四章 14 ムンティスと防衛戦 ②
ワタスキ の方もどうぞ宜しく。
「逃げたね〜」
「すみません。俺が反応していれば…」
「いやー、レン君はきちんとやってるよー?
僕の剣に反応してたしね。
逆にここで足止めしてると、騎士団の方に被害があったかもね」
「有難う御座います」
ギルマスに軽く頭を下げ、騎士団に向き直る。
「で、ファティナさん。これが理由です」
騎士団は動揺している。
まさか、映えある王国騎士団に魔族が潜り込んでいるとはと…。
「静かに…」
ファティマさんが俯いて、絞り出すように声を出した。
騒ついていた騎士団がピシャリと静まった。
「今回の件は、騎士団長として見抜けなかった私の責任です。
ハンターズギルドのみならず、このムンティスを危険に晒してしまい、命を懸けて防衛にあたるつもりです」
「成る程、そのお気持ちは大変嬉しいのですが、命は懸けないで下さい」
「なっ…」
「そもそも、私が彼らを見抜けたのも契約精霊のお陰です。
それに、恐らくですが私は彼らを見ています。
他にも彼らを見ていた人は沢山いる筈です。
もし責任をとると仰るなら、ハンターズギルド全員が責任を取らなければならないですね」
そうだ、それ程までにあのアミュレットによる偽装は優秀だった。
「更に言うと、綺麗な人に死んで欲しくありません」
ギルマス以外の全員が口を開けた。
「ま、今のは半分冗談です…ただ、こんな事で一々責任を負うよりも、これからも頑張って王国の平和を守る事に尽力して頂きたいと思います」
一瞬の動揺は頭に空白を生み、そこに言葉が簡単に書き込まれる。
「くっくっくっ…。うんうん。
良い纏め方だったよー。レン君らしさが滲み出てたよー」
ギルマスのツボに何かが刺さったらしい。
笑いを堪えるのに必死そうだ。
「はぁ…さて、レン君。次はどうするの?」
にこにこしながら問いかけてくる。
恐らく、いざとなったらギルマスが直々に出張るんだろう。
「はい。では騎士団の方々も聞いてください。
いまムンティスは、魔物の軍勢に東西南北を囲まれる形です」
「北門はまだでは…」
「いえ、私の精霊からの情報です。
恐らく先程の二人が用意していたのでしょう」
「くそ!」「あいつら!」「畜生!」
騎士団の面々はそれぞれに悪態をついている。
それはそうだ、今迄信じていた奴らに裏切られたのだから。
「内、北門以外は既に義姉達が配置についてくれています」
「ほぅ」
と、ギルマスがニヤリと笑い。
「義姉達とは?」
と、マクレイルさんが聞いてくる。
「はい。闘神と精霊砲、勇者の直系です」
「「「「「「!!!!!!」」」」」」
騎士団全員が驚いている。
魔族に対する人類の切り札とも呼べる、三人の二つ名が出たからだ。
「なんと!魔王討伐隊の面々が居られるか!」
いつも冷静なマクレイルさんが興奮している。
やはりこの二つ名は大きいみたいだ。
「配置は義姉達に任せていますが、万夫不当の猛者です。
必ず返り討ちにするでしょう。
そして残る北門には、このムンティスに在籍する全ての狩人が詰める手筈になっています。
後は俺、ギルマス、騎士団の方が加われば、何も問題ありません」
ギルマスに魔族を抑えてもらえれば、直ぐにでも型はつく。
そう思っていた矢先、
「あーごめん。僕はね、街の外に出られないんだ」
「えっ…?」
「街の中でなら問題ないんだけど、そうなった時は住民に被害が出ちゃうよね」
さっきギルマスの剣を受け止めたやつの、相手をしてもらおうかと思ったけど無理っぽい。
「さっきのやつの実力はレン君に近かったから、僕を当てにしなくても大丈夫だよ」
おっと、心を読まれた気がする…。
恐らく、街の外に出られない理由があるのだろう。
騎士団から反発の声が上がらないだから騎士団も知っている事なんだろう。
「じゃぁ、北門へ先に行きます。
出来れば協力して戦いたいのですが、狩人と騎士団は犬猿の中と聞いてます。
なので、先頭になったら狩人が右翼を攻撃します。
騎士団の皆さんは左翼を攻撃して下さい」
指揮系統が二つある戦線は、混乱するんじゃないかと思ってのお願いだ。
狩人と騎士団が犬猿の仲どうかは口からのでまかせ。
単純に俺がそう思っているという事を伝えるだけの詭弁だ。
でも、言わんとしている事を察してくれたのか、ファティマさんもマクレイルさんも同意してくれた。
「では、そのように…」
ファティマさんは、団長らしくもう立ち直っている。
いや、内心は複雑なんだろう。けれどこれから向かう所には、迷いは連れてはいけない。
そして騎士団全員を見渡しながら鼓舞する。
「ブルガルド王国騎士団の名にかけて、ムンティスの防衛と、裏切り者の討伐を開始する!各自気合いを入れろ!!」
「「「「「「オゥ!!!」」」」」」
俺は、ギルマスの方へ向き直りお願いする。
「いざという時はお願いします」
「任されたよー、
レン君。こっちのことはいいから全力でぶつかってきなさい。
迷わず、一体でも多くの魔族を仕留める為の最善の行動を取りなさい。」
「はい」
「因みに、緊急事態につき、君の姉上達の制限を一部解放しました」
んん…?何か重大発表がなされた気がする…。
「何…ですか?…それ?」
「んん?
……。
今のは聞かなかったことにして下さい」
瞬間、ギルマスは残像だけを残して消えた。
「ちょっ…ギルマスーーーー!!!」
くっ…逃げ足の早い…。
どうやら義姉上達は力を制限されいたらしい…。
それであの暴れっぷりなら、今回はらくーに済みそうな気がする…。
騎士団全員の注目を浴びてバツが悪い。
「じゃぁ…北門で集合って事で…」
「う、うん。心得た」
今のやり取りに驚いたのか、若干素が混じっているファティナさん。
苦笑をしているマクレイルさんに一礼して階段を段飛ばしでかけ降りる。
◆◇◆◇◆
「ふふふ…。
このギルドは居心地がいいですね…。
それとあの子はお幾つなのかしら?」
「ファティナ様…?」
「あっいえ、単純にそう思っただけです」
「ファティナももうそんな歳か…」
「ちっ違います!叔父様!何を考えているんですか!」
「そうかそうか、済まなかった。
では行こうかファティナ様」
「もぅ…」
今のやり取りで少し緊張が和らいだ。
「では直ちに北門へ向かいます!!
恐らく、北門へ続く道や北門は混雑していると思います!
民も昂ぶっていると思います!
彼らを刺激しないよう迂回して進みます!
地理に明るい者はいますか!?」
「はい!」
「では先導をお願いします。
各員続け!!」
「「「「「「オゥッ!!!」」」」」」
◆◇◆◇◆
外に待たせていたルーブに跨り、寄り道をしながら大通りを避けて移動する。
すると、偵察飛行をお願いしていたスーマが、上空を旋回しながら見てきた映像を、直接俺の頭の中に放り込んでくる。
南門にヴェール姉さん。
西門にミラ姉さん。
東門にセリア姉さん。
この面子で布陣している。
恐らく同等の戦力だと思うけど、ギルマスが言っていた『一部制限解除』が気にかかる。
後は町の冒険者含め、全員で北門の防衛だ。
この一戦を退ければ、集団戦闘経験や討伐した魔物の素材なども含めて、一気に街の冒険者の質が上がる。
ピンチはチャンスだ。
そして被害を極限に抑える為に、出鼻を挫いておきたい。
しかし、門は閉ざされていて、閂も降ろされてある。
そこへ全ての門からこの北門に、人が押し寄せて来ていて混乱している。
門を守る衛兵と住民とで押し合い、このままでは怪我人が出そうだ。
いや、既に出ているのかもしれない。
あーこんな事なら、ギルマス連れて来ればよかった…。
『ルーブ』
『な…に?』
『屋根に登れるか?』
『出来…るよ』
『じゃぁ、頼む』
『う…ん』
門に近い三階建ての青い屋根の家に三回に分けて飛び乗る。
そこから門周辺を見下ろすと、一際目立つ大きな馬車があった。
その馬車の荷台から顔を出し、強欲そうな商人らしい人物が何やら大声で叫んでいる。
あぁ…あいつが煽ってるのか…。
ルーブ、一吠え頼むよ。
首を軽く上下に動かし…
「アオォォォォーーーーーン!!」
一瞬、北門広場に静寂が走る。
そして、俺達の姿を見つけた人達が「上だ!」とか叫んでいる。
それを見計らって、馬車の近くにルーブに跨ったまま飛び降りる。
皆上を向いていたので、着地地点に近い人が一気に引いた。
「な、なんだお前!そ、その狼は魔獣か!!」
「そうだ、俺はテイマーだからな!魔獣を使役して何が悪い!!」
「うっ…」
「あんた、外に出たいんだろう?」
「あんただけ特別に、門の外を見させてやるよ」
ルーブから降り、馬車から商人を引きずり出す。
「スーマ!この御仁が門の外へ行きたいとさ!」
『ごめん、スーマ。コイツを連れて向こうに行って、軽く旋回して戻って来てくれ」
『えー?重そー』
『本当ゴメン』
『分かったー』
急降下して来たスーマが狼狽える商人の両肩を掴み飛立つ。
そこへ俺が
「おい!暴れれば落ちるぞ?」
と、声を掛けると直立不動の人形とかした。
その顛末を見届けようと、今迄騒いでいた人達が静かになる。
そこへ…
「ヒッヒィィィィーーー!!
こ、こっちも魔物の軍勢がぁ〜〜〜!!!」
叫びながら、あの商人らしき阿呆が戻ってきた。
すると、「じゃぁ何処にも…」「終わりだ…」等パニックになる者が出てきた。
「静まれ!!我ら王国騎士団!!そこに居られるハンターズギルド代理、レン殿率いる狩人と共に活路を開く!!皆、それまでは各自の家に避難せよ!!!」
「「「「「オォォッ!!!」」」」」
都合よく横手から現れた、王国騎士団長ファティナさんが民衆をまとめた。
「皆、落ち着いて行動するんだ!!
皆んなで助かるぞ!!
誰も怪我をさせるな!!!」
「「「「「オォォッ!!!」」」」」
上手く乗っからせてもらった。
「レン殿!遅れて済まない」
「この人混みですからしようがないですよ…それより…」
「あぁ…これから本番だな…」
門の向こうは暗雲が立ち込めていた。




