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剣士の路  作者: 真冬の蛍火
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第6話

「この街は東西南北に走る大通りを境目にして四つの区画に分かれています」


バルツブルグと呼ばれる街は森と共に成長してきたと言われている。その森の恩恵を隣の街に繋がる街道は西と南に接している。街の北と東は森に面しており、北はハンターご用達、東は林業業者ご用達となっている。区画についてもそれに合わせた作りとなっている。


まずは北東部。こちらは森から切り取ってきた木材の資材置き場および加工場となっている。偶にハンターが入手してきたトレント系の魔物の置き場としても使われていたりする。


続いて南東部。こちらは加工された木材、および商品の倉庫となっている。各商人で倉庫を管理していたりもするので結局街の4分の1が倉庫に取られてしまっていたのだった。倉庫がある故に商人たちが加工された商品の積み込みなどもここで行われるため、道幅をかなり広めにとっているのも街の面積を圧迫するのに一役買っている。


さらに北西部。こちらは所謂商店街となっている。中央通りに近い方に飲食店、雑貨屋をはじめとした商店が並び、奥の方は歓楽街となっている。歓楽街のほうは内壁とでも言える壁で区切られており、田舎者が迷い込まないようになっている。それと北通りには屋台通りがあり、そこでは様々な屋台が並んでいる。ちなみに屋台通りにハンターギルドも置かれている。


最後に南西部。ここは街の人々の居住区となっている。林業関係者や加工業者、さらには兵士の家族などもここで住んでいる。この居住区には代官の屋敷もあり、街のことで何か会議が行われるときはこの屋敷が使われたりする。


「……という感じですね。私たちが入ってきたのは西門ですのでこのまま真っ直ぐ行きまして中央の手前の屋台通りで左に曲がります」


アナの説明を聞いて、レオンハルトはなるほど……と思っていた。

元々村で一生を過ごすと考えていたので、他の街のことは全く知らなかった。故にその説明を新鮮な気持ちで聞いていたのだった。


「ふふ、結構歩きますからもしお腹が空かれたら屋台通りでちょっと摘まんでいくのが良いですよ」


あれが美味しい、これが美味しいと身振り手振りで示すアナ。それにいつもは我関せずを通すオルトが尻尾を振り振りしながら話を聞いていた。恐らく食べたいのだろうなぁとレオンハルト。

彼女はレオンハルトの家にいた頃から、大食漢でよく彼とご飯の取り合いをしたりしていた。もっとも地方のしがない農村では裕福な暮らしなど夢のまた夢であり、貯蓄のためのお金が全て食費に回ってしまっていた。苦肉の策として父親のドラグがこっそり魔物を狩っては換金していたため、なんだかんだで普通の農家よりは豪華であった。







「着きましたよ。ここがハンターギルド〈バルツブルグ支部〉です」


屋台通りで結局オルトの催促で幾つかつまみ食いをしながら歩いてきたレオンハルト達一行の前に、非常に大きな3階建ての屋敷のような建物があった。入口は大きな観音開きの扉になっているようで、普段は開けっ放しなのか、開けた状態で留められていた。


「ここは誰でも受け入れるという姿勢を出すために常に開けられているんです。それはもう一年中ずっとですね。閉じられる時は本当に街を揺るがすほどの非常時のみか、ハンターギルドが無くなったときのみと言われています」


それを聞いたレオンハルトは思った。

この立派な扉作る意味なかったんじゃないか、と。


「多分、他の皆は既に来ているでしょうから早く入りましょう」


アナはそう言ってレオンハルトの手を引いて、建物の中へと入っていった。オルトはその様子に溜息を吐くかのように大きく息を吐いてからそのあとに続いた。


中のエントランスはかなり広かった。まっすぐ奥にカウンターがあり、そこで様々な受付がなされている。天井には案内板もぶら下がっていて、どの受付が何に対応しているのかが一目で分かるようになっている。また、入って右手側には大きな依頼版があり、多種多様な依頼が張り出されている。特に多いのは森での採取、狩猟、もしくは猛獣魔物退治である。逆に左手側はギルド内に併設されている酒場になっており、テーブルもそこそこ埋まっている。

アナとレオンハルトが入ったときは誰も気に留めなかったが、オルトが入ってくると、一部からざわりとした雰囲気が流れてくる。


「おい、あれ……」


「虎型の魔物……グレイタイガーなら色が違うし、ブラッドタイガーは気性が荒いからテイムは無理だろう」


「もしかして風虎とか?」


「まさか、それこそあり得ないぜ」


囁き合うように小さな声で喋るハンター達。無論、人間の何倍もの聴覚を持つオルトには丸聞こえであったが、気にすることはなかった。

一種異様な雰囲気が一瞬辺りを占めたが、すぐに能天気な声でかき消された。


「お、もう来たのか。もっと時間が掛かるのかと思ったぜ」


中に入った二人と一匹に声をかけたのはミドだった。その手には麦酒(ビール)が入ったジョッキが握られている。彼はギルド内部に併設されている酒場で周りと談笑しながら飲んでいたのだった。ただ、〈大地の牙〉の残り二人の姿は何処にもなかった。


「ミド、もう飲んでるんですか?」


「オウ! 仕事が終わったらこれを飲まねぇとやってられねぇよ。ん? オルト、お前さんもいける口か?」


呆れたように問いただすアナにミドは軽く応え、その横で鼻をスンスンしながら麦酒に近づくオルトに対してニカっと笑う。

オルトのほうはオルトのほうで、ミドの質問に軽く「ガウ」と応え、その横でゆっくりと腰を下ろした。

この時、周りにいた何人かのハンターが顔を青くしてそっとその場を後にしていた。が、酔っ払いハンターはオルトがいることに気付かず、ずっと騒いでいた。


「ミド、エリックとメリッサは?」


「おーい、姉ちゃん。こっちのオルトにも麦酒頼むぜ。飲みやすいように皿に入れてきてくれ。あとつまみも幾つか」


「ミドっ!?」


こっちの無視した対応にアナが怒声を上げる。何人かのハンターがどうしたと顔を覗かせるも、二人を認めたらいつものことだと自分の席へ戻っていった。


「ったく。相変わらずアナは真面目だなぁ。あの二人なら今頃支部長にあの件を話に行ってるさ」


「じゃあ、なんでミドは行ってないのですか?」


「そりゃ、俺が行っても何の役にも立たないからだろ。メリッサからもここにいて良いって言われたぜ」


周りからも、そうだそうだ、とからかうように酔っ払いの叫びが響く。

アナは暫くの間、ミドを睨みつけていたが、やがて肩の力を抜いて、ふうと溜息を吐いた。


「もう……レオンハルトさん。取り敢えずミドはほっておいて、登録に行きましょう」


「あ、ああ」


レオンハルトは未だ騒いでいるミドを呆れた目で見ていた。そして、ハンターが元々無頼漢だったという話を思い出し、なんとはなしに納得するのだった。


「オルト、お前も来るか?」


「……グル」


麦酒をちびちびと飲んでいたオルトは、レオンハルトのその声に一度は顔を上げるものの、また視線を皿に戻してちびちびと飲みだした。尻尾は上機嫌に揺れていたためにレオンハルトは肩を竦めて、そのまま放置した。


「じゃ、行くか」


受付は幾つかに分かれていたが、天井につるした案内板があるおかげで迷うことなく新人登録用の受付に向かう。一応素材買取との併用ではあるが、時間の関係もあり待つことなく受付てもらえた。受付にいたのはもうすぐ40歳になろうかという小父さんであった。


「ようこそハンターギルドへ。こちらに来られたということは新しくご登録されるということでしょうか?」


ちらりとアナを見やるも、レオンハルトに笑顔で聞く。アナを見ていたのは現役ハンターであるアナのことを知っているからであり、また新人ハンターが登録する際に付いてくることが珍しかったからだ。


「ああ、頼む」


「はい、ではこちらに名前をお書きください。ハンターギルドでの誓約書になります。これらの条項が守れない場合はハンター資格を剥奪されることもありますのでご注意ください。もし字の読み書きできない場合は仰ってください」


「ああ、それは大丈夫だ……」


誓約書を読んでいくと、基本は人様に迷惑をかけないこと。自己責任であること。依頼を達成する際にギルドに迷惑をかけないことなどが載っていた。一通り読み終わると名前をさらさらと書いていく。


「有難うございます。それとこちらは任意になりますが、出身地、得意武器、得意魔法、その他特技や従魔の情報などがありましたらお書きください。こちらに書かれました情報はギルドで慎重に管理しますのでご安心ください。またこれらの情報は指名依頼をする際の検討材料になります。書かれないというのも一つの手段にはなりますが、なるべくお書きになりましたほうがギルド側としましても安心して依頼に送り出せますのでご協力お願いいたします」


ちらりとアナを見ると、心得たものでこそっとアドバイスを囁いた。


「大雑把に書かれてるだけでも大丈夫ですよ。私やエリック、ミドにメリッサも全員書いてますし、あとオルトさんのことは絶対書かれた方が良いですよ」


そんなものか、と納得しすらすらと書いていく。得意武器は剣。得意魔法は身体強化。その他にテイム(風虎)と書いていく。書き終わり、一通り確認しなおした上で渡す。

受付の小父さんはテイムのところで目を見張ったが、それ以上は何の反応も見せずに、「少々お待ちください」と一礼していから奥の事務室へと消えていった。そして、レオンハルトがアナに尋ねる前に、小さなプレートを持って戻ってきた。


「お待たせしました。こちらが登録証になります。特殊な鉱石で出来ていまして、魔力を通す、もしくは地を垂らすことで鉱石にその魔力波形が登録されます。まぁ簡単に言いますとその人専用として扱えるプレートですね」


説明の途中でレオンハルトの眉間に皺が寄ったのを見た職員はさっと簡単な説明に切り替えた。この辺りは大体どの新人も同じ反応を示しているために職員のほうも手慣れたものであった。


「そちらのプレートには本人確認のために使われますので紛失にご注意ください。また仮に紛失なされたときはすぐに此方に仰っていただければ再発行いたしますのでご安心ください。ただし、今回は無料でお作りしておりますが、再発行時には銀貨1枚つまり10,000G徴収しますのでご了承ください」


「10,000Gでいいのか?」


「はい。こちらの鉱石は希少な物でもありませんので、紛失しないよう注意を促すためと再度用意する準備代程度ですね」


金の価値の目安としては、一般一家四人が一ヵ月間節度を持って暮らしていくのに必要な金額が大体20万G程度と言われている。また職業にもよるが、一ヵ月の賃金はおおよそ20万から40万程度と言われているため、手に職を持つものが暮らしで困るということは余程豪遊でもしない限りあり得ない。


また硬貨としては

1G=石貨 10G=銅貨 100G=銅板 1000G=大銅貨 10000G=銀貨 10万G=銀板 100万G=金貨 1000万G=白金貨

となっている。


「それではプレートのほうに魔力を注いでみてください」


レオンハルトが言われるままにプレートに魔力を注ぐと、淡い光を発して、Gという文字とレオンハルトの名前が浮かび上がる。


「そちらに表示されましたのが、ハンターとしてのランクとお名前になります。ハンターランクについてはご存知ですか?」


「いや、知らない」


「では、それも併せてご説明いたしますね。ハンターランクは最低ランクをG、そこからF、E、D、C、B、A、S、そして最高ランクをSSとした9段階評価のことを指しております。大体になりますが、G、Fが駆け出し、E、D、Cが熟練者、Bからが一流と呼ばれるハンターになります」


「私たち〈大地の牙〉はランクCのパーティーですね。私自身はまだDランクなのですが、エリックなんかはもうすぐBになれると言われてますよ」


アナが自慢げに言うのを受付の職員は微笑ましく見ていたが、気を取り直して説明を再開する。


「ランクの乗降につきましては基本は依頼の達成度に拠りますが、ギルドへの貢献度も加味されます。ですのでランクを上げていきたい場合はどんどん依頼をこなして、実力を上げていかれるのが良いでしょう」


「依頼はそれほど余っているのか?」


「いえ、余るほどではありませんね。ですが、ほぼ毎日何かしらの依頼が持ち込まれていますから選り好みしなければ依頼は受けることができるでしょう」


あちらに各ランクに分かれた掲示板がありますと手で示す職員。その手が示す先にはいくつかの掲示板があり、上部に大きくGやFといった文字が書かれた紙が貼ってある。今も数人がそれぞれ自分のランクの掲示板を眺めている。


「あそこから依頼書を持ってあちらの受付で受理してもらいます。ここできちんと受理していただかないと揉め事の原因にもなります。過去に面倒だからという理由で受理してもらわずに依頼に行き、正規に受けた方と喧嘩になり、果ては殺し合いまで発展した例がございます。我々ハンターギルドは仲介者でありますので、ハンター同士の諍いに口を出すことはありません。どうかご注意ください。

また依頼終了の報告につきましてはあちらの受付で行っていただきます。依頼書のほうに依頼主からの終了証明が必要になりますのでお忘れなく貰っておいてください」


依頼書を持ちこむ受付の隣が示される。そちらには今も何人かのハンターが談笑しながら並んでいる。みんな依頼が終わったことで陽気な感じであった。


「説明は以上になります。もし何かありましたら職員にお尋ねください。ただ、先ほども申し上げた通りハンター間での諍いにつきましては不干渉になります。お気を付けください」


「ハンターは気が短い人が多いですからね。獲物の取り合いなどが日常茶飯事なのです。似たような依頼を複数から出されたりすると特にそうなんですよ」


「そちらの方の仰る通りですね。ただ、全員が全員気が短いわけでもありませんし、温厚で知られる方も多いですよ。〈大地の牙〉のエリックさんはその筆頭ですね」


なるほど、とレオンハルトは納得していた。確かにエリックならきちんと話を聞いてくれそうだし、ミドは話す前に拳が飛んできそうだ。そのミドは今もオルトと共に宴会騒ぎをしている。徐々に人が増えているのに気付いたアナはまたか、という顔で溜息を吐いていた。


「ではレオンハルト様、これからのご活躍を心より願っております」


「ありがとう」


職員が礼をしたので礼を返しながらレオンハルトは席を立った。と、その時丁度エリックとメリッサの二人が2階から降りてきた。二人はまずミドの姿を見つけ苦笑し、その近くにオルトがいるのに驚いた。そして受付のほうに目をやりレオンハルト達を見つけた。そしてミドのところには寄らず、レオンハルト達の所へと足を向けた。


「もう来てたのか。そのプレートを持っているということは無事にハンターになれたんだな。おめでとう」


「実は実力不足でハンターになれないってことが偶にあるのよ。ま、レオンハルトなら問題ないとは思ってたけどね」


おめでとうの言葉に首を傾げていたレオンハルトに苦笑しながらメリッサが説明する。それに納得したレオンハルトはエリックの祝辞を素直に受け取った。


「ミドはいつものように宴会か。俺とメリッサはミドに付き合うが、二人はどうする? レオンハルトが良かったら来てほしいんだが」


「エリック、彼はまだこの街に来たばかりで宿もないんだよ。それをどうするのさ?」


「彼さえ良かったら今日は泊まって貰ったらいいじゃないか。幸い僕らの家はまだ使っていない部屋があったし。それにオルト君も泊まれる宿を今から探すのも酷じゃないか」


「それは……確かにそうだけどね」


「オルト君も宴会に参加してるみたいだし、彼だけ探しに行くわけにもいかないじゃないか。アナもそう思わないかい?」


エリックはオルトが飲んでいるのを見た時点で今日は自分たちの家に泊まらせようと思っていたのだった。それにアナも彼が一緒のほうが嬉しいだろうと思ってのことだった。メリッサもエリックの言葉に一定の説得力があり、何よりアナがぱあと顔を明るくしたので折れることにしたのだった。


「仕方ないね。で、肝心のレオンハルトはどうするんだい?」


「オルトが既にあそこで飲んでしまっているし、お言葉に甘えてもいいかな?」


レオンハルトもオルトがあんな状態では梃子でも動かないことを知っていたので宴会に混ざれるのは有り難いことだった。それにお酒を飲むのが実は初めてであるために楽しみでもあった。

こうしてレオンハルトも交えた宴会は次の日の朝まで続き、大量の酔っ払いを量産することになった。ちなみにレオンハルトは10杯目辺りでダウンしてしまい、アナとエリックの手で彼らの家まで運ばれることとなった。



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