幕間 復讐鬼
しなやかな歩み、澱んだ空気をかき分けて、暗闇の街を進む。確固たる足取りで前進するその心中には、同じく断固なる執念のみがある。
――取り戻さなければ。
――奪われたものを、取り戻さなければならない。
彼は慕情のように純粋に、そのことだけを想い続けた。そう、自分は奪われたのだから……、理不尽な災厄のように、「彼ら」は自分から何もかも奪ったのだから。
――収奪には、収奪を。
――報復を。
――神の如き、無慈悲な報復を。
彼の中にある論理は、そんな風に極めて単純で、故に揺るぎない。
地を駆け、人だかりをすり抜けて、街路を巡り、彼はようやく辿り着いた。
地下【延命都市】十五番街三丁目二番地。暗い路地裏の、人にとって小さなビル。そこには地下へと通じる階段があった。彼にはそれが、牙を光らせてこちらを待ち受ける、巨大な怪物の口じみて見えた。
――ようやく、辿り着いた。
彼はそう確信した。やはりあの同胞の雌の匂いを辿って正解だった。
彼女は佳い香りがした。しかしその匂いの中に、微か、彼の探し人の臭いが混じっている気がしたのだ。直感に従って、彼はその臭いを辿った。辿って辿って、辿り着いた。
彼はビルの壁面を睨めまわした。小さな体の彼にとって、そこは大敵の潜む摩天楼だった。
――残る仇はあと一人。
――奪われたものを、取り戻さなければ。
彼は高まる闘争本能の赴くまま、狂笑するように唇をめくりあげた。
決行は夜。だから今は、このまま立ち止まらずに、ビルの前を通り過ぎていこう。
足取りは止まらず、踊るように彼は別の路傍に飛び出した。
街区の闇の底で、彼の歯列がぼんやりと白く浮かび上がっていた。