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報復の謳歌  作者: 莞爾
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きょじんがあしぶみをしている


 地鳴りは断続的に繰り返され、巨人が足踏みをしているような揺れに、集落の人間は立っていることもこんなんだった。

トーマさんを何度も何度も地面に打ち付けて、周りには禍霊が脱ぎ捨てた外殻が山を作っている。


 ドシンッ! ドシンッ! ドシンッ! ……。


「ありゃあ、死ぬかもわからんねぇ」オウカさんはこの状況下で他人事のようにのんびりと呟いた。


「そんな!? トーマさん助けないと!」わたしはオウカさんのもとに駆け寄って、袖を掴む。手が震える。周りにいる鳳仙の者もこの光景に怯えることしか出来ない。


 わたしの集落もそうだ。

 こんな風に禍霊の一方的な行為によって全滅したのだ。

「……冗談じゃ。力で負けるなら、恨めばよい」オウカさんは表情一つ変えずにそう言って、禍霊のもとへ飛んだ。

 掴んでいた袖はあっという間に掌から抜け出し、置いていかれた。義足ではまだ、走ることは出来ない。





 何度となく死に、そして治癒を繰り返す俺の耳にオウカの声が聞こえた。

「大丈――か?――――――随――楽し――――じゃな」

 途中途中俺は死んでいるので、全部は聞き取れないが、『大丈夫か? 随分と楽しそうじゃな』と言っているらしい。楽しいわけがあるか。それより策は思いついたのだろうか?オウカに言葉を返そうと思ったが、ごぼこぼと血が口の中で泡立つばかりなので諦めた。

 眼球も破裂しているらしく、何も見えない。

 何回死んだのか、元から死体である俺には数えるつもりも無かったが、やがて叩き付けられる動作が止まり、ぼとりと自分の肉片にまみれながら、俺は地面の大穴に落下した。

 落ち着いて治癒ができるこの状況はオウカのおかげだろうと直感し、内臓で繋がった上半身と下半身が筋肉繊維により引っ張られ、繋がる。零れ出た硝子体が眼球に満たされ、視界が機能を再生し始めてようやく禍霊を見ることができた。


 禍霊は呪術によって形成された黒い槍の剣山に自ら衝突し、深々と突き刺さっていた。俺が居る地面の大穴の中心は、台風の目のように槍が無い。

大穴の淵を囲むようにして黒い槍の剣山は存在した。こんな呪術が使えるのはオウカしかいない。俺には肉体的な疲れなど無いが、足がまだ無い。それに満身創痍だ。このまま見守るとしよう。


「……トーマよ、死んだか?」オウカは大穴の淵から顔を覗き込み、俺の安否を確認する。

「死んでるよ、もうとっくに」早く終わらせてくれ。筋肉繊維がまだ丸見えの腕でオウカに手振りをする。

「……そうか、では」オウカは満足そうに口の端を吊り上げる。今度は禍霊を睨み、呪術の黒い槍で禍霊を引き裂き、砕いた。禍霊は鱗状の破片となり、集落全体に降り注いだ。脱ぎ捨てられた外殻も自然と崩壊し、禍霊は消え去った。


「お前の悔魂、私が引き受ける。必ず恨みは晴らすぞ」そう呟いたオウカの顔は、正直不吉な胸騒ぎを覚えるほど、悪鬼のようだと、ぼんやりと思う。


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