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誰もが忘れた勇者の名前は…  作者: しゆい
勇者と魔王
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第2話 凱旋、逃亡、Tバック。2

 花の大陸ブランディアの最西端に位置するのがダールベルク王国である。国境は東部に位置するディアスキア王国と東南部のセダム王国の二国で、ニース海峡を挟みリナリア王国が存在している。

 

 ダールベルクからセダムへの道のりは最短距離のカルドゥン峠を抜けるか、遠回りとなるが草原の道を進むかのいずれかであった。物ぐさなハンス一行が進むのは、当然休憩地の多い後者であった。


  すでにハンス達はセダム王国内で(通常7日かかる行程の道中4日目)、すでに13回目の休憩を取っていた。そこまでダラダラとしながら、討伐軍のどの帰還兵(本国との伝令)よりも帰還の速度が速かったのは、パステル・モーヴという強力な魔導士の力によるところが大きいであろう事は容易に想像が出来た。


 「あげあげ亭」

 その名の通りの揚げ物屋……でななく、スイーツ専門店である。「揚げ揚げ」ではなく「アゲアゲ」の方なのであろう。奇抜な色遣いの店構えが確かにアッパーな印象を受ける。


 名物のあげプリンをたしなみながら、ハンスはパーティーの一同を見まわしながら言う。


 「ちょっと、俺、疑問に思っている事があるんだがね。キミたち。」


 「えっ、どうして今日私がTバックを履いている事に気が付いたの?そりゃ疑問よね、でも理由は分かっているわよね、ハンス。私はいつでも勝負しているって事よ。後はハンスの勇気しだい的な……。」


 あげミルクレープをつつきながら、修道士のマイ・グラニーが体をくねらせる。


 「な、なんでも無理やりエロネタにすんじゃねーっつの。(でも、ドキドキ…)」


 赤面するハンスをしり目にパステルが対抗する。


 「それなら、私は黒のスケスケだかんね。ハンスは三度の飯より、スケスケが好きだって卒業文集に書いたくらいの筋金入りの、スケスケマニアなんだから。」


 「だぁ~、うるへぇ~!そんな事、卒業時に主張するか!とにかく、俺の疑問はあの時、騎士の間でお前らが現れた時、すでに状況を把握していた件だよ。例えば、パステルの件も知っていたみたいだし、ヨランダが言ってた事も素直に許容していたし。一体いつ知ったんだよ。」


 「あ~、いつだっけっか。あ~2年前くらい?」

 アーチャーのグルス・アン・アーヘンは、あげプリンの抹茶味を食べながら、重騎士のサン・ガッデスに同意を求めた。

 「そんな感じでいいんじゃない?もう覚えてないなぁ~。」

 あげパンケーキの最後の一切れを口に頬張りながら、相変わらず面倒くさそうだ。


 「えっ?えっ?ちょい待ち……。2年前って俺らがパーテイー組んだ頃じゃん…、えっ、えっ、何?どういう事?」


 とてつもない不安がハンスを包んでいた。正直言えば彼らといると日常茶飯事的な事柄ではあったが、どれだけ時を重ねようと慣れるものではなかった。


 「つ・ま・りぃ~、2年前にハンスがこのパーティーを自分で組んだと思っていたのは虚構で、実はこのパーティーを作ったのはヨランドでした~!みたいな。みんなヨランドがスカウトしたのを、さもハンスが選んだみたいにしたの。なかなか大変だったんだからねぇ。でも、すごいよねヨランドって、2前から今回の一件を計画してたんだから。まんまと成功させるハンスの天然ぶりもすごいけど。」


 どれだけ気にいったのか、魔導士パステルは今日もメイド服をヒラヒラさせながら、ハンスが立ち直れないような発言をさらりとした。ちなみに食べていたのはリンゴのあげムースだ。


 「に…2年間、おっ…俺を…騙していたって事?初めから…お前ら…。」


 果たして、自分は立ち直れるのかと本気で頭がクラクラしてきたハンスに、それぞれが歪んだ気遣いの言葉を浴びせる。


 「いやね、ハンス、男女は騙し、騙され愛を育むものよ。」


 「あっ、それもう私がハンスに使った言葉だよっ、ざ~んねん♪」


 「きぃーーーっ」


 マイ・グラニーとパステルのやり取りを、華麗にスルーしグルスが追い打ちをかける。


 「ハンスよぉ~、騙すも何もお前が何にも聞かないから答えなかっただけの事だぜ~。」


 「そんな事、夢にも思うかっ!」


 ハンスの最後の虚勢を制したのは、巨漢のサン・ガッデスだった。


 「ハンスさん、大丈夫ですよ、こんなの隠し事のごく一角に過ぎないんだからさぁ…。」


 「俺……、マジでお前ら怖い……。」


 ヘロヘロにされたハンスの向かいに座っていたヨランドの妻の妹、エウリディーチェが挙手をしている。どんな些細な慰めでも欲しているハンスは、救いの眼差しをエウリディーチェに向けながら激しく頷く。発言の催促だ。


 「あの……、私今日、黒のスケスケのTバックを履いているのですが、私にも何か疑問を感じるのでしょうか?」


 店内の静寂は無限とも感じられた。

 「あっ…いや……、そうなんだ……。」


 ハンスの燃え殻を眺めながら、他のメンバーが感じたのは、エウリディーチェという絶世の美少女が内包する「イタさ」だった。

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