「嘘」にまつわるエトセトラ ――その一――
エイプリルフールにちなんでいくつかを四月中にUPしていきます
晴香と冬樹の場合
「ったく! あいつらいい加減にしろっての!」
VRゲーム上で怒り狂う女性、スカーレットをあやしているのは、ディスカスだ。
「また見合いか?」
「そうよ! 何が楽しくて、あたしよりなよっちい男と見合いせねばならん!」
その言葉にディスカスはものすごく不思議そうな顔をした。
「お前より強い男っていないだろ」
「いるから! 兄貴とか親父とか! 他にもいるっ」
「……その時点でアウトだ、阿呆。お前の性格知らなかったらただのブラコンにファザコンだ」
ただ単に強いものに惹かれているだけというのが始末に負えない、そうディスカスは思ってしまう。
スカーレットの父親は武において言うに及ばず、兄はある意味規格外。そいつらと比べるのが間違えていると説教したい気分だった。
「そういや、この間兄貴がぎっくり腰やらかしてさぁ。年なんだなって思ったわ」
「さり気に俺をディスってないか? 俺、ディッチよりも年上なんだが」
「ディスをディスるって洒落?」
「ほぉぉぉ。これ以上俺に愚痴を聞いて欲しくないようだな」
ディスカスも暇ではない。しかもゲーム内において、作成依頼を受けた武器が山のようにある。
「すまん」
その謝り方もどうなのだ。
「強いというなら、クリスさんあたりはどうだ?」
「アレかぁ……。ジャッジと親戚にはなりたくないわ」
「お前ね」
「ってか、あの人の場合、あたしが逮捕しそうでやなのよ」
余裕があると思っていたら、そちらが本命だったらしい。何となくだが、分かってしまった自分が恨めしい。
間違いなく、色々やらかしている人だろう。
そのあとも、どちらともなく愚痴を言い合っていた。
「兄ちゃーーん!!」
唐突に聞こえたその声に、ディスカスは飲んでいた茶を噴いた。
「……知り合い?」
「俺の兄貴の子供。親父の跡取り」
一番来てほしくないやつに、ゲームストーカーをされていたようである。
「やっと見つけたーー!! 兄ちゃん、帰ってきて……」
「断るっ!」
「何でだよっ! 帰ってこないと父さんと祖父さんにこのゲームしてるって言うぞ!」
何故そうなる。
「もうすぐ見合いもあるんだしさ」
「聞いてないぞ!」
「電話でない兄ちゃんが悪いんだろ。それに今言った」
ふざけるのも大概にして欲しい。留守電の一つでも入れればいいはずである。この時、ディスカスは折り返しの電話をしていないというのを、棚に上げていた。
ぴこん、とゲーム内で使っているスマホにメール着信があったと知らせが来た。
『なんだったら、私と結婚前提に付き合ってるって嘘つけば? 今日は幸いにもエイプリルフールだ』
後日言われたら、それで誤魔化せばいい。そういうことだろう。
「残念だが、見合いは受けれないな」
「なんでっ!?」
「結婚前提に付き合ってる人がいるからな」
「そんなウソ通用しないぞ!」
「目の前にいてもか?」
すっと、ディスカスはエスコートするかの如く、手を差し出す。
「初めまして。結婚前提に付き合ってるの」
言い方がものすごく軽い。長年の付き合いがある人間なら、間違いなく嘘だと気づく。
「え? リアルも女性?」
「そぉよ~~。信じられない? 声までは誤魔化せないものよ」
くねっとしなを作るな! 気持ち悪い!! ディスカスは内心で毒ついた。
こういった対応に慣れていない甥っ子は、顔を真っ赤にしてログアウトした。
「……サンキュ」
「どぉいたしまして。あとでなんか奢って」
「なんだ? 酒か? そのうち色々見繕ってディッチのところに送っとく」
「ありがとー」
これで一安心……おそらく日付を見て甥っ子も後日「エイプリルフール?」と聞いてくるだろう。
のはずだった。
「本当ですってば! ディスカスさんがそうスカーレットさんを紹介してたんですっ!」
ギルド本部でそんな声が響いていた。
「なぁ、誰一人お前とレットが結婚前提で付き合ってるって聞いてないんだが」
ぽん、と肩を叩いたのはディッチだ。
「あれは……」
「だって、ディスカスさんが、スカーレットさんをエスコートしたり、優しく抱き寄せたり……」
「うん。ありがとう。うちの奔放な娘をもらってくれる決心つけてくれて」
にこにこと微笑むのはパパン。
「あ。ちょっと待て……いや、待ってください」
「挨拶は特にいらないよ。ディスカス君のことはある程度分かってるし」
「結婚式はどーすんだ? あり? なし?」
「ちょっと待てや!」
ギルドないが別の意味で暴走している。
「あ、本当に結婚しないとカナリアが落ち込むぞ」
「そう来るか!?」
見ていた相手が悪かったらしい。
埋められた外堀。これをほじくり返すにはかなりの労力が必要そうだった。




