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外郭十五番街  作者: 山本謙星
スワンプ・ドッグ
5/10

幕間 復讐鬼

 しなやかな歩み、澱んだ空気をかき分けて、暗闇の街を進む。確固たる足取りで前進するその心中には、同じく断固なる執念のみがある。


――取り戻さなければ。


――奪われたものを、取り戻さなければならない。


 彼は慕情のように純粋に、そのことだけを想い続けた。そう、自分は奪われたのだから……、理不尽な災厄のように、「彼ら」は自分から何もかも奪ったのだから。


――収奪には、収奪を。


――報復を。


――神の如き、無慈悲な報復を。


 彼の中にある論理は、そんな風に極めて単純で、故に揺るぎない。

 地を駆け、人だかりをすり抜けて、街路を巡り、彼はようやく辿り着いた。

 地下【延命都市】十五番街三丁目二番地。暗い路地裏の、人にとって小さなビル。そこには地下へと通じる階段があった。彼にはそれが、牙を光らせてこちらを待ち受ける、巨大な怪物の口じみて見えた。


――ようやく、辿り着いた。


 彼はそう確信した。やはりあの同胞の雌の匂いを辿って正解だった。


 彼女は佳い香りがした。しかしその匂いの中に、微か、彼の探し人の臭いが混じっている気がしたのだ。直感に従って、彼はその臭いを辿った。辿って辿って、辿り着いた。

 彼はビルの壁面を睨めまわした。小さな体の彼にとって、そこは大敵の潜む摩天楼だった。


――残る仇はあと一人。


――奪われたものを、取り戻さなければ。


 彼は高まる闘争本能の赴くまま、狂笑するように唇をめくりあげた。

 決行は夜。だから今は、このまま立ち止まらずに、ビルの前を通り過ぎていこう。

 足取りは止まらず、踊るように彼は別の路傍に飛び出した。


 街区の闇の底で、彼の歯列がぼんやりと白く浮かび上がっていた。


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