美玖と女帝と保の初めての年末年始 その1
昨年までの年末年始、美玖はかなり忙しかった。
たった一人で二十七日までに家とその敷地内の大掃除を終わらせつつ、冬休みの課題やら、講習に行っていたからだ。
そして二十八日の朝には周一郎の自宅へ行き、そちらの大掃除の手伝いやら料理の手伝いやらをさせられていた。
そんなわけで美玖からしてみれば大掃除というのは慣れた行事だったりする。
「美……美玖様! 大掃除は業者がやりますからっ! ご自身のお部屋だけお願いします!!」
狭山が慌てて止めに入ったので、大掃除は自分の部屋をすることにした。
「……終わっちゃった」
普段から片づけを心がけている美玖は、いつもよりも念入りに掃除をしてカーテンを洗ってしまえばあっという間に終わってしまう。
はっきり言って退屈である。
年明けのちりめん飾りは昌代と一緒に作り、そちらも終わっているのだ。
「……何しよう」
「どうせですから、私とそれから昌代様と一緒におせちでも作りますか?」
にこりと笑って提案した三浦の言葉に、美玖はあっさりと乗った。
「ったく、リハビリじゃというに……」
和服にたすき掛けをした昌代がため息をついていた。
「……毎年恒例だったので」
「おせち作りは?」
三浦がこちらも恒例だったのかと訊ねてきた。
「下ごしらえだけです」
美玖はあえて言わなかったが、周一郎宅で一度もおせちを食べたことはない。味見も他のお手伝いさんたちがするため、どんな味付けか分からないのだ。
「なれば由来も含めて教えるとするかの」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに言う美玖を昌代と三浦は微笑ましく見ていた。
今までの正月と言えば、周一郎宅でお手伝いさんたちが三が日を休むため、その分周一郎宅のお手伝いさんもどきのようなことしかしていなかった。
それゆえ、神社に行くなどということも出来なかった。
自称庇っていたはずの周一郎は、新年の挨拶回りやら、挨拶回りに来る人の対応をして美玖が何をしていたのかは知らなかったりする。おせちすら食べたことがないなどというのは、当然知らない。
そのことに改めて殺意を憶える保だった。そして保の持つ情報網を駆使して様々なところにばら撒かれた。
無病息災、出世、長寿、五穀豊穣、学問教養など様々なものを願うものだと理由を聞かされた美玖は、ただただ驚いていた。後日しっかり何かにメモしよう。そう思っていると、昌代が笑っていた。
「美玖よ、今年は作るのを見ておれ。分量も軽くじゃが教える故、それを書いておけ」
「はいっ」
そしてそれ専用だという重箱を取り出し、前々から下ごしらえしていた食材を次々に使っていく。
「ほれ、黒豆じゃ。味を見てみ」
差し出されたまま、思わずぱくっと食べる。
「美味しい……」
「この味じゃ。毎年食して覚えるがよい」
「はいっ」
皮にしわをよせないためにはどうすればいいのかまで、しっかりと教えてくる。
「おせちの作り方は悠里もさゆりも覚えようとせなんだ。我でこの味が失われるかと思っておったわ」
美玖が覚えようとしてくれているのが嬉しいらしく、昌代が呟いていた。




