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白兎の憂鬱  作者: JEIKJEIL
1/2

1.―九月の十三夜―いつも隣には

1

「ヒナタ。ねぇ、ヒナタ。」

私を呼ぶ声がする。今日はあんまり起きたくないんだけどな、

「ヒーナーター、ちゃんと巣で寝ないと風邪ひくし、襲われるよぉ」

全く、だれに襲われるというのだ、この御時世に。それに、今は暖かいんだから風邪引くこともないし、

「ヒナタが起きてくれない・・・もしかして、ヒナタ、風邪で死んじゃった?ねぇ、ヒナタ、ヒナタ!!」

「勝手に妄想膨らませるんじゃないよ。触ってれば生きてるくらいは分かるでしょうに。」

「えぇ〜ヒナタはいつも冷たいじゃない。」

「それは態度の問題。あと、私が冷たいのはヨウに対してだけで、他の兎には冷たくしてませんから。」

私の名前はさっきからこいつが呼んでるように、日向。と言う。

ちなみにこの妄想癖ちびうさが「陽」である。

「で、今日は何なの?」

このちびがやってくる日は決まってロクなことが起きない。きっと今日もロクでもないことが起きるんだろう。

「あのね、あのね。変な動物見たの。」

「変な動物?」

「そう、あんまりおっきくはないんだけど、後ろ足だけで歩いて、前足はバランスを取るために使ってる感じだったの」

私はため息をつく

「私たちだって、後ろ足だけで跳んで、前足はバランスじゃない。」

「違うの。だってそいつら、地面から木みたいに真っ直ぐになって歩いてたんだよ。」

・・・本当にロクでもない。

「・・・まさか・・・ニンゲン?」

いままでで一番ロクでもない話だった。


2

「ほら、こっちこっち」

「ちょっと、待ちなさい 陽。」

ちびに連れられて私は森の外れにやってきた。

「ねぇ、今日もあのうさぎさん、いるのかな?。」

「どうだろうね。早く行こう。」

そんな会話が耳に入る。間違いなく、ニンゲン。

「陽、聞いて。アレはすごく悪い生き物なの。木という木を切り倒して、自分達しか住めない縄張りを広げて、私達兎を連れ去ることだってあるんだから。」

私がこれだけ真剣にしゃべってもこのちびときたら

「そんなことないよ。楽しいよ、あれといると。」

と全く分かっていないのだから

「だから、だまされてるのよ。油断させといて、連れ去るの。」

なんて言ったところで目の前にはもうちびは居なかった

向こうを見ればニンゲンと戯れてる。

「ヒナタもおいでよぉ〜」

「知らない。私は行かないからね。」

私はそのまま森に帰ってしまった。

まぁ、なんだかんだ言って昔よりは静かになったニンゲン達をそれほど警戒しては居なかった。

だから そのときは予想できなかったのだ。

陽がその日を境に帰ってこなくなるなんて・・・。


3

日向は焦っていた

陽が帰ってこない

もう、三日も経つのに・・・

「・・・やっぱり、ニンゲンが・・・?」

そして日向は森の外をにらみつける

「ニンゲンが・・・また、私から・・・大切な兎を・・・奪うというの・・・?」

日向の真紅の瞳から一筋の涙がこぼれた

そして

「・・・許さない」

「・・・絶対に許さないんだから・・・!」

森の外へと飛び出す日向

「陽・・・陽・・・陽陽陽陽陽!!!」

弟のような存在だった兎の名を呼びながら

その瞳を怒りに燃やし

日向は走った


止める者など何も居ない

彼らのニンゲンに対する想いは一つだから


でも誰も同調はしない

みんなニンゲンの恐ろしさを知っているから


日向は独り走る


4

ぇと、ここはどこだろう?

たしかヒナタがニンゲンっていってたのとあそんで、

きがつくとずいぶん森から離れてて

で、帰ろうとしたときに

なにか「すごく速いモノ」にぶつかったんだったっけか

全身がすごく痛い

あんまり痛いから目が覚めてしまった

「ぇと、ここはどこだろう?」

見知らぬ場所だった

僕が決してみたことのない、絶対に森にはあり得ない光景

「あ、起きたみたいだ。」

「よかった。生きてたんだね」

ニンゲンが僕に心配そうな視線を送っている

僕はまだ体中が痛かったけど、なんだかちょっと元気になった気がした。


次の日からニンゲン達は僕にごはんをくれたり、一緒に遊んだり

そのうちにニンゲンの言葉もちょっとはわかるようになってきた

今見てるニンゲンが入ってる箱は「てれび」で

それと線でつながってるきかいが「げーむ」

で、おっきいニンゲンが「おにぃちゃん」でちっちゃいニンゲンが「ひな」

しばらくはヒナタと聞き間違えてびっくりしてたけど、慣れた

慣れてしまうくらい長くここにいた。


5

この「おへや」と「おそと」をわけている「まど」から太陽の光が振ってる。

そういえば僕の名前は陽。太陽の陽。降り注ぐ光

で、彼女の名前は日向。太陽が作るまどろみの空間


「そういえば、ヒナタは今頃どうしてるんだろ」

長いこと怪我をしてて忘れてた。もしかして、ヒナタは僕がニンゲンにさらわれたと思ってるんじゃないだろうか。

「あれから、どれくらいたったっけか・・・」

数え始める

あの頃は蝉が鳴き始めた頃で・・・今は鈴虫とかが元気だから・・・「・・・3ヶ月・・・?」

1年の半分の半分。こんなに長く森の外にいたのは初めてだと思う。

「・・・ヒナタ、心配してるかな・・・?」

ふと、ヒナタが恋しくなった・・・


6

もういくつも寝たら十五夜ね・・・。

陽を探してニンゲンのマチに潜伏すること三ヶ月

未だに足がかりさえ掴めない。

十五夜の私の席に隣に陽が居ない。それを考えるだけでぞっとした。

「・・・本当に・・・どこにいったのよ・・・まさか、もう・・・」

ニンゲンは兎を火あぶりにして食べるって聞いたことがあった

それを思い出して、私の中で嫌な予感が駆けめぐる

「・・・だめだめ。あきらめちゃ・・・」

気合いを入れ直す。そうだ、まだ望みを失った訳じゃない

「もう一回、森の近くから、探し直してみよう・・・」

そう決意した私の前から強い光が降り注ぐ

あまりのまぶしさに目をつむった私の目の前

けたたましい音を鳴らしながらその光源が猛スピードで迫ってくる

そして

私はそのすごく速いモノにぶつかって


すごく痛くて


気を失ったのだった


7

ひなちゃん達には悪いけど、

僕はあの「おうち」を抜け出していた。

耳を澄ます

僕に怪我をさせた「くるま」の音が響く

あれにあたると本当に痛い。

実際、ひなちゃん達がいなかったら、僕は、死んでいたかもしれない。

だから不安になった。

「・・・ヒナタ・・・。」


キキーッ


今の音は・・・

確か・・・「くるま」が僕に当たったときと


―――同じ音―――


僕は

走る―――


8

空と地面が何度も入れ替わって

私は体中から真っ赤な血を吹きながら転がっていた

私の目の前には二本足で立つ不快なシルエット

ニンゲン・・・

万事休すってやつかしら?

そんなことも考えながら、私の意識は混濁していく。

「・・・ヒナタぁぁぁぁ!!!」

変だな・・・陽の声が聞こえる・・・

でも、無事で    よかった    


after...

結局その年の十五夜は、ヒナタとは一緒に過ごせなかった。

この森にヒナタはいないけれど

僕はもう子供じゃないから

もうヒナタがいなくても大丈夫。


大丈夫



・・・て何勝手に人聞きの悪いシメ方してるのよ、あんたは!!」

僕の後ろから白兎がどついてきた

「ぇ、ヒ、ヒナタ!?帰ってきたの!?」

僕は驚いて振り向く

「えぇ、傷が治ったからね、「おにぃちゃん」と「ひな」の「おとうさん」と「おかあさん」が返してくれたわ」

「そうなんだ・・・よかったね。」

僕は心底ホッとした

「あんまり良くない。「おにぃちゃん」と「ひな」は泣き始めるし、しまいにゃ「おとうさん」の「くるま」に乗せられて、

危うく胃の中身全部吐くところだったわ。」

そしてヒナタは遠い目をして言った。

「でもまぁ、ニンゲンも、悪くないモンね。」

「ヒナタ?何か言った?」

ヒナタは赤くなってそっぽを向いた

「な、何も言ってないわよ。でも・・・」

「でも?」

「たまには、会いに行ってあげた方がいいかなぁ?あのニンゲン達に・・・」

すごい。ヒナタ、白兎なのに真っ赤っ赤。

「くすすっ」

「何がおかしいのよ、陽。」

「いや、だってヒナタ真っ赤なんだもん。それに・・・」

「それに?」

「こっちから会いに行く必要はなさそうだよ?」

そう言って僕は森の外の方を指し示す。

「うさぎさーん?いないのぉー?」

間違いようもない「ひな」ちゃんの声だった。

「行かないの?ヒナタ。」

「ちょっと待ってよ。行くわよ、行くから。」

―――そして、また森は平和になったのでした。―――

短編連作にしたいと思ってたのに2で終わっちゃうというダメダメ作品です。

童話と銘打ちながら漢字が難しかったり内容が重かったりするので小学校高学年かその親御さんに読んでいただけたらなーと思っています。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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