表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰もが忘れた勇者の名前は…  作者: しゆい
勇者と魔王
6/42

第2話 凱旋、逃亡、Tバック。1

 魔王討伐軍の本体がノイシュヴァン城に入城したのは、ヨランド・ダラゴンがこの地を去ってから数時間後の事であった。ハンス達一行はそれまでに整える事が様々あった。


 いかにも苦戦の末、魔王を打ち取った勇者の姿を演出し魔王の「死」を強調する事だ。しかし、ハンスの演技力の欠如では不自然さを強調させるだけで、メンバー達は一応に「役立たず」と心の中でつぶやくのだった。これにつては「最小限の事しかしゃべるな」という結論に至った。またマイ・グラニーやグルスが、兵士たちにずいぶん盛った英雄譚を聞かせてまわった。正直、盛り過ぎて現実感が希薄となり、この行為が是か非かはよく分からない。


 他には、英雄の言葉として、改めて兵士達に占領下の民衆に危害を加えない事を徹底させた。これについては、さすがにハンスは強い信念を持っており魂のこもった演説により、多くの兵士の共感を勝ち取っていた。


 最後に、パステルはエウリディーチェにヨランドが使ったのと同様の不可視の魔法をかける。当然、勇者一行に魔王に連なる者がいては都合が悪い。パステルが魔法を担当したのは、エウリディーチェが魔王の娘ではあるが、あまり魔法を得手とはしていないからだそうだ。



 「ハンス様、ただいま魔王討伐軍本体がご到着し、イルセタ卿、ファネッテ隊長、ティスベ団長が入城致しました。ハンス様ご一行とのお目通りをご希望されております。」


 セダム王国の伝令がキビキビと指令を伝えた。


 「さてと、おでましですわね。ハンス、行きますわよ。」


 修道士のマイ・グラニーが、気乗りしないハンスを促す。


 「あ~、やだな~、やっぱあいつら来る前にふけるべきだった…。」


 「それはそれで不自然じゃね?まぁ、とっとと面拝んで、マジでふけようぜ。」


 グルス・アン・アーヘンも決して乗り気ではないが、ハンスよりは大人の対応を心得ているようである。


 会見は再び「騎士の間」で行われた。中央にイルセタが着座し、その脇をファネッテ、ティスベが固めている。同盟国のパワーバランスが容易に判断できる並びである。


 ハンス達はハンスのみが着座をし、他の者は後列にて頭を垂れた。


 (うげぇ~、また、3人ともいんのかよ~。)そんな苦虫を噛み潰したような表情のハンスを見て、ディアスキア王国騎馬隊長ファネッテが軽口をたたく。


 「なんだ、勇者殿、ご活躍すぎでお疲れか?我々の到着を待ってもらってもよかったのだぞ。それともお連れがべっぴんぞろいなのがお疲れの理由かな?が~はっはっはっ!」


 (うへぇ~最悪ぅ~)とパステル。


 (ホント疲れてみたいものだわ…♥)とマイ。


 場内がすっかり冷え切ったところでイルセタが口を開く。


 「ハンス殿、此度の目覚ましい仕事ぶり感歎の極みである。心より礼賛させて頂く。ご苦労であった。」


 「身にあまるお言葉、痛み入りますイルセタ卿。」


 心が籠っているのか、いないのか、の判別不明の絶妙な境界線の返答は、ハンスの得意とするところである。気持ちを籠めない対応なら演技の必要もなく、素でいいのだから。基本的に性格は悪いのだ。


 「魔王ヨランド・ダラゴの首級は見聞させてもらった。聞いていた通りその名に似合わぬやさ男だな。それでも勇者殿を手こずらせたと聞いている。その顔の傷は激戦のあかしという訳か。」


 まさか、自分のパーティーにやられたとも言えずハンスは口ごもる。


 「えっ、ええ、聞きしに勝る魔王っぷりでございました。」


 ハンスの後ろで、仲間が噴き出すのを必死に我慢している。ハンスは赤面しつつ、こいらいつか必ず痛い目に合わせてやると固く心に刻んだ。


 そんな勇者一行の状況など興味がなさそうに、イルセタは事務的に話を進める。


 「いずれその激戦の話でも聞かせて頂こう。長きに渡った戦いの後だ、貴公らにはゆっくりと休息を取られるがよかろう。また、これ以後のこの国の統治については我々同盟軍が引き継ぐ。後の処理については任せてもらおう。」


 イルセタの言葉は一片の反駁(はんばく)も許さない威圧感があった。


 「ええ、お任せ致します。また急ではありますが我々は会見終了後、直ちにセダム王国に帰投させて頂きます。ここでやるべきことは、すべてやり終えました故に。」


 ハンスの抑揚のない言葉は、相変わらず感情を読み取ることが出来ない。


 「そうか…、自由を身上とされる勇者の一行を、無下に引き止めることも(まか)りならんか。承知した、では道中くれぐれも息災でな。帰国後、王宮にて王より褒章をお受けするがよかろう。」


 「御意に。」


 退室する勇者一向。イルセタ、ティスベ、はハンスに対して人物としての「つまらなさ」を感じていたが、ファネッテはマイ・グラニーの「つまった」腰つきに感じ入り舌舐めずりをしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ