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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

カプセル太郎

作者: 兎角 星人

童話です。そのつもりです。

パロディなども多少ながら含みますので、その点をご理解した上でお読みください。

 今より少し未来。おじいさんと、おばあさんが住んでおりました。二人は、貧しくも幸せに暮らしています。


 ある日、おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。


 おばあさんは、還暦祝いにおじいさんが買ってくれた、お気に入りのワンピースを川に浸します。するとどうでしょう、服に染み付いた汚れが、みるみる酷くなるではありませんか。


「ああ、おじいさんが退職金をはたいて買ってくれたブランド物のお高いワンピースが・・・。これはダメね。私のおばあさんが子供の頃は川の冷水で洗濯をしていたそうだけれど、今や生活排水でギトギトのドロドロ。臭いも堪らないし、お魚も住めない。どうしてこんなに成るまで排水を流し続けてしまったのかしら。始めの頃は、川をきれいにしようと国が何かと活動していたけど、いくら資金を投じても一行にきれいにならないがためにどの計画も打ち切り。環境省も投げっぱなしになり、近年では臭いのする川にフタをかけて対策するように。これはもうダメね」


 と、長々と嘆いて、ギトギトになったワンピースをギュッと握り締めたときでした。

 川上から、どんぶらこ、どんぶらこと、川の流れに乗って、大きくて、中身の見えない、少し横長の、丸いカプセルが流れてくるではありませんか。

 おばあさんは何か良いもの入ってないかなぁ、と興味本位でカプセルを拾い上げると、自力でこじ開けることができないことを悟り、家に持って帰っておじいさんに開けてもらうことにしました。




 おばあさんが家へ帰ると、おじいさんは既に帰っていました。


「おや。おじいさん。今日は柴刈に行ったんじゃなかったんですか?」

「柴なんて無かった・・・」


 そう、山に刈る柴が無かったので、そうそうに諦めて帰ってきていたのです。


 おじいさんは「わしのおじいさんが子供だった頃には、あの山は一面に緑の葉を張り巡らせ、秋には美しい紅葉が見れたそうだ。しかし都市開発の一環で、山を切り崩し切り崩ししているうちに、自然が根付くことはもうできなくなってしまった。それを期に山を平らに整地し、社ビルや高層マンションなどを大量に建てていったらしい。ここからだといまだに山があるように見えていたが、たまたま昔山のあった位置に、並びの関係で山っぽい形をしているビル群があっただけだった。昔のようなフカフカの土はそこにはなく、カチカチのコンクリートとアスファルトが敷かれているだけだ。それでは木は育たん。柴は刈れん。昔ばあさんがヘソクリで家に付けてくれた薪を燃やすタイプの暖炉も使うことはできん」と言いました。


 おじいさんは相当落ち込んでいるようです。


「おじいさん。元気を出してください。さっき川でお洗濯を・・・いや、汚染濯をしている時に川を流れてきたんです。何が入っているか分かりませんが、きっと良いものが入っていますよ」


 おばあさんはそう言って、一抱えもある大きなカプセルをおじいさんに差し出しました。


「ばあさん、どうして中を見なかったんだい?」

「おじいさん、あたしじゃあ力が無くて開けられないんですよ。おじいさん開けてみてください」


 その言葉を聞いておじいさんは、よしまかせろとばかりにカプセルを捻りますが、大きなカプセルはうんともすんとも言いません。今度はおばあさんと二人で力を合わせて開けようとしますが、大きなカプセルはうんともすんとも言いません。


「他に誰かおらんかね」


 とおじいさんは言いますが。


「うちには子供も孫もおりません。犬も猫もおりませんよ。ねずみぐらいならいるかも知れませんがねぇ」


 とおばあさんは返します。

 二人の間に子供はおりませんでした。若い頃、仕事をしたい、というおばあさんの希望で、子供を持たなかったのです。


「なら、斧か鉈で割ろう。いや、チェーンソーの方がいいかね」


 おじいさんは柔軟に、道具を使うことを提案しました。


「それがいい。チェーンソーで真っ二つにしましょう」


 そうやって二人で盛り上がっていると、カプセルの中から声がしました。


「おじいさん、おばあさん、待ってください」


 すると自然にカプセルは開き、小さな子供が飛び出してきました。


「チェーンソーとか使われたら、童話にしてはいけない感じになります」

「ばあさん、カプセルから産まれたから、カプセル太郎でどうだろう」

「そうねそれがいいわ。よろしくね、カプセル太郎」


 二人は一も二も言わず、その子に『カプセル太郎』と名前をつけました。

 おじいさんとおばあさんは、カプセル太郎を育てることにしたのです。


「え?なんで育てることが決まってるんですか?ていうかカプセル太郎て、安直とかいう次元通り越してません?」


 と一人戸惑うカプセル太郎でしたが、彼の話などおじいさんとおばあさんは聞きません。カプセル太郎は諦めて、おじいさんとおばあさんに育てられることを決めました。




 それから数年が経ち、カプセル太郎が大きくなった頃。超微粒子状の物質による空気汚染や、工業・生活排水による水質汚濁、発電所から漏れ出す物質による汚染、などなどの環境汚染が各地で頻繁に起こるようになりました。

 今や車は自動運転で空を飛び、主な住居は地下プラント。火星進出の基盤も出来上がっています。

 便利になるにつれ使用するエネルギーは増え、その分廃棄物も増えていった結果がこの状況でした。


「おじいさん、おばあさん、私はこれから鬼退治に行こうと思います」


 カプセル太郎は唐突にそう言い出しました。


「カプセル太郎や、鬼なんてものは迷信に過ぎん。この世には存在しないんだよ。いいかい、その歳になってそんなことを言っていては、将来ろくな仕事に就けないんだよ?わかってるのかい?」


 おばあさんはそう言ってカプセル太郎を止めようとしました。おじいさんもそれに加勢して、カプセル太郎を止めようとします。


「いいか、カプセル太郎「おじいさんは黙ってて!!」」


 おじいさんは何も言わせてもらえませんでした。


「いいえ、おばあさん。鬼は確かにいるではありませんか。世の中にこんなにもあふれている。他人のことを考えず、環境のことを考えず。私利私欲を満たすためだけに生きている鬼達が。おばあさん、思い出してください。私が拾われたとき、あなたは川で洗濯をすることができましたか?あのとき汚れたワンピースをクリーニングに出そうとして突き返されたことを忘れましたか?私はあなたが今でもその汚れたワンピースを大事にしまっていることを知っているんですよ?」


 カプセル太郎の意志はとても強いものでした。おばあさんは諭され、カプセル太郎の鬼退治を許しました。


「そうだねぇ・・・。お前の言うとおりだ、カプセル太郎。美しかったあの川を、山を、動物達を、殺したのは鬼だ。行っておいで。・・・お前はそのために、生まれてきたのかも知れないねぇ」

「わしは認めとら「いいから!おじいさんは引っ込んでていいから!」(´・ω・`)」

「しかし、カプセル太郎や。どうやって鬼を退治するつもりなんだい?」

「鉄☆拳☆制☆裁、有るのみです」

「いやいや、お前そんなんじゃ解決になっとらんぞ。話し合いによっ「そいつは分かりやすくていい。流石はカプセル太郎、立派に成ったもんだ」」


 それで話は終わったとばかりに、カプセル太郎は刀を一振り腰にさげ、スッと立ち上がりました。


「ちょっとお待ち、これを持っていきなさい。きっと何かの役に立つだろう」


 おばあさんは旅立つカプセル太郎に、何かが入った袋を渡しました。


「これは?」

「いいかい、それを使うのは、もうどうしようもないときだけだよ。その時が来るまで中を見てはいけないよ」

「わ、わかりました。ありがとうございます。それでは、行ってきます。しばらくは帰ってこれないかもしれませんが、必ずや、鬼を退治し帰還してみせます」


 カプセル太郎はおばあさんに気圧され、頷くことしか出来ませんでした。


「ああ、行ってらっしゃい。お前が変えた世を、楽しみにしているよ」


 こうしてカプセル太郎は鬼退治に出かけたのでした。




「カプセル太郎さん、カプセル太郎さん。どこに行くんだい?」


 そう声をかけてきたのは『私はあなたの従順な犬です。飼ってください』と書かれた白いTシャツを着た、近所に住むニートでした。彼とカプセル太郎は幼い頃一緒に遊んだ仲でした。


(昔はこんなではなかったのに・・・)


 カプセル太郎は変わり果ててしまった友人を残念そうに見つめました。


「鬼退治に」

「ぷっ、何言ってんだこいつワロタ」


 馬鹿にしたように笑うニートにイラッとして、手始めにこいつを切ろうかと考えたカプセル太郎でしたが、ニートが急にこんなことを言い出すものだからその考えは掻き消されてしまいました。


「おやぁ?カプ郎氏、良いものを持っているではござらんか。そうだ、その腰につけた袋の中身をくれるなら、拙者も鬼退治手伝うお?いやぁなに、こう見えて、結構名の知れた狩人なんですぞ。弓なんか使わせたら、鬼を狩るのなぞ赤子の手を捻るようなもの。どうだろうか?」


 それゲームの話ですよね。とは言いませんが、安定しない気色悪いしゃべり方に、カプセル太郎はまたいらっとしました。

 それはさておき、ニートは袋の中身が欲しいようです。

 根っから生真面目なカプセル太郎はおばあさんの言いつけを守り、中身を確認していないため、何が入っているか分かりません。しかし、旅を終えるまでに精神を病むことは想定していないので、カプセル太郎は袋を開けることは無いだろう、と思っています。


(どうせ使わないし、欲しいならあげても良いでしょう。その時に中身も確認できますし、その時はその時で)


 カプセル太郎はそう考え、ニートをお供にすることにしました。


「分かりました。付いてくると言うのなら、この袋の中身をあげましょう」


 とまで言って、考えが変わりました。あげるのはいいが、今ここで袋を開けるのは何かに負けた気分になるな、と。

 そこでこう付け加えます。


「ただし、持ち逃げされるのもいやなので、最後まで付いてきたらこれをあげます」


 そう言うとニートは少しうーんと悩んだ後で


「モノがモノですからな。それは仕方の無いことでござる。それでは、契約成立ってことで。よろしくお願いしますっご主人様っ!」


 こうしてニートが仲間に加わりました。




「ちょっと、そこの君たち」


 と、声を掛けてきたのは、国家の犬と成り果てたお巡りさんです。


(また犬ですか)


 そう思ったカプセル太郎達は今、鬼ヶ島へ向けて人通りの少ない路地を歩いていたところです。


「なんでしょうか?」

「いやね。その、腰に下げているものなんですがね?」

「あなたもこれが欲しいのですか、いやしんぼめ!」

「いや、欲しいとかじゃなくて。その刀と袋、ちょっと見せてもらってもいいかな?」

「カプ郎氏、何してるでありますか!そやつは敵でごろう!?あっ、そ、そやつが鬼に違いありませぬぞ!とりま逃げませう!」

「ぬっ、怪しい動きを。抵抗するのは為にならないよ!?」


 ニートの言葉にカプセル太郎は考えました。自分が鬼と断じているモノは、環境を破壊する事をよしとするもの達だ。そしてそれはこの国であると。

 カプセル太郎はあることに気がつきました。そうです、お巡りさんは国家の犬。鬼を守るために働く、邪であることに気がついたのです。


「ニートさん、どうやらそのようですね。ここは私に任せてください」


 カプセル太郎は鞘から刀を抜くと、てぇい!とお巡りさんの左腕を切りと落としました。


「えっ?」


 お巡りさんは膝から崩れ落ち、ピクリとも動かなく成りました。肩からは赤い血がドバドバと溢れ、大きな血の池を作っていきます。


「ちょっ、へ?何してるで・・・ござるか?」


 ニートはその光景を見て、ワナワナと震え出しました。


「ああ、お巡りさんは拘束用のライフルを所持しているので、抜かれないようにまず腕からと思いまして。まあ結果として死にましたが、鍛練を積んでなかったのでしょう」

「いやいやいや、そうじゃねえよ!何、人殺しちゃってるんだって、言ってんだ!」


 ニートの口調は先程までの気持ち悪いものではなく、昔カプセル太郎と共に遊んでいた頃のものに変わっていました。本来の彼はこのような口調なのです。

 その事に少しカプセル太郎は嬉しく成りました。

 また昔のようになれるかもしれない、と。


「人・・・?ニートさんが言ったんじゃ無いですか、彼は鬼だと」

「ふ、ふざけんなよ。じゃあ俺が殺せって言ったてことか?俺はただお前がブツ持ってたから、職質されたらやべえと思って・・・。それなのに、なんなんだよ急に斬りかかって、その刀も本物だし、お前どうかしてるぞカプセル太郎・・・」


 ニートはカプセル太郎を恐がりました。それこそ、まるで鬼でも目の前にしているかのように。


「私はどうもしていません。この鬼たちが蔓延る世の中がどうかしているのです。私はその全ての鬼を断たねばなりません。言ったではないですか、鬼退治に行くと」

「お、鬼ぃ?見てわかんねえのか!?人だよ、それは!」

「いいえ、これは人の皮を被った鬼です。彼は環境破壊をよしとするモノの配下です。であれば彼もまた環境破壊をよしと考えて要る鬼に違いません」

「お、お前・・・。本気でそんなことぬかしてんのか!?」

「ええ、もちろん。でもニートさんが教えてくれなければ私はこの鬼に気が付きませんでしたよ。私一人であれば、国のモノと汚染物質を生み出すモノしか鬼を見つけられませんでした。そのモノ達を支持するモノも鬼であることを、見逃していたことでしょう」


 カプセル太郎が余りにも簡単にそう言ったために、ニートは次の言葉が出せませんでした。


「さて、無事に一匹、鬼を退治出来たので、次へ向かいましょう。まだまだ沢山居ますからね」


 そう言うと、カプセル太郎は鬼ヶ島へと歩き出しました。ニートはどうしていいのかわかりませんでしたが、逆らったら殺される、まだ死にたくない、という意思がカプセル太郎のあとを追わせたのでした。元来彼は、他人の命を重んじるほどの道徳心も持たない人間でした。無理に命を奪う必要はない、くらいに考えているので、他人の命と自分の命を天秤に掛ければ、簡単に自分の方へ傾くのです。

 ニートは常備していた最後のクスリを飲んで震える心を癒し、前に進むのでした。


「ところでニートさん」

「な、なんでしょう、か?」

「さっき、私がブツを持っていると言っていましたが、ブツとは何です?」


 ニートはカプセル太郎が袋の中身を知らないでいることを悟りました。ニートは自らが常用しているために、甘い包装から漏れだす僅かな香りで、中に自分が使うのと同じ精神安定剤(クスリ)が入っていることに気がついていました。ニートの鼻はとても良いのです。ちなみにこのクスリは、強すぎる依存性から法律で所持することを禁止されています。


「中身を知らないんですか?」

「はい、おばあさんに貰ったのですが、使うときまで中は見るなと言われてまして」


 カプセル太郎のおばあさんが、カプセル太郎を養うために運び屋をはじめ、最近売人もやりはじめたことをニートは知っています。彼は普段おばあさんからクスリを買っていたのでした。


「あーいえ、やっぱり言わなくていいです。私は使わないようにと心に決めています。中身を知ってしまえば気持ちが変わるかもしれません。おばあさんの言いつけを破ってしまうことにだけはなりたくないのです」

「そ、そうですか」

「あ、でも心配しなくて良いですよ。鬼退治が終われば、この袋はニートさんにちゃんと差し上げますからね」

「は、はぁ」


 ニートはもうそんなことどうでもよく思っていました。今はただ、生きて帰り、取り溜めのアニメの続きを見たいと考えています。


「それはそうと、ニートさんさっきから敬語を急に使い始めましたけど、なんだか気味が悪いのでやめてくれませんか?元々あなたは気持ち悪いしゃべり方か偉そうなしゃべり方しかしなかったじゃないですか。しっくり来ないので今まで通りでお願いします」

「は、はい!じゃなくて、了解であります、カプ郎氏!」

「あ、そっちなんですね」




「ここが鬼ヶ島ですね」

「これ環境省の入ってるビルやん」

「なぜ関西弁?まあいいでしょう。では攻め混みますよ」

「ちょっと待ってくだされカプ郎氏。この際鬼ヶ島が環境省なのはいいとして、拙者戦闘能力皆無なのでござるが」

「そうなんですか?筋肉質な体に見えるのでこの日のために鍛えていたのかと思ってましたけど」

「暇だから筋トレしまくってただけだお」

「暇なら働けばどうてすか」

「働きたくないでござる!」


 カプセル太郎はそう言いつつも、ニートに冷ややかな視線を送ることだけはしませんでした。ニートが過去に苛められて、今の生活をおくっていることを知っているからです。それぐらいの気遣いが出来るほどには古い付き合いなのでした。


「それにしても、カプ郎氏が自然を大切にしていることは小生存じておりましたが、まさかここまで過ぎたものとは」

「過ぎたのは今のこの国、この世です。私はこの世を正すために産まれたのです。・・・こうなることは必然だったんですよ」

「このために産まれた?」

「ええ。言ったことありませんでしたが、私はこの地球が服用したクスリのようなものです。そのクスリのカプセルから産まれました。自浄作用では回復しない環境を、私を使って原因から断ち切ろうとしたのです。人間だってそうするでしょう?だから、今からすることは私の使命。産まれてきた理由なんですよ」

「・・・昔からおかしな奴だとは思っていたけど。するとおま、カプ郎氏は人ではないのでありんす?」

「いえ、人とほぼ同じです。ウィルスに対するワクチンは形が会わなければ効かないのと同じようなものですかね。鬼も人と同じ形をしていますからね。ま、とにかく私は生物として人ではあります」

「なるほど、わからん。うーん、まあ、カプ郎氏は神が作ったものみたいな?そう思っておけばいいわけ、でござるね」

「好きにとらえてください。ではそういうことで、ニートさん、そろそろ行きますよ」

「ああいや待って、結局我が輩はどうすればいいので?」

「本当にその筋肉はこの日のためじゃ無いんですか?最近体を鍛えていることを知ったときは、私が鬼退治に行こうとしているのに気付いて、付いてくるためにしているのだとばかりに思っていたのですが」

「ねーよ!どんだけ自分勝手な考えやねん!」

「だって昔からなんだかんだと気にかけてくれるじゃ無いですか」

「そんなことは・・・。お前の方だろ、それは」

「ふっふっふっ、それは自意識過剰ですよ。私がニートさんのことを気にかけるわけがありません。私は環境について考えることで頭が一杯なんですから」

「・・・・・・」

「ま、いいです。とりあえず付いてきてください。何だったらどこか隠れていて良いですから」

「いや、相手が人間ならザクじゃないんだ。何か手頃な武器拾って、出来る限りのことをするよ」

「そうですか。でも大丈夫ですか?息の根を止めなければいけないんですよ?」

「やるさ、女の子(・・・)一人に前に出させて、自分は引っ込んでるだけってわけにはいかんだろ」


 そうです、なんとカプセル太郎は女の子でした。名前を付けるときにおじいさんが早とちりしたせいで、太郎とつけられてしまいましたが、女の子なのです。


「やっぱり、気にかけてくれるじゃ無いですか」

「うっせ。俺はその袋の中身が欲しいだけだ。契約に従って仕事をするだけ」


 それは本音ではありません。ニートは今、クスリよりも、命大事にと考えています。そして、カプセル太郎の奇行を見守ろう、と考えています。


「そういうことにしといてあげますよ。ニートの癖に仕事だなんて良く言えたもんですけどね」


 そう言い放って、カプセル太郎はニートに背を向けて鬼ヶ島を見据えました。彼女の瞳は強い決意と安堵に満ちています。


「そういえば、気色悪い口調はもういいんですか?」

「あっ・・・。いや、もういいよ。もう大丈夫だ」

「では、行きましょうか」

「ああ」


 カプセル太郎と一人のお供は、鬼ヶ島の決戦へと向かいました。




 鬼ヶ島に入ると真っ先に警備員、いや警備鬼が飛んできました。


「ちょっと君たち、コスプレは良いけど、刀はダメでしょ」


 と言いながら警備鬼の上半身は斜めに滑り落ちました。


「キャアアアアァァァァァ!!!!」


 受付の女鬼が叫びをあげると、二人はたちまち注目を浴びます。その姿を見て、鬼達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ出しました。


「どうするんだ?」

「全ての鬼を殺します」


 カプセル太郎は翔ぶように駆け回り、逃げる鬼をバッタバッタとなぎ倒していきます。


 気がついた時には、フロントは真っ赤な海になりました。


「オエエエェェェェ」

「いきますよ、ニートさん」

「も、もうちょいまって、まだ慣れないから」

「早く慣れてください、それでほんとに鬼を殺せるんですか?」

「やれるさ、多分。思ったより平気そうだし」


 ニートは生臭い臭いに気分の悪そうな顔をしていますが、さっき飲んだクスリのお陰か、気持ちは落ち着いていられるのでした。


「そうですか、気持ち悪ければ吐いちゃってください」


 カプセル太郎が背をさすると、ニートはその日の朝食を盛大にぶちまけました。それでニートの気分もスッキリとし、二人は鬼ヶ島の奥へと進みだしました。




「これどうやって使うのがいいと思う?」

「そうですね。刺突では致命傷にならなそうなので、頭を狙っていく他無いでしょう」


 ニートは警備鬼が持っていた警棒をくすねていました。唯一武器になりそうなものがそれしかなかったからです。


「では基本的に弱そうな鬼を任せます。女とか細身の鬼とか」

「うわぁ、気持ち的には一番やりにくいとこじゃねえか」

「そうですか?鬼だと割りきれば性別とかは気にならなくなりますよ」

「お、おう」


 二人は現在階段を上がりながら、分担を話し合いました。

 エレベーターは既に全機停止させてあり、もし上にいる鬼たちが逃げるとすればこの階段を下りるしかないのです。


「彼らは人の皮を被った鬼です。人に見えるだけで別の生き物だと思ってください。ゲームのモンスターを想像したら分かりやすいですか?ていうか、ゲームとかなら人すら殺してませんか?」

「まあ確かに。・・・体験型のゲームぐらいに思ってやってみるか」


 と、ニートが心の準備をしたのと同時に、二階へと到着しました。


「では私は一気に奥まで切り込みます。基本的にニートさんはここから逃げ出そうとする鬼なんかをやってください。体つきのいいやつは優先的にやっておきますので」

「わかった。向こうも何かしら対策を練っているかも知れないから、気をつけろよ」

「もちろんです」


 その言葉を合図に、カプセル太郎は階層と階段の間を遮っている硬い鉄の扉を切り飛ばしました。


「来、来た、殺人鬼が来たぞ!作戦通りかかれっ!」


 中に入ると男の鬼達が各々武器になりそうなものを持って扉を囲っていました。そしてカプセル太郎が入るのと同時に一斉に襲い掛かってきました。


「これで策とは滑稽ですね」


 鬼達は多対一の有利な状況を取ったつもりでしたが、カプセル太郎に対して、その陣は意味を成しませんでした。カプセル太郎は刀を鞘に一度納め、抜刀一振りで囲っていた全ての鬼の上半身と下半身を分けました。

 部屋の中は悲鳴や喚き声で満ち溢れ、誰もが自分だけはと逃げ惑いますが、カプセル太郎は近くの鬼から一体一体バタバタ切り伏せて行きます。


 カプセル太郎が扉の前を離れたことで、唯一の逃げ道が開いたと見て数人の鬼が階段を目掛けて駆け出します。すぐにカプセル太郎は対応しますが、全てを対処しきれずに三体の鬼が扉に辿りつきました。


「ニートさんっ!」

「分かってんだよ!!!!!」


 カプセル太郎の何倍もの声を張り上げて、躊躇する気持ちを抑え殺しながら、扉の影に隠れていたニートが、先頭で入ってきた男の鬼のこめかみ目掛けて警棒を叩きつけます。ドスッと鈍い音をたてながら鬼の体液が渋き上げました。暇つぶしの筋トレで鍛えられた腕から繰り出される一撃は、鬼を絶命させるに至り、先頭の鬼はその場に倒れこみました。

 続いて入ってきた女の鬼は、ニートの存在に気づくことはできたものの、踏み止まろうとして慣性で前のめりになりました。そこを後頭部目掛けて警棒を振り下ろし、二体目も一体目に重なるように倒れました。

 三体目の男の鬼は奇声を上げながら突っ込んで来て、ニートに組みかかりました。それをニートは力任せに振り払い、壁に叩きつけたところに警棒でとどめを刺しました。


「やってやったぞ畜生があっ!!!!!」

「お見事です!」


 その後もカプセル太郎が縦横無尽にオフィス内を飛び回り、ニートが出口近くを固め、鬼を殲滅していきました。間仕切りは全て透明なアクリルであったため、隠れる場所の無い鬼達は瞬く間に肉塊へと変貌を遂げました。


「これでこの階は終いか?」

「そのようです、次へ行きましょう」


 二人は順調に三階へと上がりました。三階では剣道五段の鬼が待ち構えていたものの、カプセル太郎はあっけなく首を撥ねました。


「今の剣道は所詮スポーツ。私の踏み込みはその型に当てはまらないので、見切ることはできなくて当然です」


 後はニートが鬼の持っていた金属性のさすまたを拾ったぐらいで次の階へとあがりました。


 四階の入り口に着くと、どうやらその階段はそこまでのようでした。


「ここが最上階ということはないと思うんだが」

「まだ上がありそうですよね」

「どうなってるんだ?」

「考えても仕方ありません。ひとまずこの階を殲滅しましょう」


「ひとまず殲滅は終わりましたが」

「ざっつやなぁ」

「下へいけるのは私達が上がってきた階段とエレベーターだけのようですね。しかしここからさらに上に上がれるようです」


 カプセル太郎が指した先には、階段がありました。




「なんで先方が雰囲気作りしてんだよ!!!」


 ニートの声がワァンワァンと響き渡ります。


「鬼が島ですからね」


 カプセル太郎は当然の事だと言わんばかりの表情で返しました。

 既に二人は螺旋階段を昇り始めていました。螺旋階段の壁は、ごつごつとした岩肌をむき出し、所々に松明があって絶妙な雰囲気を作り出しています。


「さっきまで普通のオフィスビルだっただろ・・・」


 とニートがうなだれていると、上階に複数の影が現れました。


「ここから先にはいかせねぇぜぇ?ここがお前らの墓場になるんだからなぁ?」

「なんで悪役っぽいんだよおめえらは」


 まるで世紀末にでもひでぶしていそうな鬼たちが行く手を遮っていました。その手には火炎放射器やマシンガンのような銃火器が握られています。


「お、おい、あれはヤバイんじゃないか?」


 相手の武器は銃火器、こちらは刀とさすまた、警棒と、距離を縮めなければ攻撃することもできません。立ち位置にしても二人は下。遠距離から攻撃を放てる鬼たちの方に有利な位置を取られています。

 ニートはその事を、漫画やアニメやゲームの知識から察し、不安そうにカプセル太郎を見据えました。

 しかし、カプセル太郎の判断と行動は迷いがなく、迅速なものでした。


「さすまたを!」

「ああ、はい」


 ニートから手渡されたさすまたをビュンッと投げると、手前にいいた鬼はてにしていたショットガンを落としながら後ろへとすっ飛び、壁に打ち付けられて動かなくなりました。

 その光景に鬼たちが目を奪われている隙に、カプセル太郎は鬼たちの目の前に移動していました。

 すかさずマシンガンをうち始めた鬼の手首を四分の三ほど切り落とすと、トリガーが引かれたまま固定されたマシンガンの、弾を打ち出す反動で手首が回り、その鬼と他の鬼たちを撃ち抜きながらぼとりと落ちました。

 カプセル太郎は光のような早さで階段を駆け昇りながら、向けられた銃口を切り落とすついでに首も切り落としたり、串刺した鬼を盾に近づき盾にした鬼ごと後ろの鬼を切り伏せたりしていきます。


 鬼たちは「あべし!」「うわらば!」「死にたくね~っ!!死に たわっ」と断末魔をあげながら、次々に倒れていきました。


 それをニートは呆然と見ながらも、最初の鬼が落としたショットガンを拾いながら、跡を追いかけるのでした。




「片付きましたね」


 階段を振り替えると、見るも無惨な山が出来ていました。


「どっちが鬼なんだか」

「それ銃ですよね。使い方分かるんですか?」

「ん?ああ、ショットガンな。大丈夫だろ、レトロゲーで見たことあるやつだし」

「ゲームのって射程とか正しくないと思いますけど」

「へーきへーき、距離積めて撃つから」

「まあ良いですけど、私を撃たないようにしてくださいね?ビックリしたら間違えてニートさんの銃口を切り落とすかも知れませんから」

「ヒュンってしたわ。めっちゃ気を付ける」


 話ながらこつこつと足音をたてながら螺旋階段を進んでいくと、どうやら次の階層にたどり着いたようです。


「この先に親玉とかボスとかいるかも知れませんね!」

「環境大臣とかか?下手したら居ないかもよ?どっか出張出てたりとかしてさ」

「・・・次に私のやる気を削ぐようなことを言っても切り落とします」

「わかった、悪かった、だからしまえ、刀をしまえ」

「ふんっ!なら行きますよ」

「へい、大将!」


 二人は意気揚々と次の階層へと足を踏み入れました。


 階段を上がると、とてつもなく広い部屋に繋がっていました。

 部屋の中は、きらびやかな装飾品の数々が置かれています。大きな壺や絵画、剥製、果ては金製の像まで。それ以外に部屋にあるのは、大きな机だけでした。そしてその机の奥に、その鬼は座っていました。


「やあ、よく来たね。まさか銃火器をもってして止められないとは。しかしそれは兵士の数と質の問題だ。彼らは別に訓練されたもの達ではないからね」

「ニートさん、あれが?」

「そうだな、いつもネットで叩かれてるから良く分かるよ。環境大臣で間違いない」

「はぁ・・・。小者臭がします、がっかりですよ」

「まあ風体はなぁ。しかし職員が下でみんな殺されたのに、ああやってどっしりと構えていられるのは大したものだと思うぞ」


 言われて、そうかと思い至ったカプセル太郎は、先程までより多少警戒心を高めました。


「うおっほん!小話はすんだかね?・・・いいかい?罪無き職員を惨殺した君たちの罪は重い。本当なら警察に付きだし、法的に罰を与えなければいけないところだが、それでは私の憤りを納めることが出来ない。だから、私はこの手で君達を殺すことに決めた」

「ふん、戯れ言を。貴様はとても強そうには見えん。下にいた小鬼どもと何ら変わらん貴様などに、私たちは負けん!」

「ふふ、なにも素手で張り合おう等と考えては居ないよ。うちには防犯システムがまだ残っているんだ」


 パチンッとボス鬼が指をならすと、天井から、ズドンッと音を立てて二つの影が、カプセル太郎達の目の前に降り立ちました。

 一体は人と同じほどの大きさで、鬼を模した面のような顔をし、二本の刀を両手に携えています。もう一体はゾウの何倍かある巨体をもっていて、大きなひとつ目の上に一本の角が生えています。四本の腕にはそれぞれ、左下は巨大なサーベル、右下は巨大な金棒、左上は巨大なランチャーを肩にかけながら、右上はマシンガンを手にしています。


「な、何だよこれ・・・」

「この部屋の防犯システム、ONI-W06 オニギリとONI-EX01 ラセツだ。特にこのラセツは強いぞ、今はうちで偶々防犯に使っているが、戦争の前線に出すために開発されたものだからな。戦車の砲弾を受けても傷ひとつつかんし、角の先から放たれるレーザーは上空二千メートルを時速七百キロで飛ぶジェット機を正確に撃ち落とす。オニギリの方は対人を意識した作りで、破壊力はラセツに劣るが、素早い動きで犯人を切り裂くぞ。カラーリングは私の趣向で二体とも赤くしてある」

「なるほど、人型ロボットですか。まさか国がこんなものを隠していたとは・・・」

「うっは!かっけぇ~!巨大ロボットだよ!しかも戦闘用の奴!やっぱあるもんなんだな!こいつ、動くぞっ」

「いってる場合ですか、あれが今回のボスですよ?もう少し緊張感を持ってください」

「あんなの相手にどうすんだよ。俺は一般ピーポーよ?現実逃避もしたくなるさ。俺の人生オワタ」

「それ以上弱音を吐くと落とします」

「そうだな、まずはあれだな。でかい奴は機動力に欠けるし、何よりこの部屋では少し狭そうだ。砲弾に耐えれるって言ってたけど、ロボットの間接部分は得てして弱いもの。スピードで翻弄して弱いところをつけばいけそうな気がする」

「なんだ、意外と考えているのですね。私は機械に弱いのであなたの意見は参考になります。あっちのはどうでしょう?」

「対人向きに作られてて動きも早いらしいけど、耐久性ででかいのに劣るだろうから、重い一撃を入れられればワンチャン?」

「要するにガチるのが一番早いってことですね」

「まあそうだな」

「ならニートさんは大きい奴を頼みます、私が小さい方を片付けますので」

「へ?俺もやんの?逃げちゃダメ?」

「あなたは従順な犬なんでしょう?飼い主の言うことに従ってください」

「いつ飼い主になったんだよ!」

「ご主人様と呼ばれたときからです。逃げ回ってれば良いですから。片付いたら加勢しますので」

「うぅ~。まぁどうせ、やるしかないか」

「無駄な作戦会議は終わったかい?なら行かせてもらうよ」

「なぜ、私達が話し終わるのを待っていたのでしょう?」

「よしてやれ、空気読んでくれたんだから」

「うっ・・・舐めやがって。いけっ!オニギリ!ラセツ!」

「「リョーカイ、マスター」」


 ボス鬼の掛け声でオニギリが前に突っ込み、ラセツはランチャーとマシンガンを二人に向けました。

 ラセツのランチャーの砲撃を、カプセル太郎はニートを抱えながら横に跳びかわしますが、逃げた先にオニギリが回り込んでいました。二人に向けてオニギリは両の刀を交差させ降り下ろします。しかし空を切っただけ。カプセル太郎はオニギリの頭上を跳び越えていました。カプセル太郎は振り向き様に抜刀を繰り出しますが、オニギリは右手の刀を地面に刺し、それを受け止めていました。そして左手の刀を腰で貯め、今に振り抜こうとしています。

 カプセル太郎がまずい、と感じた瞬間にはオニギリは後ろにすっ飛んでいました。ニートがカプセル太郎の背後からショットガンを撃ち込んでいたのです。しかし、ニートはショットガンの反動を考えていなかったために、尻餅をついていました。

 そこにラセツのマシンガンが飛んで来たので慌ててカプセル太郎はニートの手を取り、一直線にボス鬼へと突っ込みます。するとどうでしょう、ラセツは主人を巻き込まぬようにと銃撃を止めるではありませんか。


「やはり仲間を巻き込まぬように出来ていますか」


 予想通りとカプセル太郎はにっと口の端を上げます。


「な、何をやっているオニギリ!早く止めろ!」

「ショウチ」


 しかしボス鬼までもう少しのところでオニギリが間に割って入りました。


「くっ、ニートさん!」

「了解っ!狙い撃つぜっ!」


 カプセル太郎の掛け声で、ニートがショットガンをボス鬼に向け、引き金を引きました。しかし、射ち出された散弾は、ラセツが降り下ろしたサーベルが壁になって塞がれました。


「ちくしょおっ!デカブツがっ!」

「ニートさんっ!予定通り手分けしましょう!」

「わかった!時間は稼ぐ、出来るだけ早く頼むぞ!」


 短く言葉を交わし、カプセル太郎はオニギリに、ニートはラセツに向かい動き出しました。




 ラセツは二手に別れたことにより、ターゲットを絞れずに一瞬動きが遅れていましたが、カプセル太郎がオニギリの側に居るために消去法でニートに狙いを定めました。

 ニートは走りながらショットガンを適当に撃ち込み、やはり効き目がないかと確認しながらラセツの足下を目掛けて走りました。


(距離をとってはダメだ!ランチャーとマシンガンにやられる!AIの性能次第だが、足下を回るようにすればあの巨体で対処するのは難しいはずだ)


 ラセツの反応が遅れたことにより、既に大分距離を縮めています。ラセツは近距離武器のサーベルを叩きつけるように横に払いますが、その動作の大きさゆえにニートは軽々とバックステップでかわしていました。

 しかしラセツは手数で攻めます。逃げたところに金棒を降り下ろし、それも避けられるとマシンガンを撃ち込みますが、その巨体ゆえに足下を狙うことが出来ず、一歩後退して狙いを定めようとしました。

 ニートはその動きに対応して、支点にしている足の方へ走ることで、距離を開けさせません。ラセツが降り下ろすサーベルを転がるようにして回避し、それを盾にするようにサーベルに沿ってラセツの肩の外側を駆け抜けて、ニートはとうとう足下までたどり着きました。


「ショットガン持って走り回るのはニートにはキツいぞ!」


 肩で息をしながらも、ニートは足を止めません。止まればヤられると本能で感じていたからです。ラセツの動きは大きく、ゲームで鍛えられたニートの凝視を持ってすれば、先読みしてかわすことは難しくありませんが、それに体が付いていけるかは別なのです。


「早く来てくれよぉ、カプセル太郎・・・」


 小さくそう呟いて、ニートは弱点を探しながら、ラセツの足下を走り回り始めました。




 カプセル太郎が横に大きく一振りすると、オニギリは後ろに下がり回避します。オニギリは片腕でカプセル太郎の斬撃を止めることができないのです。

 カプセル太郎がそのことに気づいたのは、先ほど抜刀を防ぐときにオニギリが刀を地面に刺して固定していたことからでした。そして次の攻撃を両方の刀を交差させて、一点に力を集めて受け止めたのを見て確信しました。


(私の攻撃についてこられないのなら、攻め続ければいつか崩れる)


 カプセル太郎は苛烈に攻撃を繰り出します。オニギリは受け流したり、回避したり、時には受け止めてその猛攻を耐えていました。しかしそれはギリギリの行動。パワーでも、スピードでも、カプセル太郎はオニギリを少し上回っていました。

 ただし、オニギリのAIは戦闘においてとても優秀でした。オニギリは刀を一本カプセル太郎に投げつけると、両手で残った刀をしっかりと握りました。

 カプセル太郎が投げ付けられた刀を払っている隙に、オニギリは懐へと飛び込み、下段からの切り上げを繰り出します。カプセル太郎は(すんで)のところでかわし、オニギリから距離を取りました。

 二人は向かい合い、カプセル太郎は抜刀の構え、オニギリは上段の構えを取りました。しばしにらみ合いが続きます。


(さっきの一撃、私と同じ威力を持っているでしょう。スピードも殆んど変わらない。そうなれば、勝つには他の要素が必要ですね)


 しかしカプセル太郎が持つのは刀の他におばあさんから持たされた袋だけでした。カプセル太郎は辺りを見渡しますが、目に入るのは戦闘の衝撃で横倒しになった装飾品の数々と、先程オニギリが投げた刀でした。


(あれを拾えれば・・・)


 カプセル太郎は踵を返すと倒された装飾品を掴みオニギリ目掛けて投げつけました。しかしかわされるか切り落とされるかで、どれもオニギリにダメージを与えることは出来ません。

 カプセル太郎はやけを起こしたように、正面から刀を振り上げて突っ込んで行きました。


「うおおおぉぉぉぉ!!!!!」


 ガキンっとカプセル太郎の降り下ろした刀とオニギリの刀が、打ち合った音を鳴らしたかと思うと、カプセル太郎の手からは刀が抜けていました。

 カプセル太郎は初めから刀を弱く握っていたのです。そのままその手で鞘に納まる刀を振り抜きます。

 オニギリの胴から上は切り離され宙を舞い、カプセル太郎は返しの刀で頭を貫きました。刺し口からバチバチッと火花を上げ、オニギリは動きを止めました。


「やりました、ニートさん!今助けに入ります!」


 カプセル太郎はオニギリに背を向け、ラセツの猛攻を避け回るニートに向かって走り出しました。




 ニートがカプセル太郎に気づいたのと、ニートがラセツの弱点を見つけたのはほぼ同時でした。


「遅かったぞカプセル太郎!こいつの弱い部分は関節から見える管だ!それが人間で言う筋肉の代わりになってんだ!細い癖にに頑丈でショットガンじゃ穴が開かないが、お前の刀なら切れるはずだ!」

「承知しました!」


 カプセル太郎はニートのすぐ傍まで一気に飛び込むと、確かに足の関節部分に管が剥き出しになっているのが見えました。それを一閃で切り裂くと、確かに筋肉の役割を果たしていたようで、ラセツは片足から崩れるように倒れました。


「ニートさんっ!・・・っ」


 やりました!あなたのお陰です!

 そう続けようとして振り返ったカプセル太郎が見たのは、カプセル太郎を庇うようにして、脇腹から刀が突き出ているニートの姿でした。


「ばっか・・・てめぇ、油断しやがって・・・」


 刀はオニギリが最後の力でカプセル太郎目掛けて投げたものでした。

 ニートは膝から崩れ落ち、みるみるうちに赤い池を作っていきます。


「ケンっ!ケン、しっかりして!ケンっ!」


 カプセル太郎はニートを抱き上げ、彼の名前を叫んでいました。幼い頃、よく呼んだその名前を。


「なんだ、お前、俺の名前、覚えてたのか・・・。久し振りに、呼ばれたな」


 そういうとニートはフッと笑いました。


「当たり前です!忘れるはずが無いじゃないですか・・・」


 カプセル太郎が彼をニートさんと呼ぶようになったのは、彼が働く意欲を見せなく成ったときからでした。カプセル太郎はニートにその生活を改めて欲しくて、皮肉を込めてそう呼んだのですが、彼が生活を改める事がなく、ニートニートと呼んでいるうちに、元のように名前を呼ぶことが憚られるようになっていたのでした。


「直ぐに手当てを!」


 カプセル太郎はニートから刀を抜き取り、素早く自分の服を引き裂いてあて布に、胸を押し縮めていたさらしを解いて包帯にし、傷口を強く止血しました。それでもにじみでて、留まることを知りません。


「なあ、カプセル太郎」

「何ですかっ!傷なら大丈夫ですよ!私があなたを死なせたりしませんから!」


 当て布の上から、必死に傷口を押さえるものの、ニートの脈にあわせて、ドクドクと溢れでてきます。


「いいんだ、カプセル、太郎、もう、だめ、だわ」


 息も絶え絶え、といった様子で、ニートは呟きました。


「そんなこと言わないでっ!助かります!あなたはたすかるんですよ!」

「いや、俺も、沢山、殺し、ちまった。なんも、文句、なんか、っねぇよ。このまま、逝かせて、ほしい、くらいだ」


 ニートは力を振り絞り、カプセル太郎へと手を伸ばします。


「だからさ、泣くなよ」


 カプセル太郎は気がつけばボロボロと涙を溢していました。


「嫌です!まだ、逝っちゃ!」


 ニートはカプセル太郎の目元を指で拭いて、頭をわしわしと撫でました。


「お前はまだ、やりたいこと、残って、だろ?ハァ、ハァ・・・っ。さあ、行けよ、まだ、ラセツは死んでねえぞ。今度は、ちゃんと留めさせよ」


 見るとラセツは巨体をその四本の腕で押し上げ、立ち上がろうとしていました。


「いえ!一旦退きましょう!今ならまだ、間に合います!」

「間に、合わねえよ。逃げたところで、出口の、とこで、ランチャーで、ドゴンっ。二人一緒に、お陀仏だ」


 確かに、ニートの言う通りでありました。ここから出口までは距離が有ります。ラセツは既に半分以上体を持ち上げています。動いたとしても、迷っていても、どのみち二人一緒にやられるでしょう。

 カプセル太郎に残された選択はひとつでした。


「直ぐに片付けます!ケンっ、それまで持ち堪えてください!」


 ニートの治療に間に合うようにラセツを破壊することです。

 カプセル太郎は意を決し、ニートの体をそっと置くと、立ち上がって己の刀を強く握りました。


(弱点は関節の管。それで体制を崩れさせられる。でもどうやって破壊したらいい?分からない。いや、ダメだ。考える前に動け!)


 カプセル太郎はダッとひとっ飛びに、ラセツのもう片方の足の関節を切りました。ラセツはまたも崩れましたが、両方の下の腕で体を支えています。

 反撃にとマシンガンを金棒に持ち替え、勢いよくカプセル太郎に降り下ろしますが、捕らえたかに見えた金棒は、根元から、まるで豆腐でも切るように、落とされていました。

 そしてカプセル太郎は順にそれぞれの腕の関節を切り、ついにラセツは支えを失って倒れました。

 しかしまだラセツには武器が残されていました。ラセツは首だけを動かして、その一つ目にカプセル太郎を捉えると、角の先からレーザー砲を射ち出します。超高度の熱線は、カプセル太郎の足下にあったラセツの腕を易々と切り落としました。

 カプセル太郎はかわしはしましたが、履いていた草鞋は靴下ごと焼け、皮膚の爛れた素足で地面を踏みしめていました。レーザーが掠めていたのです。


(次はかわせないかもしれない・・・。最後に方法があるとすれば、私の、己の刀を信じることだ!)


 ラセツの次の砲撃がビューンとカプセル太郎に襲い掛かります。

 その光は真っ直ぐカプセル太郎を撃ち抜いたかに見えました。


 が、レーザー光は、ラセツの脳である胸の基盤を貫き、焼ききっていました。カプセル太郎の鉄も切り裂く刀は、レーザーを反射させて打ち返していたのです。

 それでラセツも完全に機能を停止させ、動かない鉄の塊となりました。


 カプセル太郎はそれを見届けると、ニートの元へ駆け寄り、頭を抱き抱えました。


「やりましたよ、ケンっ!ラセツを落としました!」


 しかしニートは瞳を閉じたまま返事をしません。その様子にカプセル太郎は顔を歪めました。


「うそっ!嫌だ!死なないで!嫌だよ!おいてかないで、ケンっ!」


 ニートは声に反応し、薄く目を開きました。


「うるせぇな、もう少しで、気持ちよく、寝られた、のに」

「ケンっ!」

「・・・やったんだな」

「うんっ、倒しましたよ!」

「そっか、よく、やったな」

「いいからっ!喋らないでくださいっ!傷に響きます」

「いや、俺やっぱ、無理っぽいわ。最後に、あの袋の中、の、くれねえか?なんか、恐怖心が、込み上げてきちまって」

「あげます!いくらでもあげますから、諦めないでください!死んじゃやです!」


 カプセル太郎は慌てて袋を開けました。すると、中には更にふたつの袋が入っていました。


「いや、やっぱいいや。それよりさ、もうちょっとだけ、強く、抱き締めてくれよ。安心するんだ、お前の、腕の中」


 言われると袋を投げ出してカプセル太郎はニートの頭を強く抱き締めました。強く強く抱き締めました。


「へっ。克服、出来たのかも、な。クスリ、依存」

「鼻息が、胸に当たってくすぐったいです。だから、もう・・・何も、言わないでっ、くださいっ!」


 カプセル太郎は言いながら、またしゃくり上げてしまいました。

 カプセル太郎は、ニートをこのまま逝かせてやろうと、決めたのでした。

 ニートはその悲しそうな顔を見ていられなくて、視線を少し泳がせました。すると、先程カプセル太郎が投げ出したクスリが見えました。

 ニートがよく知るクスリと、もうひとつ。そのもうひとつのクスリが何なのか、ニートは知っていました。


「な、なあ。あの、く、クスリ」

「しゃべっちゃダメです」

「いや、でも」

「ダメです」

「あれ、飲んだら、助かるかも」

「へっ?」


 ニートは必死に、精神安定剤ではない方のクスリを指差しました。そのクスリは、不死桃剤と呼ばれる、肉体の再生を急激に早めるクスリでした。


「ああ、でも、喉、カラカラで、飲み込めねえわ」


 ニートがそう言うと、カプセル太郎は唾液をため、不死桃剤をひとつ口に含み、ニートに被さるように口付けをしました。

 とても深く。ニートの奥へとクスリが流れ込むように。


 カプセル太郎が押さえていたニートの傷口を見ると、グチュグチュと音をたてながら、人間にはありえない速度でその傷をふさいでいました。


「すごい、効き目ですね」

「ああ、でも、大分血を流しちまったから、しばらく動けそうにないわ」

「そうですか。でも、もう大丈夫なんですよね?死にませんよね?」

「ああ、多分な。確か、不死桃剤には、血を作る効果、もあったはずだから」

「そうですか、よかった、ほんとに良かった!」


 ぐっとニートを引き寄せて抱き締めると、カプセル太郎はまた泣き出しそうになっていました。


「でも、お前、なんで俺なんか、そんな、心配してんだよ」

「それは・・・その・・・。昔から・・・ケンのこと・・・好きだった、から」

「へっ!?そうだったの!?なんで!?ニートだよ!?」


 驚きすぎて傷口が開きそうになり、ニートは痛みに顔を顰めました。


「だって、その。ケンはいつも私を気にかけてるし、優しくしてくれるし。今朝だって、本当はケンが私に付いてきたのは、クスリが欲しかったからじゃ無いこと、知ってるんですよ?ケンは優しいから、私が何かしようとすると、いつだって何かと理由をつけて手伝ってくれるんです」

「買い被りすぎだよ。俺は唯の薬中なだけだ」

「そんなことはありません。それに、ケンだけなんですよ、昔、私と友達に成ってくれたの・・・。親がいなかった私は、からかわれて、よく喧嘩になって、相手を泣かせて、それで嫌われて、皆に嫌われてて。それでもケンは、傍に居てくれたから」

「それはさ、お前が先に、助けてくれたから。近所の悪ガキに囲まれて、ボコボコにされてたとこ、お前が颯爽と現れて助けてくれたんだ。次の日声掛けたときに、覚えてない、て無視されたから、泣きそうになったけど」

「仕方ないじゃないですか。それまで友達がいなかったんですから。警戒してたんですよ」

「だろうな、だと思ったよ。まあそれは最近になって気づいたんだけど。当時の俺は本当に覚えてないんだと思ってた。でも別に、覚えてなくてもいいから、恩返しがしたかったし、友達になりたかった。そしたらいつの間にか、お前に付きまとうように成ってた」

「そうですね。そしていつの間にか打ち解けてました。ただ、今思えばストーカーでしたけどね」

「子供のすることだから、セーフ。俺はお前に憧れて、おんなじように助けてやろうと思ってた。そういや、それから体を鍛え始めたんだ。んで小学校入って、まだはじめの頃だったか。クラスの範囲気で何となくお前が浮いてるのが分かった。学校にいる間のお前は、辛そうにしてたよ。だから今が助けるときだって考えて、お前を苛めてるやつを一人一人ボコボコにしてやったんだ」

「でも、私だっていじめッ子は皆ボコボコにしてましたよ?それで解決したとは思いませんけど」

「いや、ちげぇよ。俺に標的が変わったんだ」

「じゃあ、私のせいでケンは」

「お前のせいには成らんだろ、俺が勝手にやったんだから。それでお前は何もされなくなって、歳を重ねると友達も増えてた。そりゃ運動神経よくて顔立ちもよければリア充組だわ。一方俺は、苛められてはお前に助けられる日々だった。鍛えたって集団には敵わなかった。でもあいつらもお前が出てくれば弱かった。カプセル太郎はトップクラスの人気者に成ってたから」

「私、ケンが、どうして苛められているのか、気づきもしないでっ!」

「おいおい泣くなよ?そんなこと気にしてないから。どちらかと言えば、結局お前に助けられている事を気にしていたよ。だからさ、ことあるごとに何か恩返し出来ないかと思って、世話やいてたわけよ。でも中学が違う学校でさ、声かけるくらいしか出来なくなって」

「私は、人伝に、ケンが苛められてること知ってたんです!助けたかった!でも、ダメで。・・・結局ケンは学校に行かなくなりました。外でも見かけなくなりました」

「いいんだよ、それに、俺が引きこもってダメに成ったとき、お前がいつも声かけてくれたんだ。それが無きゃ今頃引きニートだったわ。結局俺はまた助けられてたんだよ」

「でも、そうなる前に、私は助けたかったんです!」

「あーもう、泣きそうになるのやめろよ。俺はお前に笑っていて欲しくてしたんだし、その上でいっぱい助けてもらった」

「でも、だって!私を助けたりなんかしなければ、今頃普通に高校に通ってたはずなのに。友達と楽しく過ごしていたはずなのに」

「だからさ。お前と一緒なのがいいんだって。友達だって、お前がいれば十分すぎるくらいだ。だから笑ってくれ、俺はお前を隣で支えていたいんだ。頼りない支えかも知れないけど、できる限り、恩を返させてくれよ」

「・・・うん、そうします。ケンがそう言うなら。・・・ありがとうございます、ケン」


 カプセル太郎がそう言ったのを最後に、二人は沈黙してしまいました。

 しばらくそのままでいたのですが、ニートが沈黙を破り、こう言いました。


「あのさ、ちょっと、血が、足りんかも知れんわ。もう一粒飲ませて、くれ・・・ない?」

「えっ・・・。ほ、ほんとに、そう、なんですか?」

「・・・・・・いや、ごめん。もっかいキスしたかった」


 正直にニートが下心を白状すると、カプセル太郎は自分の顔が熱くなるのを感じました。


「えーっと・・・今回だけ、ですよ?」


 カプセル太郎がそっと目を閉じてニートに顔を近づけると、二人は熱いキスを交わしました。




「そういやすっかり忘れてたな」

「ですね」


 二人は鬼ヶ島の屋上へと上がっていました。ボス鬼の姿が消えていることに気がついたからです。

 そのボス鬼は空気を読んで待っていたかのように、柵にもたれ掛かっていました。


「君達は、何故こんなことをしているんだ?」


 ボス鬼は問いました。ただ、疑問だったのです。何故自分がこんなことに巻き込まれているのか。


「貴方達が環境を見捨てたからです。本来人間は、環境を破壊しながらも、少しずつ元に戻そうと努力してきました。ですが、貴方達はそれも止めた。もし今もその努力を続けていたのなら、環境を良くする技術が産み出せていたかもしれないのに、それを諦めた。自然を捨て、自分達の利益だけを求めたのです。だから私は産まれました。地球の意志が、貴殿方を滅ぼすことを求めているのです」

「はっ、我々は全ての手を尽くしたさ。でも駄目だった。廃棄物の量が多すぎる。とても間に合わないんだよ。それでも苦情は私たちに集められる!私たちの力ではもうどうしようも無いというのに!」

「だから、蓋をしたんだろ?」

「そうだ。目に見えるから、感じるから気になるんだよ。人間なんてそんなものだ。寄せられた苦情だって、所詮は自己満足に過ぎない。そういうことを言うやつに限ってポイ捨てしたりするんだ。結局は皆、自分が気持ちよく過ごせれば後はどーだっていいんだよ!」

「そんなことはありません!人は助け合って生きていきます。それは人同士だけではありません。動物と、川と、山と。自然と共に歩んできました。貴方の思うような者ばかりでは無いのです!」

「ふっ、君がなんと言おうと、人間の本質は変わらない!いったいどれだけの人を殺すんだろうな!全人類を殺すまで、君はその理想を叶えることなんて出来やしないさ!ふふふははは!はーはっはっはっはっはっ!!」


 ボス鬼は大声で笑いました。盛大に笑いました。そして、そのまま、笑いながら背中から落ちていきました。


 下を覗くと、赤い円の中に、人の形をしたものが沈んでいるのがわかりました。

 そしてそれを囲うように、いえ、鬼ヶ島を取り囲むように警官隊が集まっていました。


「外に連絡をとってあったってことか」

「みたいですね」

「通信手段は防げんものな」


 上半身裸のニートは、仕方ないか、と曇り空を仰いで、フゥーっと溜め息をつきました。


(ゆっくり休ませてほしいところなんだけど)


「ケン」

「なんだ?」

「あの数、どうやって切り抜けますか?」


 カプセル太郎はさっきまでニートが着ていたTシャツを着ていました。止血するのに服を破ってしまい、女性らしい部分があらわになっていたための措置です。

 乾いた血に汚れたそれは『私はあなたの●●●●です。●●てください』と、元の文字が読めないほどでした。


「自首とか?」

「なんでそうなるんですか、悪いことなにもしてないのに」

「えぇ~。・・・なあ、お前いつまで鬼退治続けるんだ?」

「・・・ずっとですよ。すべての鬼を排除するまで」

「鬼ってなんだ?」


 ニートの頭には、ボス鬼の言葉が残っていました。

(全人類を滅ぼすまで、か・・・)


「私が鬼だと思ったモノです」

「俺は?」

「今は、違います」

「そっか」


 カプセル太郎は、もし彼が環境破壊するようなことになれば、彼も鬼として斬らなければいけないと、そう考えています。でも、その時にそうできるかは、彼女にも分かりません。


「投げ出せないのか?」

「無理ですよ・・・。それが私の産まれてきた理由。他の動物で言えば、子孫を反映させることぐらい、強い本能なんです」

「そっか、そういうもんか」


 ニートはカプセル太郎が鬼とするものの計り知れない数を想像すると、どうしても遠くの景色を眺めてしまうのでした。

 しばらく二人は、沈黙したまま遠くに見える夕日を眺めました。


「なあ、カプセル太郎」

「はい」

「俺さ、クスリ無いと、心を落ち着けられ無いんだ」

「知ってますよ。さっきそう言ってたのはケンじゃないですか」

「そうだな、でもさ・・・。俺、お前と一緒だと、不思議と落ち着いていられるんだ」


 カプセル太郎は自分の頬が紅潮していくのを感じました。


「そう、ですか」

「ああ」


 ニートはそっとカプセル太郎の頭に手を乗せると、こう言いました。


「だからさ、ずっとお前の傍に居ても、いいかな?」


 カプセル太郎は、自分の顔が真っ赤になっているだろうと思いながら、それに答えるように、ニートの肩に頭を乗せて体を寄り添わせました。


「はい、もちろんです。私からもお願いします。これからずっと、共に居てください」


 ニートはカプセル太郎の肩をぐっと抱き寄せました。


「ああ、いつまでもお供しますとも」


 二人は、しばらくそのまま、沈む夕日を見送りました。いつまでも永遠に、この幸せな時間が、続くように祈りながら。




「ケンは、私のこと好きなんですか?」

「はへ?いや、察しろよ」

「言わなきゃ分かりませんよ」

「・・・・・・好きです」


 こうして、カプセル太郎と一人のお供の長い戦いは、幕を開けたのだそうな。


 めでたし、めでたし?

本作品は冬の童話祭2016に投稿した作品です。そう、童話なのです。途中から忘れていませんでしたか?

童話ということで、作品にメッセージ性を持たせることを重視しました。環境を大切にしないとリア充が人類皆殺しに来るぞ!という感じです。

本当は人類皆殺しで終えるつもりで書いていたのですが、気がつけば恋愛に。二人の仲を作者が引き裂けず、こういった形に落ち着きました。

リア充に成りたい。

酷い文章で読みづらかったことでしょう。そこはこれからの成長ということで、目をつむって頂けると幸いです。

では、遅れながら、お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。素晴らしい純愛でした。 [一言] 「へーきへーき、距離積めて撃つから」 距離を『詰める』かと しかし、射ち出された散弾は、ラセツが『降り下ろし』たサーベルが壁に…
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