湖畔の歌姫
少しわかりづらかったので名前を修正。
ひらがなの「りんご」はウサギの方。カタカナの「リンゴ」は果物の方です。
まだ日が落ちるまで時間があるので、採集がてら林の中をうろついてみる。
新しくとれた物は無かったが、リンゴが少し多めにあった。これでしばらくは困らなさそうだ。
しばらく進んでそろそろ引き返そうか、という頃になったとき、どこからか歌声が響いてきた。
気になって声の主を探してみる。
すると、ほんの100メートルほど進んだ先で林が途切れていて、大きな湖がデデンと存在していた。
歌声の主はそのほとりに立っていた。
その上にあるマーカーは緑。住人ではなく、プレイヤーだ。
僕はその少女と会ったことがあった。
他の19人、否、18人と違って現実で障害を抱えている僕はゲーム開始時に問題が起こらないよう、他の人よりも1日早くこのawexの作り出した世界へと来ている。
そのときはホントにテストだけしかできなかったのだけれども。
そのときに、ビルのエントランスで少しだけ一緒になった少女だった。
たしか、僕と同年齢だと言っていたはずだ。
けれども、年の割には少し幼さをはらんだ顔立ちとその仕草のあどけなさが、実年齢よりも少しだけ低く見せている。
名前は"舞宮うらら"
身体的な欠陥を抱える僕と違って、目に疾患を抱える少女。
視神経があれば現実同様に物を見ることができるこの世界でしか"見る”ことができない人間。
胸に手を当て、目をつむって静かに歌う彼女は、まさしくこの世界を楽しんでいるようで、生き生きとしていた。
舞宮さんの歌が終わる。
その目が開かれ、僕の顔を捉える。
すると、歌を聞かれたのを恥ずかしく思ったのか、頬を赤らめて俯いてしまった。
「と、時遡くんが・・・どうしてここに。」
◆ ◆ ◆
出会ってから少し。
僕は舞宮さんと話をしている。
りんごは寝てしまっているようだ。
「それで、金山さん(筋肉マッチョのことだ)の発案でみんなでスキル石を交換したりして、役割分担をしようって話になったんですけど……。
その、なんというか、そこまで必死なって攻略しなくてもいいかなって思ってたので、抜けてきたんです。
それで、少し買い物をした後に『魔法を覚えよう』って思ってたんですけど、街中で火魔法を使った方が・・・その、捕まったみたいで、だったら安全に実験できるところはどこかって聞いたら、この場所を勧められたので、ここに来て見たんです。」
「魔法かー。もうスキル石は使ったの?」
「いえ、まだなんです。
『歌唱』っていうスキルが欲しかったので、先にそちらを、と思って。」
「そうか。良い魔法を引けるといいね。」
「どうせだから、今ここでやっちゃいますね。
・・・えい!
あ、できました!『光魔法』です!」
舞宮さんがスキル石を使って魔法をゲットしたみたいだ。
しかもレアのやつ。
「すごいじゃん!たしか、一番レアなやつでしょ。
見せて見せて。」
「ちょっと待っててくださいね……。
あれ?使えない?」
「どうしたの?」
何か不具合でもあったのだろうか。
舞宮さんはすごい恥ずかしそうな顔をして、ポツリとつぶやいた。
「その…、『魔力操作』っていうスキルを持ってませんでした……。」
「なんだ。だったらもう一つスキル石を使えば……。
ってまさか、もう5つ埋まっちゃった?」
僕もやらかしたからなぁ。
魔法……使いたかった……。
「いえ、スキルに空きはあるんですけど、その、スキル石は売っちゃってて……。」
「売った!?」
「はい。一個100万エーンで売れました。
それで、その、非常に申し訳ないんですが、もし持っていたらスキル石を譲ってもらえませんか?
ちゃんと対価は払うので。」
「……ごめん。持ってないんだ。もう使っちゃった。」
「そうですか……。
すみません。無理なこといってしまって。
あ、そうだ。だったら時遡さんの魔法を見せてください!
もともと、魔法が見れれば満足なので!」
「あー、うん。ごめん。
僕も魔法、使えない。」
「え、どうしてですか?」
「『魔力操作』覚えたあと、魔法覚える前に5つ埋まっちゃった。」
「あ、それは申し訳ないことを……。」
「大丈夫大丈夫。
そのおかげで、りんごにも出会えたし。」
「りんごちゃんって言うんですね。可愛い名前です。」
「ん?そういえば、確認してなかったような……。
おーい、りんごー。起きろー。」
少し大事なことに思い至ったので、直接本人に聞いてみる。
『ニャムニャム。
なによー、こてつー。』
『聞くの忘れてたけど、お前って雌、だよな?』
『むー!りんごのどこが雄に見えるのさ!』
『いや、ただの確認だから。』
良かった……。
まあ、雄でりんごも無くはないと思うけど。
「どうしたんですか?」
「いや、本人に聞いてみた。雌で合ってたっぽい。」
「会話ができるんですね……。それもスキルですか?」
「そそ。固有スキルだね。
それで、どうする?今日のところは街まで帰る?」
「そうしましょうか。」
「そだね。他のプレイヤーだったらまだスキル石を持ってるかもしれないし。」
「そうですね。
あ、でも、私がスキル石って売れるって言ってしまってます……。」
あー、それはなんとも言いづらい。
『何を話してるのー?』
『舞宮さんが『魔力操作』を覚えたいって話。』
『だったらこてつが教えればー?
てか、ついでに私にも教えてー。』
「え!?」
やべ、思わず声に出しちゃった。
「どうしたんですか?」
「何でもないよ。ちょっと待ってて。」
舞宮さんに不思議がられたがまあ、いい。
『りんごさん?
『魔力操作』ってスキル石無くても覚えられるの?』
『そうしないとこてつ達以外は誰も魔法を使えないよ?
確か、魔力の存在に気づければいいから、教える人がいたら簡単に覚えられるってー。』
まじか。
「どうかされましたか?なにか不具合でも?」
「あ、ごめん。
でも、『魔力操作』覚えられるかもしれない。」
「本当ですか!?」
「うん。今から、僕が魔力を流して見るから、その流れを感じてみて。
というわけで、はい。」
「手を握ればいいのですか?」
「うん。」
「では、失礼します。」
少し顔を赤らめている。そういう僕も少し恥ずかしい。
「これで……、良いですか?」
チョコンと手を握ったまま、至近距離から僕を見上げてくる。
ヤバい。ドキッとしてしまった。
「じゃあ、流すよ?」
「はい……、あっ!」
舞宮さんが声をあげたので流していた魔力を止める。まだ、lv1だからそこまで器用には動かせないし、何かマズいことでもあったのかもしれない。
「大丈夫です。続けてください。」
そのまま数分。
僕の方にはスキルレベルが上がったというアナウンスが何回かきた。
「あっ。来ました!
ちゃんと『魔力操作』を獲得できたみたいです!」
良かった。一安心だ。
というか、あと数分続いていたら危なかったかもしれない。
ナニが、かは秘密だ。
『りんごもー。』
◆ ◆ ◆
数分後。
リンゴも無事に『魔力操作』を覚えられた。
ついでに一個100万のスキル石を使わせてみた。
さすがに光魔法や闇魔法は引けなかったみたいだけど、無属性魔法の『回復魔法』のスキルを覚えた。
そこで、舞宮さんの方を振り返る。
舞宮さんはどこか困った顔をしていた。
「なにか問題でもあったの?」
「いえ、スキルが5つ埋まったのですけど……、その固有スキルとジョブが……。」
「なんだったの?ちなみに僕は『料理人』と『従魔師』だよ。」
「あ、羨ましいです……。
私はメインジョブが『アイドル』で、サブの方が『農家』でした……。」
「う、うん。ちなみに固有スキルは?」
「『応援』です……。
説明には『心を込めて応援しよう!何かいいこと起こるかも?』って……。」
また、アバウトな説明だなぁ。
「とりあえず、街まで帰りましょう……。」
「そうだね。」
◆ ◆ ◆
一日目終了時ステータス
時遡 虎徹 lv2
HP 1100 MP 1100
SP 1100
STR 110 DEF 110
INT 110 MND 110
DEX 114 AGI 110
所持ポイント 18
所持金 100000
メインジョブ「料理人」
サブジョブ 「従魔師」
固有スキル 「契約」
所持スキル 「値踏み lv1」
「魔力操作 lv3」
「採集 lv3」
「餌付け lv1」
「料理 lv1」
りんご lv6
種族 跳ねウサギ
HP 180 MP 60
SP 180
STR 18 DEF 12
INT 12 MIN 30
DEX 18 AGI 42
固有スキル 「 」
所持スキル 「飛び跳ねる lv1」
「魔力操作 lv1」
「回復魔法 lv1」
「 」
「 」
舞宮 うらら lv0
HP 1000 MP 1000
SP 1000
STR 100 DEF 100
INT 100 MND 100
DEX 100 AGI 100
所持ポイント 5
所持金 78000
メインジョブ「アイドル」
サブジョブ 「農家」
固有スキル 「応援」
所持スキル 「感覚強化 lv2」
「栽培 lv1」
「歌唱 lv2」
「光魔法 lv1」
「魔力操作 lv1」
面白いと思ってくださったなら、評価、ブックマーク登録お願いします。