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白兎の憂鬱  作者: JEIKJEIL
2/2

2.―十月の二十三夜―雨のち曇りの大冒険!?

0

・・・あの事件からもう1ヶ月が経とうとしていた

私もこの1ヶ月はすごく平和だった

「ヒナタ〜」

私を呼ぶ声がする

また ロクでもないことが 始まりそうだ

嘆息 まぁ 嫌いじゃないんだけどね


1

「ヒナタ〜」

私を呼ぶ声がする。

 まだ、寝ていたいのだが・・・。

「ヒィィナァァタァァ〜」

彼はそれを許してくれそうにない

「まったく、何なのよ。こんな朝早くから。」

顔を出してやる。

「ねぇ、ヒナタ。昨日すごい大雨が降ったじゃない?」

「あぁそういえば振ったような振らなかったような・・・。」

「でね、でね、そのとき崩れた土砂の中に、トンネルみたいのがあったの。」

いやな予感がよぎる

「それで、ヒナタも一緒に行こうって。」

「嫌、一人で行きなさい」

「だって、一人だと怖いんだもん・・・。」

陽がうつむく。まぁ、前回のこともあるから一人で行かすことはできないのだが・・・。

「どうしてもいきたいの?陽」

「どーしてもだよ。」

再び嘆息 まぁ、いいか

「しょうがないわねぇ、行ってあげるわよ。」

2

「ヒナタ〜こっちこっち。」

「ちょっと待ちなさいよ、あんた速過ぎ!」

 まだ、雨がしとしとと降り続いている中、私たちは竹やぶの奥のほうに来ていた。

「ほら、ここ。ここ。」

 陽が指し示したところは確かに土砂が崩れその中から洞穴のようなものが出ていた。

「くだらない。きっと防空壕か何かよ。」

「ヒナタ〜早く〜」

「ってもう入ってる!?」

結局行くしかなかったのだった。

 穴の中は明かりも何もなくずっとただの一本道だった。

やがて行き止まりに突き当たる

「ほら陽、何もないわよ。帰りましょう」

・・・

返事がない

「・・・陽?」

・・・

自分の声が空しく響くだけ。

「ちょっと冗談じゃないわよ!?」

私は走る。どうせ同じ一本道だから道に迷うなんてことはない

 そして出口が見えてきた。

外へ出る

 すっかり雨も止んで青い空と太陽が輝いていた。

「ぇっと、」


「ここ・・・何処?」

そこにあったのは見慣れた竹やぶではなく

 広大な平原だった。


3

「どうなってるのかしら?」

私は当てもなく草原をさまよっていた

 先ほど洞穴に戻ろうともしたが私の背後にはもうそれらしいものはなかった。

 ほどなくして草原の中に街道が見え始める。

「・・・とりあえず陽を探さないと・・・。」

しかし、あてもなければ手がかりもない。土地勘がないから下手に動けない。

「・・・どうやって・・・?」

考えてもしょうがないものはしょうがない

 まずはできることからやって行くことにした

「寝床と、食べ物。」

そのためにも街道を使って私は街に出た。

 人間の巣は一番安全で食糧確保が容易であることを私は経験で知っていたから。


4

「ヒナタ〜早くおいでよ〜」

洞窟の中で思い切り走ってしまったボクは振り向いてヒナタを待った。

「・・・。」

・・・。

真っ暗で、誰も来る様子はない。

「もう、いじわるなんだからぁ・・。」

そうぼやいてボクは元の道を引き返し始めた


光が見えて、洞窟を出る。と


そこにあったのは黄金の大地だった

よくみると足のしたにあるのは全部砂

「えっと・・・。」

思い出す。たしかニンゲンたちはここをこんな風に呼んでいたはずだ

「・・・さばく・・・?」


5

「・・・困った・・・。」

草原を進んで、荒野を抜けるといつの間にか私は森の中にいた。

「・・・人間の巣どころか・・・ほかの生き物すら見当たらない・・・。」

 木になっていた適当な木の実を取って食べる。もう何日も森の中にいるため、このくらいの食糧確保はできるようになっていた

「陽は・・・大丈夫かしら・・・?」

空を見上げた

 鳥も雲もない青空が広がっていた。

「陽―――――!!!!」

叫ぶ

 そして聞き耳を立ててみた

「―――」

どうやら近くにはいないようだった。

「どこに行っちゃったのかしら・・・?」

6

「・・・暑・・・」

さばくを歩き始めてもう何時間も経っていた。

太陽はじりじりと照り付け、砂は視界いっぱいに広がっていた

水も食べ物もない。

お腹はぐぅぐぅで喉もカラカラだった

「も・・・ダメ・・・」

へたりこむ僕。本当は倒れ込みたいくらいなのだが熱々の砂の中で倒れ込んだらあっと言う間に干上がってしまうだろう。

「・・・ヒ・・・ナタァ・・・」

もう声も出せない

そのときだった


「陽―――――――!!!!!」

ヒナタの声がはっきりと僕の耳に届いた

その声を頼りに、僕は1歩1歩と歩き出す。


7

森が終わり、目の前に大きな砂漠が広がる。

私はそこでもう一度叫んだ

「陽―――――――!!!!!」

耳を澄ます。




何も聞こえなかった


「本当に何処にいるのかしら?もしかしたらもう家に帰っているのかしら?」

都合のいい妄想なのはわかっている でも そうあって欲しいと願った。


そのとき

砂漠に一つの小さな影が見えて来た


「・・・陽!!」


ヒナタは走る。

 小さな影はゆっくりゆっくりと動いている。

ふらり、とその影がバランスを崩した。


日向はそっと、それを受け止め、ぎゅっと抱きしめた。

「よかった・・・陽・・。」


そのまま砂漠を出て、森の中に入る。


8

「陽・・・ほら・・・食べ物よ。」


陽は目を閉じたまま微動だにしない。


「・・・ねぇ、・・・目を開けてよ・・・陽・・・。」


日向はその果実を自分の口に入れる。

 噛み砕いた後、それを陽の口の中に流し込む。

「・・・っ・・・ぅん・・・。」

「・・・陽。おいしい?」


 日向の眼に涙が浮かぶ。


「・・・陽・・・。」


 涙が陽の頬を濡らした


「ねぇ、眼を覚まして!いつもみたいに、ホラ、飛び込んできなさいよ!! ヒナタって呼んでよ。ねぇ、陽!陽!!」


 力の限りに叫ぶ。ほかに何もいないこの世界で、


「なんで・・・。なんで眼を開けてくれないの・・・。私の言うこと・・・ちゃんと聞きなさいよ・・・。・・陽・・・。」


 天を仰ぐ。陽の体は容赦なく冷えていく。


「私は神なんか信じない。だけど・・・。今ばかりは私のわがままを聞いて!! ねぇ、陽を返して!! 私の大切な、大切な兎を!!!

 なんで奪うの!? こんな小さな命を。運命だから? そんなの認めない!! 私が覆してやる。運命なんて!!!・・・」


その叫びは透き通るような青い空に吸い込まれていった。


9

夜。体中に落ちる冷たい感覚に眼を覚ました。


ザァァァァァァ―――


「雨・・・。どこか、屋根のあるところに行かないと・・・。」

独りつぶやく。

 そして、陽を担ぐと私は歩き始めた。


ザァァァァァァ―――


 冷たく突き刺さる雨が体力を奪い、足取りを重くする。

陽の体が温かく感じるのはこの腕が雨で冷え切っているせいだろうか・・・?

 そして、私は手近な洞窟を見つけ、その中に入り込んだのだった。


ゴロゴロゴロゴロ・・・


外では雷がうなっている。

「酷い雨だね。これじゃしばらくここにいるしかなさそうね。」

「・・・ぅん・・・。」

 そのときだった。私の傍らから声が聞こえたのは。

「・・・ぅぅ・・・ひなたぁ・・・。」

喘ぎ声で私の名前を、小さな小さな声で、陽は私の名前を呼んだ。

「! 陽。陽!!ここよ。私はここにいるよ!!」

陽が眼を覚ました。私は喜びのあまりにまた、涙を流していた。

「陽・・・よかった陽・・・。」

「ひなた・・・ひなたぁ・・・」

暖かさを取り戻した陽と私は、その洞窟の中、寄り添いあって眠ったのだった。


10

次に目が覚めたときも、外はものすごい雨だった。

 死の淵から戻ってきたばかりの陽は、寒さと空腹で、再びその小さな命を脅かされ始めていた。

「・・・寒いよ・・・。ヒナタ・・・。」

私は、その冷え切った体をぎゅっと抱きしめる。

「・・・ヒナタ。ごめんね・・・。」

突然に、ぽつりと陽が言った

「・・・何が?」

「僕のせいだよね。ヒナタが、こんなことになって、こんなところで、ずっと二人だけで・・・。

僕、ヒナタに迷惑かけてばっかりで、ヒナタのそばにいても、邪魔なだけで。」

陽はしゃべり続ける。

「僕なんかのために、ヒナタが怪我したり、ヒナタがこんなところに来ちゃったりして・・・。

僕、迷惑だよね・・・。居ない方が・・・いいよね。僕なんか・・・。」 陽がそっと私の腕から離れる。

「さよなら・・・。ヒナタ。」

陽は、まだ雨の降りしきる外に走って行こうとする。

「まちなさいっ!!陽。」

その手をつかむ。

「迷惑よ、えぇ迷惑ですとも!!そうやって勝手に考え込んで、勝手に結論出して、勝手に行動するところなんか特にね!!。」

もう一度、陽を強く抱きしめる。

「本当に、いつもろくでもないことしかしないし、いつも危険を顧みないし、反省を知らないし。

 寂しがり屋のくせに、好奇心だけは一人前で、結局私が居ないと何にもできないくせに・・・。」

陽は私の腕の中でうずくまっていた。

「私が居ないと何にもできない仔兎のくせに、何が迷惑よ?何が居ない方がいい、よ!?

私はあなたを一度たりとも居なくてもいいなんて思ったことはない。私は、・・・」 うずくまっている陽から嗚咽が漏れる。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい。」

小さな声で、陽が謝り始める。

「いいのよ、私の可愛い仔兎。あなたはまだ、何も考えなくても、何も知らなくてもいい。

 あなたはまだ、甘えていい年頃なんだから。

迷惑なんてこと、あるものか・・・ただ、あんまり心配かけさせないで・・・。」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」

陽は謝り続ける。


11

また、夜が更けて、明けた。

 雨は今日も降り続いている。

「陽・・・まだ大丈夫?」

「・・・うん・・・なんとか。」

陽は既にかなり衰弱していた。今夜くらいが峠なんじゃないかくらいに。

 そのときだった。


ザザザ・・・ガラガラガラガラ―――!!!


突然、洞窟が闇に包まれた。

「土砂崩れ・・・?」

連日の雨で地盤が緩くなっていたのであろう。

「どうしよう。他に出入り口があるかどうか・・・。」

私は洞窟の奥に目を向ける。

 洞窟の奥・・・か・・・。


「行くわよ、陽。」

私は衰弱した陽を抱き上げる。

「行くって・・・どこに?」

「私たちの竹林に帰るのよ。」

私は歩き始める。

 なんとなくだけど、確信があった。こっちに行けば、多分


帰れる


光が見える。

 その先に見えるのは、快晴の明るさ。

洞窟を抜けると、そこは


見慣れた竹林。

 見上げれば、雲一つ無い空と、笹の葉の木陰。


そう、私たちは


帰ってきた。


12

そのあと、いろいろあったけれど。とりあえず、今は日常を取り戻しつつある。

 気がつけば、あれから何年も経過していた。

私は相変わらず、茣蓙でも敷いて、一人月を見ている。

 最近もの寂しく感じるようになったのは、やっぱり

「こう、騒がしい奴がいないからかしら・・・ね。」

つぶやいてみた。つぶやいたところで何が変わるわけでもない。

 そして、私はまた月を見上げ、あの頃の出来事に、思いをはせていた




・・・

「隣、いいかな?日向。」

いいかな?とかいいながら既に隣に座っているそいつ。

「許可した覚え、無いけど?」

「僕は日向に断られた試しがないんでね。」

そいつは憎らしい笑みを浮かべる。

「ふん。断っても、無駄だろうから断らないだけよ。」

「さすが、日向。よくわかってる。」

私は顔を赤くし、しばらく沈黙が流れる。

「それにしても、あんたはいつの間にか私を追い越したのよ?」

「?何のこと?」

そいつは本気で首をかしげてる。

「背丈よ背丈。なんであんたはそんなに大きくなれるわけ?」

すると、またそいつは笑いながら、

「僕が雄だから、かな。それと、僕ももう仔兎じゃないって証拠でもある。」

「まったく、まだまだあんたなんか未熟なのよ。」

「なら、未熟の間は面倒見てもらおうかな、日向。」

やれやれ、私は昔から、この仔に口で勝てない。まぁ、昔は涙目とか使われていたけれど、今は口がうまくなって本当に口では勝ち目がないのだ。

「し、しょうがないわね・・・。一人前になるまでだからね・・・。」

「別に一生でも、僕は構わないよ。」

そんなことをほざいてこいつは笑っていた。

「一生なんてお断りよ。」

ぷい、と顔を背ける。こんな火照った顔をいつまでも見られたくはないからだ。

「日向。好きだよ。」

突然そんなことを言われる。

「やだ。昔みたいに呼んで。」

昔甘えさせてた分、今は甘える側に回ってみる。

「しょうがないなぁ、じゃぁ。」


「ヒナタ。好きだよ。」

あの頃のような無邪気な笑み

 私の顔はきっと真っ赤だ。でも、はっきりと声にする

「私もだよ、陽。」

「私も、陽のことが好き。」


―――そして、月夜は更けていった。―――

陽が大人になるという自分でも予想していない(ぉぃ)最後になってしまい、連載続くの?コレ。という状態です。てか最終話です(ぉぃ)

最後はラヴラヴで書いてて恥ずかしい(マテ)という状態でした。

実は大人陽を主人公に別連載で書きたいなーと画策してますがまだネタが思いつかないのでしばしお待ちをw

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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