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『採集』と『神器』


 運営の想定外の方向へと突っ走っていく・・・。




 いつものように朝の受注ラッシュをしのぎきったあと。


 おかしくね?確かに自分で言ったけどなんでこれで給料少ないんだ?

 ・・・まあ、受付嬢の皆さんはもっと忙しそうだったけど・・・。


 りんごより稼げないのは少し納得いかない。

 まあ、もらったところで使い道はほとんどないんだけど。寝泊まりもギルドの中だし。


 

 いつもはこの後、八百屋とか肉屋を見て回ってこっちの世界の食材に慣れるんだけど、大分分かってきた。


 だったら、今日は早めに北門に行くか、もしくはそろそろそれ以外の所に行くか、と悩んでいたところ、ギルドに人が入ってきた。



 この時間に人が来るなんて珍しいこともあるもんだと思って見てみると、そこにいたのは舞宮さんだった。




         ◆ ◆ ◆



 舞宮さんは『買取』カウンターへとやってきた。

 担当のアンジェラさんがすっと顔を引き締める。


「買取でしょうか?」




 はい、皆さんちゅうもーく!

 普段のアンジェラさんならここは「買取ですの?」と言うはずだ。

 それがですます調の丁寧な言葉使いになっている。


 これは数日間の観察の結果なんだけど、住人の人は意図してプレイヤーと距離を置いている。


 向こうから挨拶してくることはないし、こっちから挨拶しても「ああ。」くらいしか返されない。


 だけど、数日たつと、向こうから挨拶してくるようにもなった。



 あと、買い物をするときも最初は必要最低限のことしか言ってくれなかった。

 

 でも、数日たつと、色々なことーーーホントにいろいろなことも教えてくれるようになった。

 買い物すると午前中が終わっちゃうくらいには。



 このことから、このゲームには好感度というものが設定されているのでは?という仮説をたててみた。


 そうすれば、プレイヤーに対する露骨な態度にも説明がつく。


 そう言えば、運営の人が『最初から住人に手伝ってもらって楽してサクサクプレイはできない』と言っていたのは裏を返せば『苦労すれば住人に手伝ってもらえる』ということだったのでは、と思う。



 それに、最近は初めて会った人でも向こうから挨拶してくれる。 

 たぶん、直接会わなくても好感度が上がることもあるみたいだ。

 僕の場合、変わり者のプレイヤーという噂が相当広まってるみたいだし。




 さて、話を戻そう。


「その、八百屋のおばちゃんに言われて……。


 私の作った物は品質が悪いから買い取れないけど……、ギルドだったら買い取ってくれるかもしれない……って……。」


 その言葉を聞いたアンジェラさんの目が少し優しくなる。



 そう言えば、僕も聞いたことあったな。

 何でも八百屋に行って花の種はないか、と聞いたプレイヤーがいたって。

 八百屋のおばちゃんがつっけんどんな態度をとってると、泣き出しちゃったらしいけど……。


 ここ最近、見てないらしかったから、もう次の街まで行ったのだと思ってた。


 それが舞宮さんのことだったとは。



 

 アンジェラさんが少し困った顔をする。

 そりゃそうか。薬草や魔物の素材なんかの買取はしたことあるだろうけど、野菜の買取とは。



 ふと、何かを思いついたかのように顔をあげると、振り返って僕の方を見てきた。


「すみません。今、係りの者が来ますので。」

 へいへい。出番のようですよっと。



 何はともあれ、舞宮さんと話すのはこれでまだ三度目。

 少し緊張してしまう。




          ◆ ◆ ◆



「えっ!時遡くん……?」


 あー、そりゃ驚くよな。住人が出てくると思ったらプレイヤーが出てきたんだし、


「えっと、色々と話したいことはあるんだけれど、また後でね。

 とりあえず、現物を見せてもらっていいかな?」



 そう言って出てきたのはトマトにキュウリ、にんじんと、いかにも家庭菜園で育ててみました!と言わんばかりのラインナップだった。


 『値踏み』スキルのレベルも上がったし、もともとの価値も低いからかぴったりとその値段を当てることができた。


「一つ5エーンですね。」

 厳しい現実かもしれないが、ここで私情を挟むわけにはいかないのだ。


「え……。そんな……。」

「すみません。でも、品質がかなり悪くてほとんど売りには出せないのが現状ですね。」


 実際、見て分かるくらいにダメなのだ。

 トマトの表面には艶がないし、キュウリもしなびれかかっている。

 本当に、ギリギリ食べれなくもない、というラインなのだ。




 さすがにかわいそうだったのか、アンジェラさんが尋ねた。

「失礼ですが、どういう育て方をしているのか聞いても?」


「はい……。」


 ポツポツと話してくれた内容から考えるに、そこまで悪い育て方はしていないように思える。


「そろそろ、収穫かな、と思ってもいでみたんですけど……。

 取った瞬間にしなびたり色が悪くなったりしちゃって……。

 やっぱり早すぎたのでしょうか……。」


 うーん。でも、僕もこんなに品質の悪いもの見たことないんだよな。

 これでも毎日北門で採集してるんだけど、時期のせいで悪くなるなら僕にも失敗があってもいいはずだ。


 どうしてだろう……。




「あの、失礼ですけれども『収穫』か『採集』またはそれに類するスキルを持っていらっしゃいますか?」


「いえ……。スキルは『栽培』だけです……。あ、一応サブジョブに『農家』がありますけど……。」


「え!?持っていらっしゃらないんですか?それでもこの品質……。ひょっとして……。」


 どうかしたんだろうか。






「舞宮さん。まだ収穫していないものはありますか?

 もしあるのであれば現物を拝見させてもらってもよろしいでしょうか。」




          ◆ ◆ ◆



 舞宮さんのハウスにやってきた。

 というか、ギルドの裏の物件だった。

 いつも門が閉まってるからどんな人がすんでるんだろう、って思ってたらプレイヤーだった。



 おそらく、プレイヤー専門の物件だったんだと思う。


 僕が最初に行った『古物屋』で古びた鍵を300万で買うと、アナウンスが流れて土地を所有できたそうだ。



 ちなみに、ギルドはかなりデカい建物で、その裏が丸々ここの土地だったので、相当広い土地をもらったことになる。

 初期に300万は高いと思うべきなのか、それとも安すぎだと思うべきなのか。


 これはぜひ、あの『夢現の寝具』が欲しくなってきたな……。一体、どんな効果があるのやら。




 閑話休題




 門を開けてもらって中に入ろうとすると・・・


 バチッと痺れる感覚と共に、


【所有者のいる土地です。侵入不可】


 というアナウンスが流れてきた。


「これは……。」

「入れない、ですね。」

『いたいのー!』


 どうしたもんやら。

 今まで、こんなことはなかったんだけどな。


「虎徹さん。プレイヤーでも入れないんですの?」

「そのようです。何か知っていたりしますか?」

「ええ……。神域や王城などに張られる結界と同じ感じがしますわ。

 あとは、そうですわね……。神器を使おうとしたときの感覚に似てますわ。」

「神器?」

「ええ。一部の神器は住人には使用不可なものがありますの。それを使おうとして弾かれたときと同じ感覚がしましたわ。」


「どうしたんですか……?」

 おっと、舞宮さんが不思議がってるみたいだ。




          ◆ ◆ ◆



 舞宮さんに入れないということを説明したあと、どうやったらはいれるのか、色々と調べてみた。



 その結果、舞宮さんと手を繋いでもらって一緒に入ろうとしたとき、


【固有スキル『契約』を使用しますか?】


 という、アナウンスが流れ、所有者に危害を加えられない、という条件の下、侵入許可をもらうことができた。

 ちなみにりんごとアンジェラさんにも出すことができた。



 何気に『契約』便利だねぇ。

 



          ◆ ◆ ◆



 それで、今、件の畑の前にいるんだけど、なんというか、すごい。


 作物からキラキラとした後光が差しているように見える。

 ナニコレ。


「これは……。」

 アンジェラさんも言葉がでないようだ。


『おいしそー!』

 りんごはそんなこと感じていないみたいだけど。


「虎徹さん、取ってみてくださいな。

 たぶん、それで理由が分かりますわ。」


 という言葉に従い、取ってみた。


【スキル『採集』がレベルアップしました。】

【スキル『採集』がレベルアップしました。】

【レベルアップしました。】

 

 アナウンスが三度流れた。

 もう一度言おう。アナウンスが三度流れた。


 おかしいなぁ!

 

 もう、随分とレベルも上がっていて段々と上がりづらくなってきていたはずなのに。



 どれだけ経験値の塊だったんだろうか。






 後に判明したことだが、固有スキルの『応援』により舞宮さんが「おいしくなーれおいしくなーれ!」と念じた分だけ食材のランクが上がっていったみたいだ。


 品質が悪かった原因は『収穫』系のスキルがなかったこと。

 これがないと普通は食べることもできないゴミに成り下がるんだそう。

 逆に言えばこれがなかったにも関わらず、食べられるレベルにまでなっていたというのは驚きを禁じ得ない。




 あと、アンジェラさんに出した侵入許可だけど、取り消してくれと、頼まれてしまった。


 理由を聞くと、このことがばれたら何をされるのか分からないから、だそうだ。

 そんなヤバいレベルなんですか?




 そんなことがあって、舞宮さんもギルドで働くこととなった。基本的に食材を卸しつつ、たまに受付を手伝っている。

 あと、たまに酒場で歌うようになった。

 たしか、メインジョブの『アイドル』がばれたときからだった。

 りんごも一緒にノリノリで歌っていて、気づいたときには『歌唱』スキルを獲得していた。


 


          ◆ ◆ ◆



 そうそう、今回の件で思い出したんだけど『スキル石』を売るのを忘れていた。


 そこで、アンジェラさんに買い取ってもらえないかと言ったところ、困った顔をしてこう返された、


「これ、住民は使えないタイプの神器ですわよ?

 だから、買い取ることはできませんの。」



なお、『栽培』は

「あ、花がある!きれーい!」

→「あれ?抜けちゃった・・・。どうしよう。植え直せばいいかな?」

→「なんか、アナウンスが・・・。『栽培』!?え、これだけで!?」

 

 といった感じで入手していました。


 経験値が50倍なので、ほんのちょっとしたことでスキルは手には入ります。

 他のプレイヤーはそのことに気づいていたので(主にオータあたりが)余計なことはなるべくしないようにしていました。



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