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剣士の路  作者: 真冬の蛍火
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第7話

翌日レオンハルトが起きたとき、自分がどこにいるのかわからなかった。

ただ、ベッドの傍でオルトが寝転んでおり、起き上がった彼に向かってどうかしたかと言いたげに、煩わしそうに尻尾をふりふりしていた。


「あれ? 俺は昨日みんなと酒を飲んで……ん、少し頭が痛い……」


「あ、もう起きたんですか?」


レオンハルトが昨日酒を飲みだしてからのことを思い出そうとし、二日酔いによる頭痛に頭を抱えた。その時、扉からアナが顔を出したのだった。


「昨日ミドに合わせて沢山飲まれたからべろんべろんでしたよ。ここに水を持ってきましたし、飲んで少しすっきりしたら降りてきてくださいね」


サイドテーブルの上に水差しとコップを置いてアナは部屋を出て行った。彼女は昨晩も付き合い程度しか飲まず、エリックと一緒に彼を連れて帰ってきていたので二日酔いもなくてきぱきと動いていた。

ミドと一緒にずっと酒を飲んでいたオルトのほうはというと、若干動くのが億劫そうであった。


「オルト、お前も飲むか?」


水差しを揺らしてまだ中身があることをアピールする。オルトはそれを見て小さくガウと応えた。

レオンハルトは記念に持ってきていたオルト用の皿を取り出し、中に水を注いでいった。すぐさまオルトが飲み始め、ようやく落ち着いたところで二人仲良く階下へと向かった。


「お、やっと起きてきたのか。もう朝食の時間は過ぎてるぜ」


階下に降りた二人を出迎えたのはミドだった。彼は戦闘服に着替えており、外へ出ようとしていたところだった。だが、彼の傍に彼の得物である斧はなく、素手の状態だった。そのことをレオンハルトが聞くと、きょとんとした顔を見せた後に豪快に笑いだした。


「がっはっは。いくら俺でもあんな死にかけた直後に依頼に出ようとは思わねぇよ。今からハンターギルドにある修練場にいって軽く訓練してくるんだ。良かったらお前らも来てみろよ。相手はより取り見取りだらから楽しいぜ」


戦闘狂(バトルジャンキー)のような台詞を残して彼は出て行った。外ではすでにメリッサが待機していたようで話し声が聞こえてきていた。

レオンハルトはオルトにどうしようかと視線を向けるも彼女は違うところを見ていた。そしてレオンハルトがそれに釣られて視線を動かすと、その先にある扉から丁度アナが出てきたところだった。


「あ、レオンハルトさん。朝ごはんがこちらに用意してありますよ。折角ですし食べていきませんか?」


「あ、ああ。お言葉に甘えていただくよ。オルトは……」


「オルトさんの分も用意してありますから大丈夫ですよ」


アナが笑顔で告げる。一人と一匹は互いに顔を見合わせて、アナが戻っていった部屋へと入った。部屋はダイニングのようになっていて、テーブルの上にはトーストと牛乳のセットが置かれていた。床にはオルト用なのか、骨付き肉がでんと置かれていた。

アナはそのまま調理場の方へ行き、残っていた火種を使ってスクランブルエッグを作り出した。その手際はかなり手慣れているようで、〈大地の牙〉の料理番という感じであった。

まだテーブルについていたエリックがレオンハルトとオルトに気付き、爽やかに挨拶を投げてくる。


「やあ、おはようさん。昨日はぐでんぐでんに呑んでたみたいだけど、大丈夫かい?」


「ああ、二日酔いだったがさっきアナさんから水を貰ったから大丈夫だ。それより、ここに泊めてくれてありがとう」


「はは、昨日酒席に誘ったのはこちらだからね。宿すら取ってないのに飲まして、はいさよならは命の恩人にすることじゃないさ。これで借りを返せたとは思ってないけれど、少しでも君の役に立てたのなら良かったよ」


レオンハルトが泊めてもらった恩を口にすると、エリックは気にするなと言いたげであった。彼にしてみればパーティーメンバーのミドが勝手にやり始めた酒宴でまだ街のことをよく分かっていない新人を誘ったのだ。そこはきちんとフォローすべきと考えていた。ましてやレオンハルトは彼の命を救ってくれた相手であり、ここ(ホームハウス)に連れて来なければ恩を仇で返すようなことになる。その選択肢はエリックだけでなく、〈大地の牙〉の面子にとってあり得なかった。


「それで今日からどうするんだい? 君さえ良ければここにいてくれても構わないが」


エリックの問いに反応したのはアナである。彼女は視線こそスクランブルエッグに向かっているが、意識の大半は二人の会話へと向かっていた。


(もし、レオンハルトさんがここに泊まるようになったら……あううう)


何を想像したのか若干顔を赤くしながらも、慣れ故に手際よくスクランブルエッグを皿に移していく。流石に体が覚えていることなのでミスはしなかった。そのまま皿に盛りつけ、塩を少々振りかける。その間も耳は会話のほうへと集中していた。


「今日は既にいないが、俺の妻も住んでいるし、ミドやメリッサもここに住んでいる。勿論アナもだな。シェアハウスと言えばいいのかな? 一応ホームハウスとして建てたからメンバーが増えても大丈夫なように部屋も多めに作ってある。オルト君のこともあるし宿も取りづらいだろう。

別に家賃を払えというのではなく、純粋に僕たちを助けてもらった恩に報いたいだけだよ」


エリックとしてはこのまま過ごしてもらった方がレオンハルトとの結びつきも強くなり、いつかはパーティーへ誘えるのではないかという打算もあった。が、本音の大部分は自分が言った通り恩義を感じているからだった。じっとレオンハルトのほうを見つめる。

レオンハルトも宿を探す手間などを考えればここに住まわせてもらった方が何かと楽だろうとは思った。だが、まだ彼にも自立したいというちっぽけなプライドがあった。このままずるずると〈大地の牙〉の面々に世話になっていくのは違うのだ。そう考えた彼はエリックに断りの返事を口にした。


「ありがたい申し出なんだが、まだハンターになったばかりだし、一先ずは自力で何とかしていきたいんだ」


「そうか……いや、気にする必要はないさ。ハンターとしてやっていくならある程度世の中のことを知っておいた方が良い。僕たちが世話をしてしまうと、その辺りの感覚が身に付かないかもしれないしね」


「済まない」


「ははは、ただもし宿が取れなかったら戻っておいで。ここで薄情になることはないからさ」


「……ありがとう。その時はよろしく頼む」


レオンハルトの言葉にこっそり聞き耳を立てていたアナは肩を落とした。が、すぐに気を取り直して出来上がった朝食をレオンハルトの元へと届ける。次いで、オルト用に取っておいた肉類を皿に盛りつけて彼女の前へと置いた。


「どうぞ。お口に合わなかったらごめんなさい」


「ありがとう。いただきます」


食料に感謝し、作ってくれた人に感謝してご飯を食べる。いただきますとごちそうさまの習慣は、古に召喚者が国王に伝え、それがさらに国民に伝えられたとされている。手を合わせて呟いてからフォークでスクランブルエッグをトーストの上に置く。既にトーストにはバターが塗られている。そのままぱくりと一口。

その様子を真剣な表情で見ていたアナにレオンハルトは美味しいと笑顔で言った。それに照れて頬が若干赤くなったのはご愛敬である。

オルトのほうもガツガツと肉を食べていく。その豪快さは朝の気怠さなど微塵も感じさせないものだった。







朝食後、レオンハルトとオルトは街へ繰り出した。ハンターとしての依頼をする前に自分たちの寝るところを確保するためである。エリックの申し出を蹴ったので当たり前であるが、これがレオンハルトの予想以上に困難を極めた。


そもそも従魔も可という宿があまり多くなかった。需要は存在するし、供給が追い付いていない状態なので売り手市場なのだが、いかんせん魔物への恐怖が大きかった。宿を運営するのは基本一般人であり、いくら街を守る騎士が保証したとしても一歩間違えば一瞬で殺されるのではないか。そう考えるものが多かったのである。ましてや、オルトは大きな虎である。ただの虎でも猛獣として敬遠されがちなのに魔物としての虎であるなら言わずもがなである。それも見越してエリックは見つからなかったら戻って来いと言ったのであった。


「すみません。うちではそちらの従魔さんに対応できる部屋がありません」


「あ~~~、既にうちは満杯なんだよ。他を当たってくれや」


「と、虎! 無理無理無理無理無理無理」


行く先々で断られるレオンハルトとオルト。オルトはいい加減面倒くさくなってきていて、エリック達の所でも我慢するつもりでいた。だが、レオンハルトのほうはまだ諦めきれず、宿を探し歩くつもりでいた。


時は正午過ぎであり、遅い朝食を取ったとはいえ、既にオルトは空腹で早く飯を食いたがった。しつこく催促されたため仕方なく露店でフォレストード(蛙)の串焼きを購入。淡白な鶏肉のような肉に特製のソースがマッチしていて中々に旨かった。


「なあ、おっさん。ここらへんで従魔もいける宿を知らないか?」


レオンハルトは藁にもすがる思いで店のおやじに尋ねた。おやじは他の串も焼きながらちらとオルトを見る。そして首を横に振った。


「すまねぇが俺が知ってる店だとそこのごつい従魔じゃ無理だな。大体そこまでごついのよく捕まえられたな」


「ああ、小さい時から育てたからな」


「へぇ……そういう手があるのか。ま、俺にゃ無理だわ。わっはっは」


結局このおやじからは碌な情報が入手できなかったレオンハルトは串を処分してとぼとぼと道を歩いていた。宿自体はすぐ見つかるのだが、やはり従魔も可というのが少ない。あっても先ほどと同じような反応が返ってくるばかりだった。

すでに街中は探しつくしたと言っても良いくらいで、彼は途方に暮れてしまった。このまま探し続けても見つからないかもしれない。そんな思いが胸をよぎったその時だった。


ドン。


「あ、きゃ、きゃあ!?」


路地裏を歩いていたレオンハルトに少女がぶつかってきた。レオンハルトは鍛えている分一歩足を下げるだけでなんともなかったが、少女のほうはそうはいかなかった。当たった衝撃でその場に転んでしまう。


「いったた……ご、ごめんなさい」


少女は慌てて立ち上がったが、すぐにうずくまってしまった。どうしたのか、とレオンハルトが疑問に思うと、少女がその理由を口にした。


「足、挫いた……うぅ」


「歩けないのか?」


「我慢すれば……でも」


でもの後が気になったが、レオンハルトは考えを中断せざるを得なかった。なぜなら三人のチンピラ風の男たちがニヤニヤしながら近寄ってきたからだった。


「おーい、姉ちゃん。ようやく追いついたな」


「あん? そんなところに丸まって一体どうしたんだ? ひゃっはっは」


「もしかして俺たちに美味しく頂かれるのを待ってたとか? 焦らし上手じゃねぇか。うへへ」


三人はレオンハルトに目もくれず、少女を脅すように道に広がりながら包囲しようとしていた。レオンハルトも少女と三人の関係が分からず、どうしたものかと静観していた。が、そこでオルトがくいくいと服を引っ張り少女に顎をしゃくる。それだけでレオンハルトは彼女が言いたいことが分かった。そして、その通りに動き出した。


「ちょっと待ちなよ」


レオンハルトが少女と三人の間に入ると、三人は怪訝な顔で彼を見つめた。


「あんだテメェ。俺らはそこの嬢ちゃんに用事があるんだ。そこをどきな」


「と、こいつらは言ってるが、本当?」


少女はレオンハルトの問いにぶんぶんと首が取れるのではないかと思うほど横に振った。


「違います。宿の勧誘をしてたらいきなり路地裏に連れて行って犯そうとしたんです」


強姦は勿論婦女暴行で犯罪である。だが、犯罪というだけでは抑止力にはなっても、実際になくすことは不可能である。ましてや警備を担当する者が少ない現状、取り締まりも難しく、結果として泣き寝入りしている女性は多かった。


「オルトの言う通りか。じゃあ、こいつらは叩きのめして大丈夫かな……」


「あ、危ないですよ。こいつらこの界隈で有名なガラの悪いハンターです!」


「そうなのか? それにしては……」


歩き方や立ち振る舞いを見る限り、レオンハルトは負けない自信があった。たとえ、彼らのうちの誰かが武器を取り出したり、魔法を使ったりしたとしても対応できる自信があった。


「おいおい、兄ちゃん。下らねぇこと言ってるとケガじゃ済まなくなるぜ」


既に邪魔したということで腕の一本や二本、折っていくつもりだったが、レオンハルトの言葉を聞いてそれだけでは済まさないと言いたげに手を握りこんでいる。まだ彼らはオルトに気付いておらず、もし気付いていればこの場で逃げ出していただろう。少女のほうも気付いてはいなかったが。


「吠える前に行動したどうだ?」


その言葉と共にまず正面に立っていた男に肉薄して、その鳩尾に拳を叩き込む。きちんと捻りも加えているその一撃に男は言葉を発することなく、白目を剥いてその場にうずくまった。


「なっ!?」


これに仰天したのが両脇の男で、呆然と仲間が崩れ落ちるのを見ているだけだった。ここで何かしらの行動に出ていればまだレオンハルトを倒す目が有ったはずだったが、それも消失してしまった。


「ふっ!」


「ぐべっ!」


レオンハルトは呆然と立ち尽くしている右側の男に接近し、足を刈り取り倒れたところにかかと落としをかます。綺麗に頭に直撃し、こちらの男もまた白目を剥いて気絶してしまう。


「ば、化け物め!」


ここでようやく残りの一人が敵わないことに気付いて逃げようとしたが、時既に遅くレオンハルトは一足で近寄り、その背中に向けて近寄った勢いを乗せた肘を叩き込んだ。


「ぐはっ……」


男は背中の衝撃に息を詰めるも、その場になんとか踏みとどまった。態勢は崩せても倒し切ることは出来なかった。が、レオンハルトはそれを見越しており、その勢いのままくるりと体を回して側頭部に蹴りを叩き込んだ。


「げぴっ!」


最後の男も白目を剥いて倒れこんだ。

一瞬で札付きのハンターが叩きのめされた光景を女の子は信じられなかった。それこそ高ランクの冒険者でもないと出来ないのではないかという所業である。

それを為したレオンハルトは肩透かしだったのか、冷めた目で男たちを見下ろしていた。が、それもほんの少しのことで、怖がらせないよう柔和な笑みを少女へと向けた。


「こいつらは後でハンターギルドに突き出しておこう。現行犯だからなんとかなるさ」


「あ……有難うございっ!」


レオンハルトが自分を助けてくれたことを漸く理解し、慌てて頭を下げる。が、途中で挫いた足が痛み、声が途切れてしまった。


「足が痛むんだったか。ちょっとごめんよ」


「え? え? ひゃあっ!?」


レオンハルトは一言断りを入れてから彼女を抱きかかえる。所謂お姫様抱っこというやつであり、少女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。それを気にすることなく、レオンハルトは少女を家に送り届けるために家の場所を尋ねるのだった。

この後、オルトの存在に気付き、少女が可愛い悲鳴を上げて、危うくレオンハルト自身が捕まりそうになったのを記録しておく。


読んで下さり有難うございます

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