石のある場所へは直結出来ない。
然も、高位の魔族は魔穴自体の力を消費する為魔穴転送を乱用出来ない。
「御武運を…」
「御館様ぁ!私が!私がぁ!!」
泣きながら胴丸に泣きついてくる。
「ふっ…泣かぬ様になったと思えば…。
まだまだよな…それでは我の共は務まらん」
大きな掌で頭を撫でる。
「えっぐ、えっぐ…」
「我は良く生きた。
ここいらで後進に託すも良かろう。
行け、我が斗魔族をより良きものとするのだ」
二人が魔穴の向こうへ消えた。
「えっぐ、えっぐ…」
背後から嗚咽が聞こえる。
「なんじゃ、なぜ泣いておる?」
「ごれで泣がなげればいづ泣ぐのですがぁ!?」
「!!」
「お主本当に蛇身族か?
我の伝え聞くところとかなり違う様だが…」
「はい。それ故に今回の密命を最後に放逐されました」
「なっ!なんと!?」
魔穴は閉じかけている。
「早う飛び込め!今ならまだ間に合う…」
「いえ、良う御座います」
パシュッ
「と、閉じおった…」
それはもう、綺麗さっぱり消えてしまった。
振り返ると、またも恭しく頭を下げ、恐らく得手なのだろう薙刀を、己が前に置いている。
「死出の旅路、お供致します」
「こ、このっ…!痴れ者がぁ……」
怒りが込み上げる。
「名だ…」
「はっ?」
「死地に赴く輩の名も知らんとは恥晒しも良きところよ!
名を名乗れぃ!!」
風穴中に響き渡る様に叫ぶ。
蛇身族だった男は、許されたことに涙を禁じ得ない。
「どうした?申せぬか?」
この怒りの代償に少しだけ意地悪をした。
「はっ!ははぁ!わっ私目は……!!




