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「初心者VRMMO(仮)」小話部屋  作者: 神無 乃愛


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嬉し楽し年末年始 後編


 そして「初親子行事!」と張り切るものもいる。勿論、良平、悠里夫妻だ。それゆえ、良平の仕事納めが終わり次第、こちらに駆け付けている。

「初売りも行きたいところだが、美玖君のことを考えると、次回に持ち越しか」

「そうですわね。美玖ちゃんのサイズを聞いて福袋は買ってきますけど」

「お洋服いっぱいです」

「じゃあ、手芸用品の福袋にしましょうか」

 両手いっぱいの洋服を持ってきつつ、まだ買うか! という発言までしたが、美玖の恐れおののいた表情であっさりと諦めていた。そして手芸用品というあたりで、喜ぶつぼを知っている二人だ。

「……あの。これ」

 おずおずと二人に差し出された箱。悠里のものが大きく、良平のものは小さい。

「まぁ! 美玖ちゃん、ありがとう」

 早速開けた悠里がはしゃいでいた。中には手編みストールが入っていたのだ。箱も大きくなるというもの。良平にもマフラーだが、いたって普通のサイズである。

「帽子や手袋とも迷ったんですけど……」

 そちらよりも普段使いできそうなものを考えた末だ。余談だが、保には手袋付きだ。だからこそ、こういった場面でも落ち着いていると言える。心が狭い、そう思う一同だった。

「ま、ジャッジ君の心の狭さは今に始まったことじゃないけどね」

 にひゃりと笑いつつ、そんなことを言うのは晴香。有給で年末年始をもぎ取ってきたという猛者である。妻子持ちが泣こうがキニシナイ。何せ今までそのあたりの有給は譲っていたのだ。



 大晦日はいつものように年越しそばを食べて、夜中過ぎまで起きている。リハビリの兼ね合いもあり、毎日夜の九時から十時くらいにかけて寝ている、美玖からしたらかなりの夜更かしだ。

「さて、うさちゃん。そろそろ準備しよっか」

「はいっ」

 初詣に行く準備をする二人を見て、大半の人間が紗耶香が年上に見えたという。分からなくもない。そして「うさちゃん」という愛称をあっさり受け入れている美玖。いいのか、と思わなくもないが、「親しみを込めて言ってくれるものを拒否するつもりはありません」とあっさり言っていた。その辺りはしっかりとしている。

「さて、俺らは年越し麻雀でもするかね」

 良平に引きずられ、卓についた保だった。



 初詣に出かけるのは、美玖、紗耶香、悠里、昌代、さゆりに晴香である。「晴香を女性に入れていいのか?」という質問が保から出たが、「ボディガードじゃ」とあっさり言ったのは昌代だ。晴香も、昌代とさゆりがいたらセクハラなど出来るわけがないのだが。

 現在美玖と紗耶香は振り袖姿だ。二人とも悠里のお下がりを嬉々として着ている。

「紗耶香はこれより挨拶に付き合う故着物なのは分かるのじゃが……」

「いいじゃんか。うさちゃんと一緒に着物着たかったの!」

「自分の欲求に正直じゃな」

 いったい誰に似たというのか。少しばかり頭の痛くなる昌代だった。

「でぇも、悠里ちゃん」

「どうかしたの、紗耶香ちゃん」

「うさちゃんに、兎柄って」

「似合うでしょう?」

 十三参りの時に昌代が悠里に贈った着物である。あの時一回しか着なかったのだが。

「美玖の成人式には新しい着物を……」

「お養母様、それはわたくしの役目ですので」

「二人で金を出すかの」

「お養母様はお金だけにしてくださいね。悠里の時は楽しみを取られましたので」

 他に聞こえないように話していたのだが、晴香には聞こえたらしく笑いをこらえていた。

「このままですと悠里の娘になるというのも、暗礁に乗り上げそうなのですよね」

「小母さん、それどういうこと?」

「美玖ちゃんを気に入った他の身内が、養子、もしくは嫁入りを虎視眈々と狙い始めたのですよ」

「今更じゃん」

「我らが情報を止めておったからの。為人(ひととなり)は伝わっておらんかったのじゃ」

「了解。でもそればっかりは運だ。他に取られないよう、あたしも協力する?」

「晴香ちゃんの協力はねぇ……、いやな予感しかしないからやめておくわ」

「酷い」

 酷いもないにもない。事実だと昌代すら思ってしまう。「婚期を逃して」と本人は言っているが、「婚期を自力で潰して」の間違いではと思っている。性格も能力も申し分ない人間なのだが。


 その間も、美玖と紗耶香は楽し気に話している。紗耶香を昨年こちらに連れてきたのは正解だった。

「うさちゃんは何をお願いするの?」

「んと、みんなが元気で暮らせますようにというのと、今年の高認無事通過できますように、かな。沙耶ちゃんは?」

「あたしは現状維持。厄介ごとに巻き込まれませんように、かな」

「今のまんまがいいよねぇ」

 それを聞いた昌代たちはにやりとした。美玖の「現状維持」という言葉を広めて包囲網を作るという野望を抱くのだった。

「では、お参りをして帰りましょうか」

「はいっ」

 悠里の言葉で、年少二人はお賽銭を投げ、真剣にお参りをしていた。


 それを見た昌代たちも倣い、帰路についた。



 戻れば、麻雀をやっていた男どもは死屍累々で。理由は保を抑えるためという何とも言えないものだった。

「あとで保以外にはおひねりでもやろうかの」

 誰にも聞こえないようにぼそりと呟く。美玖が紗耶香と楽しく話し、希望も聞けたのだ。


「さて、客をもてなす準備を始めるとするかの」

 美玖のことになれば、さゆりと悠里が黙っていない。禰冝田一族にも、その恩恵に預かるものにも、もちろん保にも。

 だから、昌代は己のやるべきことをじっくりとやれるのだ。


 早朝、二日酔いのままVRに繋ごうとした保が、システムに拒否されていたが、美玖には伝えず放置することにした。


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