一章 ❸ レーテの村とゴブリン前哨戦
レーテ村、ゴブリン戦です。
出来れば簡単なご意見、ご感想をお願いします。
頰を紅く染めながら困っているメガネ美少女騎士を置いてハンターズギルドを出た。
直ぐに早足で町の大通りを抜け、ハンターズリングを翳して壁外へ出る。
予定より少し遅れた分、1分でも早くレーテへ行きたい所だ。
それにやりたい事もある。
街道を南へ4〜5分歩いた所に少しだけ背の高い叢がある。
其処へ周囲の気配を探ってからカサカサと分け入った。
すると人一人分の幅の大地が見えた。其処で片膝を付き念じる。
「瞬転」
フォォォォッ
方円がゆっくりと浮かび上がる。
目を閉じ飛ぶ先のイメージを固める。
そしてゆっくりと眼を開けると風景が変わっていた。
「よし。」
ココはレーテの村から15分程離れた林の中、茂みに隠してあるファストトラベルだ。
普通なら3時間かかる所を一瞬。本当に重宝する。
そしてこのファストトラベルをブルガルド王国、ムンティス周辺の至る所に設置している。
コレがたった一人でフィフスになれた理由でもある。
そのまま林の中にある泉の滸で薬草を採取する。
ここはブルガルド王国内でも有数の薬草の群生地だ。
数時間ほど採取した薬草を袋に詰め込み、概念魔術を組み込んでいるカードに格納する。
この中では時間が止まる為鮮度は失われない。本当に概念魔術様様だ。
一息ついて綺麗な泉の水を掬い喉を潤してレーテの村へ歩き始めた。
歩きながら、右腕の盾から2枚のカードを2メートルくらい前に弾き出す。
『招来』
声なき声でキーワードを紡ぐと2体の魔物が召喚される。
黒死狼のブラドと音隼のマハだ。
「よしよしよーし。」
擦り寄ってくる2体に干し肉を当てがい。
さすってやるとすごく嬉しそうに泣いた。
そのまま魔力を媒介に思念を伝えると、キリッ!とした顔になりブラドは走り出しマハは勢い良く飛び立った。
「さてと、行くか〜」
レーテの村は香りの強い小麦の生産が盛んだ。
主食となるが故に重要な拠点でもある。
村には直ぐに入らずぐるっと一周してから入る。
ハンターは珍しくないらしく道行く人に挨拶をしながら歩き回った。
村長の家は普通の家と比べ少しだけ大きかったが、私服を肥やしているタイプではなそうだ。
そう思ったのはデザインが質素で、どちらかと言うと住みやすさに重きを置いた作りだった為だ。
玄関前前に立ち、分厚い木製のドアのノッカーを叩いた。
すると中からドタドタと言う音が聞こえ、中年のガタイの良いおっさんが出てきた。
「あっハンターズギルドから派遣されたモノです」
「あっ、あーあんたがか?ん、んー?とりあえず入んな」
「はい」
中は食事の匂いが充満していた。
もうそんな時間か?
「あー俺はジェイムスだ。あんたは?」
「俺はレン。レン・ミングルです。ランクは五等星。レンと呼んでください」
「うん。で、あんた一人なのかい?」
「はい。一人での活動が楽なんで」
「はっ?ソロでフィフス?見た所若いのにやるねぇ…あーそうだ。
ムンティスの街には俺の甥っ子がハンターをやってるんだ。
てっきりあいつが来るもんだと思ってたぜ」
「そうなんですか。今度会ってみたいですね」
「あんたの様に強いかは分からんがなぁ、さて今から飯にしようかと思ってたんだ。
レン。お前もどうだ?」
「じゃぁパンとスープだけ。
そんなに腹減ってないですし」
「そうかぁ?ちゃんと食わねぇと体が持たねぇぞ?」
「お気遣い有難う御座います。
あっそうだ、食べながらで良いので聞いておきたい事があるんですけど」
「何だ?」
「先ず何時頃からゴブリンやウルフは目撃してるんです?」
「ん〜ゴブリンは一年前かな?ウルフは半年前からだ」
「何処でよく目撃してるんです?」
「どっちもココからちょっと離れた南の森周辺だ。
あそこは深奥が魔の領域らしくてウチの街の猟師でも入口周辺までしか入らん」
「ん〜。ここ最近ではいつ目撃しました?」
「一昨日だ。一匹だけだがウルフの背中に乗っていやがった」
「そう、ですか…」
「どうした?」
「恐らくここ数日がヤバイ…ような気がしますね。
次に来るときは恐らく…大所帯ですね」
「はぁ?」
「で、その時に備えて今すぐ村中の人達に。
逃げられる準備だけはしといてくれって伝えて下さい」
「あ、あぁ…」
ドンドンドン!ドンドンドン!!
「誰だ!!今込み入った話ししてんだ。ちょっと…」
「ジェイムス俺だ!トマスだ!すぐ来てくれ!!」
俺は三歩でドアに立ち寄り開けて声をかける。
「どっちだ!」
「あっと…誰?お前…」
「ハンターのレンだ!そんな事言っている暇はない!!どっちだ!!?」
「あ…あぁ…南、南だ!森の方から出てきやがった!」
手には黒い筒状の…恐らく望遠鏡らしきモノを持っている。
「数は?」
「よくは分かんねぇけど7〜8匹だ!」
「特徴は!?」
「大きめの犬かなんかに乗ってる!」
「わかった!有難う!!ジェイムスさん!俺が出たら直ぐに閂かけて女子供をムンティスに逃せ!!」
「お、おぅ。わかった!」
「ついでに誰かギルドへ馬を走らせて応援を要請してくれ!!」
いうが早いか心の中で念じる。
『疾風!』
「うぉっ!はえぇ!!」
見張り番のトマスは感嘆の声を上げる。
俺は全力疾走で一気に門を抜ける。
すると土煙の方向に目を凝らし、最低でもゴブリンライダー4体を視認する。
こっちも駆けている分接敵が早い。
4体の陰にまだいることを視認して、右腕の円盾から一列に8枚ほど地面へ投下した。
そこから10m前へ移動し止まる。それとは別にカードポシェットから一枚のカードを取り出し。
『招来!』
声にならない声を紡ぐ。
カードからバチっと静電気が目に見える形で走り、左手にはグレイブが現出した。
ゴブリンライダーは直ぐそこだ。
そして奴らは想い想いの武器を振りかざし吠えている。
こっちはグレイブの感触を確かめながらクルクルと回し、迎撃の準備を整えた。
接敵の瞬間
「ハッ!!」
腰を落としながら前に滑るように、下段横一閃でゴブリンが騎乗しているハイウルフ4体の足を切り裂いた。
次の瞬間には、勢いのまま無様にも地面に突っむ4匹がいた。
それを察知して、後ろにいたゴブリンライダー4体はジャンプして前衛を飛び越していった。
「よっと」
脚を断ち切った反動で反転し、直ぐに振り返って転げ回っているゴブリン達の、頸動脈と腱を突き断つ。
無理に首を切断する必要などなく無力化すればいいのだ。
グレイブの利点は、中距離から敵へ一方的に攻撃を加えることのできる長さと、遠心力に寄って生み出される斬れ味だ。
ふと去っていった4体に目を向けると一体だけは罠にかからなかった。
しかし、三体は落とし穴にはまったらしく穴から怒りの声を巻き上げていた。
「ゲェェェェェェェ!!」
一体だけ取り残される形になったゴブリンライダーは、相当切れているらしく目が血走っている。
グングン此方へ迫って来ているが、冷静に相手の利き腕を確かめる。
右。それなら接敵する前に右側へ体を滑らす。
「ハッ!!」
そのままグレイブの刀身を下から上へ滑らかに切り上げる。
ハイウルフの首元から入った刃は勢いもあって滑らかに、ウルフとゴブリンの体を二つに分けた。
すかさず残りのゴブリンが落ちた穴へ薬品を落とし、次に種火を落とすと絶叫が響いた。
何のことはない。油を穴の中に入れて火を付けただけだ。
そして残りの不発の罠を無効化し、カードを拾い集めて右腕の円盾にセットし直す。
これで事後処理は終了だ。
ふぅ…と一息ついてグレイブを担いだまま街へ歩く。
近づくと門はゆっくりと開き、男衆からのむさ苦しい出迎えを受けた。
「おうレンよ!全くすげーな!お前の腕前拝見させてもらったよ。
それと…すまん。さっきは見てくれだけで判断しちまった」
「いや、それは良いよ。それより男衆もそろそろ避難を開始してくれ」
「なっ…?もう終わっただろ?」
「いいや、終わっちゃいないさ。
さっきも言ったでしょ?次は大所帯だって」
「まじか…」
「恐らくだけど…そんなに時間をおかずにまたゴブリンライダー…いやゴブリンの群が攻めてくるだろうと思ってる。
多分そこからだよ。始まりは…」
「どうしてそう言い切れるんだ!」
村人の誰かが声を荒げた。まぁ信じられないよな。けれど…
「一年前からこの街はゴブリン達にマークされてたんだ。
町長のジェイムスさんから聞いたよ。一年前から見かけたってな。
ゴブリンの繁殖力と成長力、そしてあの森の中にある魔素溜まりを持ってすれば、あの森に控えているゴブリンの数は今や400〜500は下らない」
男達の誰かが言い放った言葉を、町長から聞いた言葉と推測で反論する。
しかし実際は共感のスキルでブラドとマハの目から送られてくる思念像を見て確信しているだけだ。
「さてと…ジェイムスさん。俺が言った事はもうやってる?」
「あぁ、ムンティスに馬を走らせるってやつだな。やってるよ」
「そうか、有難う。じゃぁ…援軍が来るまでの間乗り切れば良いな…」
「馬でも20分はかかる。それからなんやかんやで結局1時間ちょいはかかるんじゃないか?」
「さてどうだろうね?ギルドが集団転移魔法陣使うかが鍵だな。
アレなら時間はかからないよ」
大きめの街のギルドは、周囲の街に災害級のクエストが起こった場合、即座に対応し得るように集団転移魔法陣を置いている。
緊急要請をやっているので後は誰が来るか…だなぁ。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
トマスさんは櫓で監視を続けて貰っている。
何か動きがあればすぐに知らせてくれるだろう。
その間に櫓の下の小屋で周辺の地形を教えて貰っていた。
数百のゴブリンの群。いやもう軍だろこれ…。
ゴブリンのスタンピードなんて聞きたくもない。
ふぅ…フィフスに上がって早々コレとはついてないなぁ…。
と、思うくらいには余裕があった。
カンカンカンカン!!
早鐘が鳴り響く。どうやら思ったより早く動いたらしい。
はぁ…五等星ってのはこんなについてないモノなのか?
俺の周りにいた男どもは分かっているんだろう。
もう誰も何も言う事はなく、ただ立ち尽くしている。
ちゃんと目の前の脅威を教えたのに、その脅威の大きさを信じないから思考停止する。
その中で
「おい!何を呆けてる!行くぞ!避難するんだ!!」
立ち直りが早いのは村長だからかどうなのか、オレはもう小屋の出口まで来ていた。
「じゃぁ、後は頼んだよジェイムスさん。
あと、馬を一頭借りるよ?」
手をヒラヒラと振って強がってみせる。
「わかった!絶対死ぬなよ!!」
「そっちこそ絶対逃げろよ?街に残って戦うなんて言うなよ?
時間稼ぎならオレ1人で十分だ。良いな?」
「「「「……!!!」」」」
男達は何か感じ入ってるようだけどそんなのは不要だ。
とっとと出て行ってくれ。
外に出るとトマスさんが泣きそうな顔で泣きついてきた。
「おいおいおい!なんだありゃっ!!」
「ざっとどの位いそうなんだ?」
「100以上だ!それよりもあんなゴブリンの群は見た事ねぇ!!」
「どう言う事だ?」
「見てくれ!」
櫓に登り遠眼鏡を渡される。
あー確かに。そりゃぁそうだわ。
「群じゃないなぁあれは…もう軍だね」
「そっそれよ!軍だろ!!」
「トマスさん。お疲れ。あんたも逃げな。
ただオレが馬と一緒に出たら門に閂掛けてから逃げてくれ」
「そりゃあんたを見捨てろって事か!?」
「違う。違うよ。俺らハンターは訓練されてる。
酷なこと言うけど足手纏いなんだ。ごめん。わかってくれ」
何とも言えない顔をしている。
櫓の下から見上げていたヤローどもはみんなそんな感じだ。
ゆっくりと櫓から降りて引かれてきた馬に跨る。
さて、
「じゃぁ行ってくる。早目に援軍呼んできてもらうと助かるよ」
「あぁ!約束するとも絶対だ!!」
この時、既にハンターズギルドに話は伝わっていた。
そして真っ先に動いたのは動いたのはミラとヴェールだった。
ここ数ヶ月の魔素溜まりの異常発生で、モンスターは強化されハンターズギルドのメンツは疲れていた。
その上に怪我人が続出していて満足に動けるパーティーは少なかった。
しかし、運良く(?)ミラとヴェールはギルド内の食堂でお茶をして時間を潰していたのだった。
そのままゴブリン軍との戦いに突入です。
出来れば簡単なご意見、ご感想をお願いします。