嬉し楽し年末年始 前編
賑やかなクリスマスが終われば、年明けの準備が一気に加速する。
美玖とて例外ではない。最近ハンドクラフトの道具も増えてきた美玖は、片付けに余念がない。
「クリスマス、楽しかったなぁ」
何故かクリストファーまで来ていたのに驚いたが。保に貰った靴下には、様々なアクセサリーが入っており、一瞬本気でサンタクロースを疑ったほどだった。
もちろん、保をはじめとした「TabTapS!」で一緒の「カエルム」メンバーからの贈り物だったが。それとは別にクリスマスプレゼントを貰ったので、プレゼントはかなりもらったことになる。そのお返しが手作りのアクセサリーやチャームでは気が引けるほどだ。
「美玖は働いていないから、それでいいの」
そう言ってくれたのは一弥だ。それ以上に恋人のりりかにプレゼントしたという。りりかもアルバイトをして貯めたお金で色々プレゼントをしたという。羨ましい限りである。
「美玖ちゃんのプレゼントはプライスレス!」
そう断言したのは晴香で。台詞を一弥と晴香にとられた保がむくれていたなど、知る由もなかった。
そんな余韻を引きずったまま、美玖は台所へと向かった。
「おばばさん、おはようございます」
「おはよう。ほれ、顔がにやけておるぞ」
数日経過しても変わらないらしい。
「素敵なクリスマスでしたし。これからお節を作るって考えるとなおさら」
「仕方ないの。今年は禰冝田から人がかなり来てお節の作り方を学ぶ故、麓に降りるぞ」
「え!?」
「我の味を伝承しようと今更思ったようじゃの。美玖が必死に覚えておるに、他が指くわえてみていたではすまぬらしいの」
「ということは……」
「お主も麓へ行くぞ。我の助手じゃ」
「えぇぇぇ!?」
いきなりこう難易度なミッションが発動された。
今回お節づくりに人が集まるのは、味を伝承しようという理由だけではない。昌代の傍にいて、なおかつ良平、悠里夫妻のところに養女に入るという美玖を見定めようとする動きがあったと見た。
曲がりなりにも禰冝田の一族に入るのだ、それくらいは仕方ない。それを言ってしまえば、美玖は養女を辞退し、昌代と暮らすことを諦めるだろう。それが嫌なためあえて黙っているという決断をした昌代である。
……それも杞憂に終わったが。それどころか「何故うちに養女の打診をしなかった!!」という家が相次いだ料理教室と相成った。純粋で礼儀正しい美玖に腹黒どもがやられたようだ。美玖と同年代、もしくはそれより下の世代は「ぽえぽえしていて、守らなくちゃ!」と思ったという。年下にまで庇護対象に思われるとは、これ如何に。男性数名は保によって撃退されていた。ご愁傷様、としか言えない状態である。
「保さんっ! 今年はいつもよりお節手伝えました!」
当の本人はそんな周囲に気づかなかったようである。これまた不思議でしかない。
「そっか。楽しみだな。年末年始はきっちり空けてあるから、こっから近い神社に初詣でも行くか?」
その神社は宮司のいない無人の神社だ。昌代は思わず、保の後ろにたった。
「陰険策士様、毎度後ろに立って首に扇子あてるのやめてくんねぇ?」
「気づかぬお主が悪いわ。良平なら扇子を当てる前に気づくぞ」
「先生と一緒にするな!」
これすらも「仲が良い」と取る美玖は、ずれている。
「初詣は紗耶香さんたちに誘われていて……」
女性陣だけで行こうかと、言われていると断っていた。紗耶香には多めにお年玉を渡すと心に決めた昌代だった。
美玖の見えないところで悪態をつく保を宥めつつ、昌代は客へ持たせる土産物の選別に入った。これも必要なことと昌代は割り切っているが、本来昌代がすべきことではない。
これに関しては、禰冝田家である程度の年齢に達した者が関わることになっているため、美玖は除外だ。美玖は保の車で保養所へ帰っている。ゲームで一緒のメンバーも同行するので、二人きりにはならないという、安心付き。ありがたいことである。
来年からは采配の相談だけに徹しよう。少しは楽をしたいというのが頭の中をよぎった。




