5話 魔王と姫(1)プロローグ
「やっぱ会うの〜?」
フィルは、少し抵抗あるみたいだ。何故かは知らないが・・・。
「うぅ・・・」
「ストーカーなのが嫌なの?」
そういえば、フィルが言ってたな・・・『悪い人ではありませんが・・・・・・姫君のストーカーって言われてます』って・・・。
「会いたくないのは分るけど・・・」
「別に会いたくないわけじゃないんです!!」
私の後ろに立ってた十代と三月の「うひゃーツンデレか?」と声がしたが、無視をした。
「僕だって会いたいです」
「・・・フィル」
お嬢は寂しそうな表情をした。
フィルは、いつまでも一人称そのままでいるのか?
「魔王の家ってどこ?」
「行きてー!!」
三月と十代は行く気満々・・・。
フィルは、微妙。お嬢は普通。じゃあ私は?
「話し合ってみませんか?」
とりあえずは話し合い優先。特に考えたくないけど・・・。
「ってことで行きましょう!!」
三月の合図で、王宮を出た。
「どのくらい掛かるの?」
王宮を出た途端、言い出した三月。
「近くに飛行船があるから・・・それで行きましょう」
顔色が悪いまま話したフィル。それを心配するお嬢。
「飛行船!?」
「楽しみだぜ!!」
空気を読まないバカ二人。ため息吐いてしまう。
「リフィル様・・・あの方の元へですか?」
「お願いします」
運転手らしき人物が声を掛けてきた。それに頷いたフィル。
それぞれ飛行船に乗り好きな場所に座った。
私はお嬢の隣り。何があってもお守り出来るから。
「ねぇ・・・フィル」
お嬢の隣り、私の反対に座ってるフィルに話し掛けたお嬢。「ん〜」と、無気力で話す。
「ストーカーの割に何もしてこなかったね。私達、外にずっといたのに・・・」
確かに、ストーカーなら追いかけて来るはず。でも何もしてないし、怪しい奴もいなかった。
「昔は、嫌ってほどウザかった」
三月達が静かだなと思ってたら窓の外を見てた。数分前に飛び立ったから、結構高い所にいるだろう。私の背後に山が見える。地球でいうアルプス山脈ってとこだろう。それなりに大きい。
「だから怒ってるのかも・・・急にいなくなったから」
「貴女と魔王は愛し合ってるんだね」
フィルの言葉に考えて答えたお嬢。
フィルは「でも、那瀬サマも好き」と、言った。私には聞こえたが、お嬢は聞き取れなかったみたいだ。
「・・・あ、着くね」
外を見ると、普通の魔王城と違って一軒家。でも、一軒家でも大きい。那瀬家よりは小さいが、ドーム何個分だろうか・・・。
「でけーな」
「うん。化け物城だねぇ」
何語だよ。化け物城って・・・。
飛行船から降りて、入口を見た。洋風の屋敷に相応しい扉だった。
「こっちから入るよ」
なぜか裏口から入ってくフィル。
裏口は、入口よりも地味で、雑草も生えてて手入れがあまりされてない。
裏口のドアに着くと、何年か昔のドアで、防犯は良くないんじゃないかって位、古臭い。
「手抜き?」
「ふふっ、どうでしょう?」
三月の言葉をはぐらかしたフィル。
少し女性っぽくなったな。前は、男装ってわけじゃないけど男っぽくしてたから。
「姫・・・。魔王様が心配なさってましたよ」
入口にいた男が話し掛けてきた。
魔王の家来のわりに、普通の人間だ。悪魔っぽくないし、魔導師ってのも無い。
「では、こちらに・・・」
私達を怪しむ様子はない。どうやら知ってたみたいだな。お嬢も気付いてた。
一応、私だけでも警戒はしておこう。
「久し振りだな・・・」
やっぱり、魔王のわりに普通の人間だ。
容姿は、今時の若者って風で、綺麗な藍色の瞳に金髪だ。
普通だったらカッコいい分類に入るだろう。
「カッコいいね」
「ストーカーなのにな・・・」
三月もカッコいいって思った様子だ。十代は少し怒ってるかも。
「ごめんなさい・・・」
「いや、良いんだ・・・」
ん?良い奴じゃないか?怒らないなんて・・・。
「可愛い子を連れて来てくれたしな」
前言撤回・・・。ムカつく奴だ。お嬢に近付く奴全員排除。
「・・・ライゴ?」
魔王の名はライゴって名前みたいだ。
この世界の名前って珍しいな・・・。
「俺の嫁にならないか?」
お嬢の顎を持ち上げるライゴ。
うん。潰す。
「それは私にじゃなく、フィルに言いなさい」
無表情で、ライゴの手をはたいた。
ライゴは、はたかれた手を見つめる。
「珍しい女だ。俺を拒否するか・・・」
「違う・・・。フィルをどう思ってる?」
「・・・お前が嫁になれば愛人にしてやる。それなら良いだろう」
三月や十代は怒った。でも、ライゴは聞いてない。
「ふざけるな・・・」
パチンと景気の良い音が響く。周りの魔王の配下は殺気を出した。
「お前っ・・・」
「アンタ・・・今までフィルを愛してたのに・・・心変わり?最低よっ!!」
珍しくキレてるお嬢。表情は変わって無いから、更に恐い。
ライゴは、お嬢に怯えた。
「確かに、お嬢は美しいですが、別の人に心変わりするなんて同じ男として許せませんね」
「・・・っ」
分が悪いのか、黙るライゴ。
「まぁ、フィルも人のこと言えませんしね」
「どういう事だ?リフィル」
私の言葉に焦るライゴ。フィルは「っ・・・」と、顔を歪ませた。
「他に男がいるのか?」
「何です?その言い方。貴方は自分のことは棚に上げるんですか。自己満足も大概にしてください」
「なっ・・・」
何です?まだ何かあるんですか?
「テメーだって他に可愛い子がいたら目移りすんだろ!!」
「馬鹿ですか?本当に愛してんならしないでしょう・・・やはりバカだね。あの瓦版のことでも思ってましたがバカですね」
「バカバカ言うな!!しかも途中敬語じゃなかったぞ!!」
ツッコムところは、そこなのか?やっぱりバカですね。
「なんか、琉川・・・怖いね〜」
「あぁ。あんま怒らせねーようにしようぜ」
背後のバカコンビはシカトします。いちいち構ってられないし。
「・・・琉川!!もう良いよ。私が悪かったの・・・」
一人称変ったな。
でも、女性を悲しませるのは紳士としていけないね。
「バカが女性を泣かすなんて・・・」
「だから!!」
「私、もう会わないから・・・」
私の言葉にツッコミをいれようとしたが、フィルが遮った。
フィルは、目に涙を浮かべ走り去った。
みんなは、フィルの名を叫んだ。だけど、立ち止まんなかった。
「最低だなお前。ここに来るの嫌がってたのに、我慢して来たのに・・・そんな言い方ねーよ」
「そうだよ。フィルはアンタをどんだけ好きだったか分ってる?」
十代と三月は、ライゴに叫んでフィルを追いかけてった。
「・・・俺」
「アナタ・・・何を隠してるの?」
「え・・・」
また気付いたんだ。昔から、人の感情には敏感だったから。
まだ帰ることは出来ないんだろうな。
でも、別れってのは嫌なもんだな。