表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村に伝わる森の伝説  作者: marron
番外編
PR
11/25

魔女の薬の作り方:その1

フィデリオとジクムントの秋から冬の様子です。

 秋になり、フィデリオとジクムントは、カールを置いてひとつ学年があがった。カールのことはこうして少しずつ、二人の中で、また友人たちや村の人たちの中で、思い出になって行くのだろう。

 それでも二人は忘れなかった。

 森の奥へ行くことは大人たちに禁止されていたので、カールを探しに行くようなことはしなかったけれども、二人は学校が終わると毎日森を訪れていた。村の子どもが誰も知らない、泉のほとりに立つ魔女の家だ。



 初めのうちはフィデリオが一人で通っていた。

 フィデリオはあれからずっと、毎日魔女の家に通っては、残されたたくさんの本を読み漁っていた。ただし、それはフィデリオが普段読み書きしている文字ではなくて、魔女に伝わる文字なのか、知らない不思議な文字であった。

 しかし、フィデリオはなんとなくそれが分かった。祖父たちが書いた古い文字と少しばかり似ていて、それをちょっとひねったような文字のように見えてくると、だんだんと魔女の文字が読めるようになったのだ。

 フィデリオは一番古い日記を、まるで辞書のようにひきながら、魔女の本を読んだ。

「つ、つ・き・の、えーっと、ふーふーふー、ああ、ひ、だな、ひ・か・り・が、かな。それから?ひ・か・り・おっと、り、じゃないな、えっと、る・い・・・これなんだろ?」

 古い祖父の日記をパラパラとめくり、魔女の文字と照らし合わせながら、フィデリオは祖父の日記を読んだり、魔女の本を読んだりして、いつの間にか知識が増えていた。

「ずゅ?違うかな、じゅ、かな。い・じゅ・み・ああ、いずみだな、これは、いずみ、と読む。」

 少しずつ文字を覚え、自分のノートにも書き写したりした。

 そこへジクムントがやってきたのだ。

「何やってんの?」

「あ、ジクムント。今、魔女の本、読んでるんだ。面白いんだよ。」

 フィデリオがたくさんの本やノートを広げている、大きな机の横に椅子を持って来て、ジクムントも本を覗き込んだ。

「面白いって?全然読めないじゃん。てか、お前、読めてんの?」

「ううん、あんまり。でも、少しは読めるよ。ほら、こっちに写したんだ。」

 そう言って、フィデリオはノートに書いたものをジクムントに見せた。もうすでにノートの半分くらいは書いてあるようだ。

「よもぎ、ドクダミ、熊笹、大根、目覚まし草・・・なにこれ、何か作るの?」

「うん、それね、魔女の薬のレシピなんだよ。今度一緒に集めに行ってさ、作ってみない?」

「え、本当?やるやる、面白い!」

 フィデリオの提案にジクムントは興味深そうに食いついてきた。

 ちょっと前には、フィデリオのことを、魔法使いじゃないんだから無理、と言ったはずなのに、ここに書いてある材料を見たら、意外にも身近にあるものばかりだし、魔法の薬が作れなくても、なんだか実験みたいで楽しそうだと思ったのだ。



 そういうことで、二人は毎日魔女の家に通っていた。

 ある時は本を読みふけり、ある時は草を採りに行った。

 本を読むのはフィデリオが上手で、ジクムントは魔女の本はまったく読めなかった。フィデリオが言うには、古い文字と似ているというのだが、ジクムントから見ると、まったく似ている要素がみあたらなかった。一体フィデリオはこの文字と文字のどこがどう似ていると思うのか不思議だった。それくらい、実は似ていない文字だったのだ。

 草を探すのは二人ともとても楽しかった。もともと森で山菜や葉っぱや木の実を採ることは小さなころからしていたので、そんなに難しくはなかった。それに森はいつも湿っていて優しい感じがした。

 だから二人は、目的の草を採り終えると、たいていは森でゴロゴロとして休んだり、駆けまわったり、木登りもしたし、時には川へ行って、寒くなるまでは水遊びもした。

 ここにカールがいたらもっと楽しかっただろうに、と二人とも思ってはいたが、口には出さなかった。ただ、森にいることが、なんとなくカールのそばにいるような気がして、落ち着くような気がした。

 魔女の家もとても居心地が良くて、本を読んで疲れれば、そこで昼寝もした。

 そうして、時間は過ぎて行った。

 季節はいつの間にか変わり、実りの秋となっていた。採れる薬草の種類も変わってきて、二人はとても忙しかった。それでもとても楽しかった。

 採ってきた草を干したり、ゴリゴリとつぶして粉にしたりもした。そういう作業は、フィデリオよりもジクムントのほうが上手だった。

「器用だねぇ。」

 よくフィデリオはジクムントに言った。

「そう?フィデリオだって、そんなに悪くないけどな?」

 とジクムントは言ってくれたが、どうもフィデリオがやると、目指しているものとは違うものができてしまうのだ。ジクムントの方が力が強いのだろうか?などと考えたが、単に器用なだけかもしれない。人には向き不向きがあるのだから、しょうがないと、フィデリオはまた、本を読むのに夢中になった。



 冬になると、二人は自然と魔女の家にいることが多くなった。

 外で採れる草もしばらくはみあたらない。勿論冬にしか採れない草や実もあるだろうけど、秋ほどは忙しくなかった。それに、魔女の家の暖炉はとても暖かかった。

「そろそろ、本格的に薬を作ってみないかい?」

 ジクムントが言った。ジクムントは薬作りに積極的だった。本は読めないが、それ以外のことならできそうなのだ。

「そうだね、やってみようか。じゃあ、どれから作る?」

「一番簡単なのからやろう。どれが簡単か書いてない?」

 ジクムントは本が読めないので、そこはフィデリオ任せだ。

「書いてあるよ。簡単なのは、コレ。」

「どれ?」

「便秘の薬。」

 フィデリオがそう言うと、二人で顔を見合わせて吹き出した。

 この男の子ふたりが便秘の薬を作ってどうするというのだろう。

「食物繊維たっぷりだよ。熊笹飲むんだから。」

 フィデリオが熊笹を取り出しながら言った。

「それって、魔法の薬じゃないよな。単なる熊笹の効能だよな。」

 ジクムントが吹き出しながら言うと、フィデリオがゲラゲラ笑った。

「でもせっかくだから作ってみようか。」

 そう言って二人で作り始めた。

 出来上がったところで、誰に飲ませるんだ、とか、自分で飲むのは嫌だとか、そんなことを言いながら作るのはたまらなく楽しかった。

 初めは二人で一つのものを作った。

 出来上がったものを見て、二人は無表情で見つめ合った。

 簡単なはずなのに、どうもうまくいかなかった。たとえ重度の便秘だったとしても、口に入れたくないような代物ができあがった。

「ああ、これは何と表現したらいいのか。」

 ジクムントが笑いながら言った。確かにそれは、表現しにくい汚らしい緑色で、表現しにくいねっとり感で、表現しにくいトゲトゲが生えていた。

「表現しなくて良いよ。もう一度作ろう。」

 フィデリオはそう言って、今度は一人ずつ作ることにした。フィデリオはなんとなく分かっていた。自分に才能がないのだ。多分、ジクムント一人で作れば、もう少しマシなものができる気がする。

 フィデリオの勘は正しく、もう一度作った時、ジクムントの作った物はちゃんと薬に見えた。というか、かなり良いように思えた。一方のフィデリオの作品は、先ほどよりも表現しにくい不思議な何かになっていた。

「ねえ、なんでこんなに綺麗な緑色に出来上がるの?」

 フィデリオが聞いた。

「さあ?言われた通りに作っただけだよ?」

 ジクムントがチラリとフィデリオの作品を見て、笑いをこらえるように言った。



 それからは、フィデリオは薬作りを諦めた。時々は練習してみたが、やればやるほど適性がないことが分かり、悲しくなるほどだった。

 しかしその分、フィデリオは魔女の本を読むのに没頭した。

 ジクムントが薬を煎じたり、葉っぱをすりつぶしたりしている横で、フィデリオは本を読んだり、書き写したりしていた。

 ジクムントはいつも静かに歌っていた。歌いながら薬を作っていた。優しい、聞いていてうっとりするような歌だった。

「何の歌?」

 時々フィデリオが聞いた。

「さあ?わかんないけど、なんとなく歌いたくなってね。」

 ジクムントは適当に歌っているらしかった。学校でも歌なんて率先して歌っていないのに、どういうわけかこの小屋に来ると、ジクムントはフンフンと優しい歌を歌っていた。



 冬が濃くなり、泉の水が薄く氷る頃、ジクムントはいくつか薬を作り上げていた。ただ、本当に効き目があるかどうかは分からなかった。

「どうやって試す?」

 ずらりと並ぶ、薬の入った容器を前にフィデリオが言った。

「そうだねぇ。やっぱり知らない間に飲ませるのはいけないよね?」

「ジクムント、君って・・・」

 と言いかけてから、フィデリオはニヤリとした。

「フィデリオ、怖いって。何考えてるの?」

「いや、なんでもない。ただ、ちょうどアデーレが便秘だったなぁと思ってさ。」

 それを聞いてジクムントが赤くなった。

「ば、何お前、なんでアデーレが便秘だなんて知ってるのさ。」

「いや、たまたまおばさんたちが話してるの聞いちゃったんだよね。どう、あげてみる?」

 フィデリオが意味ありげな顔をして言うと、ジクムントは少し考え込んだ。

「や、あのさ、何て言って渡すんだ?俺が作ったって言ったら、きっと飲まないよな。」

「僕が作ったって言ったら、もっと飲まないだろうけどね。」

 フィデリオが大笑いした。笑いごとじゃないぞ、フィデリオ。

「よし、飲む!」

 急に意を決してジクムントが立ち上がった。

「飲むって、誰が?」フィデリオがキョトンとして聞いた。

「俺が、まず飲んでみる。それで、効きそうだったら、アデーレのおばさんに渡してもらう。」

「はあ!?」

 ジクムントのあまりの意気込みに、フィデリオは声を失うほど驚いて思わず笑顔が引きつった。だいたい、なんで自分が飲むんだ。それでもって、なんでアデーレ本人じゃなくて、おばさんに渡してもらうんだ。

「じゃ、そういうわけだから、俺もう帰るわ。」

 ジクムントは急にそわそわと帰り支度をして、例の薬をいくつか持つと、さっさと魔女の家から出て行ってしまった。

「そういうわけだからって、どういうわけ?」

 あとに一人残されたフィデリオは、一体ジクムントに何が起こったのか分からず、ボー然とジクムントの出て行った扉だけを見つめていた。

 それからやっと我に返って考えた。

 俺がまず飲んでみると言っていたのだから、きっとジクムントは家に帰ってあの薬を飲むのだろう。効果はどうだろうか。ああ、飲んだところからジッと見守りたい。

 とは思うが、便秘の薬だしな。うまく効いたところで、トイレに缶詰だろうし。見守らないのが友情ってもんだよな。

 いいとこ、明日どうなったか聞けばいいか。

 冬休みだし、明日朝一でジクムントの家に行こう、と考えたフィデリオであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ