三章 ❺ 精霊の森と防人
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あの衝撃的な夜から三週間が立った。ミラ姉さんを筆頭にルイ、ゾッド、モーラを連れて精霊の森へと出向いていた。
今仮に俺が勇者になろうがなるまいが、余りにも個々の能力が低すぎるという姉さん達の判断だ。
なので、少しでも力と技と手段を増強する為に、この精霊の森で中位精霊との契約を目指している。
そして弟子達もそうだ。それぞれ性質の合った精霊と契約するためだ。獣人はそもそも精霊との相性が良く、魔法や法術とは別に会得するものが多い。
しかし、精霊魔法は精霊の好き嫌いがある。一番結びつきの強い精霊を選ぶと、その精霊の属性を一番使え、その精霊を助けたりその精霊から助けられたりする属性の精霊を補助精霊として契約することができる。
因みに火木水金土の五属性に裏と表の計十個の形質が存在する。しかし、この五個の属性にも当てはまらない属性が光だ。
精霊の森に入って二日が立つ。挨拶がわりのモンスターが襲ってくる。
しかし、森に入ってステータス一割り増しのミラ姉さん。フォースとは名ばかりのサード(三等星)クラスの実力を持つ俺。装備が先行しているが三人の連携でフィフスクラスのモンスターも普通に討伐する弟子達の五人は危なげなく目的地に臨んでいた。
「そろそろ目的地よ。と、その前にトロールのグンドに会うわ。」
「どんな感じなんですか?」
と、モーラが不安げに聞く。
「基本的に大人しいわ。だからトロールを攻撃しないようにしてね。彼らは攻撃する者には徹底的に攻撃するけれど、そうでない者には一切攻撃しないの。」
「へぇ…。」
「彼らは古木の生まれ変わりとして森を守っているだけなのよ。」
「なんかトロールって聞くと暴れん坊なイメージだった。」
「まぁ、勝手に聖域に踏み入れる者に対して、攻撃を加えるのは当たり前でしょ?例えば、モーラの部屋に誰か知らない人が入って来たら?」
「怒って追い出します。」
「それと同じ事なの。」
「なのにヒト族は我が物顔で聖域に入ろうとして、怒ったトロールに攻撃される。それをトロールは悪い奴だと宣伝する。」
「それって…」
ルイが声に出したが、みんな一様に絶句している。
「自分がされて嫌なことを平気でやってて、それを気付いていないのは滑稽だわ。」
「なんか聞いてて腹立って来た。」
ゾッドが隠しもせず怒りを露わにしている。
「でも、気を付けてね?いつ自分がその立場になる事になるか…。その時に気付いて素直に御免なさい出来るか…。それが出来るかどうかが、この世界で少しでも争いを避ける鍵なのよ。」
考えさせられる。確かにそうだ。自分の痛みには敏感で人の痛みには鈍感。それが傲慢の体現者であるヒト族だ。
俺の魂術の『共感』は一時的に心の痛み迄も共有する。これを使ってお互いの痛みや苦しみを分かち合う事が出来きたなら、世界は救われるのだろうか?
モーラが呟く。
「でも…例えば御免なさいをして相手がゆるさなかったら…?」
「その時はもう戦うしかないわ。」
「そんな…。」
「譲れない者ものが誰にも合って、それを奪われて平気な人なんてそうはいないの。いたとしたら私はそんな奴信じないわ。」
「……。」
「さぁ着いたわ…。」
「ここが…。」
「何ででしょう。安らぎますね。」
「そうね。でも精霊が騒いでる…何かしら?グンドは…っと…。」
「姉さん!あそこ!!」
毛むくじゃらの何かが倒れている。
「グンド!!」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
グンドは傷ついて仰向けに倒れていた。
「グンド!!一体どうしたの?」
「グ…グゥ……ミラカ……急ニ魔族…オシカケテ来タ…。オレイッタ。ココ、精霊ノスミカ。入ルダメッテ……ソシタラ攻撃サレタ。」
「うん。わかったわ。すぐに治してあげる。!!」
「『精霊の癒し手』!」
周りの精霊達が皆一斉にミラ姉さんの周りに近寄ってくる。その中で一体だけ他の精霊とは異なる雰囲気の精霊がいた。ジッと見つめていると目が合ってニコッと笑った。不謹慎とは思ったがこちらもニコッと笑顔で返した。
「さぁ、これで大丈夫よ。でも少し安静にしてた方が良いわ。」
「ミラ、有難ウ。」
「凄い!法術より早い!!」
モーラが感嘆の声を上げる。
「ここは精霊の住処。精霊が生まれる場所。だから精霊術の効果がすごく高まる場所なの。」
「へぇ〜。だからあんなによって来てたのかぁ〜。」
「レン。何を言ってるの?」
「えっと、何かふわふわした色取り取りのモノが、姉さんに近付いていって助けてる感じがしたんだ。」
「それ、精霊達じゃない?見えるの?」
「えっ?見えないものなの?ここに来たら急に見え始めたんだけど?」
「私はエルフの特性があるから見えるんだけど…。確かにレンには色々と集まって来てるわね…。」
「ルイ、ゾッド、モーラ。君達は見えないのかい?」
「うーん。何となく何かがいるっていうのはわかるんですが…。」
「そうね。波長があったのかしら…たまにそう言う人間もいるし…。それよりグルド、その魔族っていつ頃来たの?」
「二時間クライ前ダ。三人デ来タ。ソンナニ強クナカッタ。ケド逃ゲル時何カ投ゲツケラレタ。ソレガ痛カッタ。」
「そう、でも貴方が無事でよかったわ。」
「ミラ、有難ウ。」
「良いのよ。怪我が治ったすぐで悪いんだけど、精霊の祭壇を使わせて欲しいの。」
「ミラ、大精霊ト契約シテル。必要ナイ?」
「私じゃなくてこの子達よ。」
「ソウカ。ミラノ頼ミナラ通ス。」
「良いんですか?」
「ウン。ミラト同ジ、優シイ匂イスル。」
「匂いなんだ。」
「今ダト、ダフネノヨウナ匂イダ。」
「ふーん。」
モーラがまじまじと見つめる。
「ナニ?」
「意外とロマンチックなんですね。」
「「!!」」
「草木ヲ愛デルコトシカ、ヤル事ガナイダケダ。」
男二人が並んでそのやり取りを凝視してる。
「敵がまた一人増えたようだなゾッド…。」
「あぁ…負けられない戦いだ…。」
「お前達は一体何を言っているんだ…。」
俺は少し呆れた。