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報復の謳歌  作者: 莞爾
7/7

さいかによるせんでん

「いやあ、助かりました。」

 口々に礼を言う集落の人々は、サイカによる宣伝によるものらしい。

 サイカ曰く、『彼等は災いが起きる場所に先回りして人助けを行う旅人』だとか、『王族の元直属の呪術師と元討伐隊隊長という噂』だとか、『唯一禍霊に対抗できる狼叢と王族の呪術師』だとか、兎に角尾鰭背鰭おひれせびれをつけた嘘っぱちを吹聴して周り、集落を救った事実を盾に金まで貰っているのだ。ちゃっかりしているというか、世渡りが上手いというか、サイカの役割はおそらく資金集めとなるだろう。

 禍霊を殺してから一夜明け、宿の近くの河辺で服についた血を洗い流す俺とサイカ。

「いやぁ、わたしってそういうとこあるからさ」殊勝な笑みが抑えきれないといった感じのサイカ。桶に水を貯めてオウカの服を義足の両足で踏み洗いしながら、ふふん、と俺を見る。

「昨日の夜、お前を見てねぇと思ったらそんなことしてたのかよ」

「まあね、戦えなくてもやれることはあるからさ」

 そう言って笑うサイカを見ると、咎める気持ちも削がれる。

 サイカなりに力になりたいという意思の現れなのだろう。

「金があるに越したことは無いから、とやかくは言いたく無いが、宣伝文句が派手過ぎじゃねぇか?」災いが起きる場所に先回りするって、完全に逆じゃねえか。

 禍霊はオウカの存在に向かって集まるのだから。なによりこれは復讐の旅だ。俺が王族の直属だった? 確かに生前はそうだが、今は他ならないその王族に反旗を翻す旅をしているんだぞ。……なんて、サイカに言えないな。そんなことを考えながら河辺の手頃な岩の上で血を洗い落としては河の水で濯ぐ。

「……当面はここを拠点にするのじゃ、サイカよ、その意味が分かるか?」オウカは言う。

「うーん……」なんだろ、と、サイカはしばらく考え込み、「あっ! ここに来る禍霊はまだいるってこと?」と答えた。

「……正解じゃ、これからも資金集め、任せたからのう」とにやりと笑う。オウカはあくまで利用する腹積もりらしい。

「うん! わかった!」破顔一笑。サイカは喜び、オウカに抱きついた。そういえば昨日の夜は結局サイカを抱いてないのではないか?「昨日は何もしてないから、今日は、してもいい?」

「……あぁ」そうして抱擁するオウカとサイカ。見てるこっちが暑苦しく思う。今日も空は青く、太陽の光は降り注ぐ。死体となってからの時間の方が、様々なものを感じ取れる気がする。陽光、河辺の空気、笑顔。暖かい気候の地域は俺のような狼叢種族には暑くて暑くて体が受け付けないと聞くが、死んでからは、オウカの血を飲んでからは、そういったものも受け入れられる。

 この度が復讐の旅だとしても、今の人生に不満はない。そんな結論に至り、俺は洗う手を休めて背伸びをする。


「あぁ、……いい天気だ」

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