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外郭十五番街  作者: 山本謙星
スワンプ・ドッグ
1/10

序 執念の目覚め

 黒々とした孔がある。


 吸い込まれそうなその空洞から、たらりたらりと、赤い潮が零れ、広がる。


 その様を、彼はじっと見ていた。


 鏡を見るような心地で、じっと。


――目の前で、「わたし」が倒れて、死んでいる。


――だったら、今いるこの「わたし」は、いったい何者なのか。


 彼は考えた。考えて、考えて、考え抜いて、結局何もわからなかった。それどころか、思考すればするほどに、頭の中に黒い靄が広がって、あらゆる認識が霧消してしまうのではないかという気さえした。


――誰かの記憶が這入ってくる。


――記憶が入れ替わる。


――私の心を侵すこれは、いったい誰の記憶なのだろう?


 その新しい記憶が、ゆるやかに、やわらかに、かつての自分の思い出を上書きしていくのがわかった。


 そうして、改めて、目の前に広がる光景を眺めた。


 男が倒れて、死んでいる。


 眉間に黒々と穴を穿たれて、死んでいる。


――「わたし」は、この男に愛されていた。


 ふいにそんな想いが胸中に込み上げてきて、彼は居ても立っても居られなくなった。震える足に鞭打って、立ち上がる。自分の腹から、ぼとぼと音を立てて熱い液体が漏れ出す感触があったが、気にもしない。


――取り戻さなければ。


 彼の胸の内には、ひたすらその思いだけが、どす黒い怨念のように、強く焼き付いていた。


――奪われたものを、取り戻さなければならない。


2017/02/09

読みやすいように、改行の仕方を工夫してみました。以降の章も同様。

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