初めてのXX
美玖は現実でもアクセサリー作りをやっている。
ほとんどが昌代を通じてバザーに出されており、お気に入り以外は手元にない。あとは時々晴香が来て持っていったり、保が千沙に近況報告がてら持っていくくらいだ。
そして、買い物もほとんど行かない。
アクセサリーの材料は、昌代が和服を仕立てたときに出る端切れや、保が買ってきてくれるもので事足りている。日用品は禰宜田伝手で購入しているので出かける必要がないのだ。
言ってしまえば「引きこもり」である。
少しばかりまずいかなぁと思っても、少しばかり外が怖くなっている。
「美玖、リハビリがてら近くの町まで行ってみるか?」
そんな美玖を心配して保が声をかけてきた。
ちなみにここは禰宜田家で保有する「別荘」の一つである。山中にあり、木々に囲まれている。冬は暖炉が必需品で、夏は冷房が要らないらしい。
そして、近くの町まで車で三十分というある意味僻地にある。
「おばばさんと主治医の先生に聞いてみます」
「二人の許可なら取った。逆に少し出かけろって言ってたぞ」
保の後ろには昌代と主治医の遠山がいて、頷いている。
「……行きます」
かなり不安ではあるが、リハビリということもあり出かけることにした。
美玖が外に出るまでに一騒動、車に乗るときに一騒動。どうしてこうも一般常識を植えつけず成長させられるのだろうかと、保は思った。
「美玖。助手席」
「いいいいい、いえっ! 後ろの隅っこで大丈夫です!!」
そう言って指し示した場所はトランクである。
「トランクに人乗せたら、俺捕まるんだけど」
「えぇぇぇ!? そうなんですか?」
この言葉に、保は改めて美玖の両親に殺意を覚えた。
「今までがどうだったとかはいいけどさ、俺の車の助手席は、美玖のための席。だから乗って?」
「はははは、はぃぃぃぃ!!」
そんな二人を昌代が呆れて見ていた。
車に乗って移動中、美玖は外の景色を興味津々で見ていた。
「ふぁぁ!! 保さん! 鹿ですよ!!」
「うん。もう少し奥に行くと禰宜田で保有する自然公園になっているらしいし。熊や猿も出るから、外出るとき注意したほうがいい」
「……保さん会ったことあるんですか?」
「いや、砂○け婆様から聞いた話。禰宜田家である程度管理しているとはいえ、全部分かってるわけじゃないらしいからな」
興奮していれば凶暴にもなる。そしてゲームと違い、怪我をしてしまえば大変なことになるのは分かっている。
「気をつけます」
「うん。野菜の世話したいって言ってたからな。特に猿に気をつけろ」
「はいっ」
元気よく返事をした美玖の頭を、保が優しくなでた。
別荘地から少しばかり離れた町は、近くに大型ショッピングセンターが出来てから客足は遠のくばかりである。
だが、保はショッピングセンターよりも商店街の方が好きなのだ。
「ふわぁぁ。人がいっぱいです」
これ位でたくさん人がいるというのは語弊がある。しかし、美玖は久方ぶりの外出だ。仕方あるまいと納得させた。
「美玖。迷子にならないように手を繋ぐよ」
「ふぇ? そこまでしなくてもだいじょ……」
「抱っこされて町中歩くのと、手を繋いで歩くのどっちがいい?」
「……手を繋ぎます」
真っ赤になりながら美玖が答えた。
商店街をひやかされつつ、二人で回る。その度に美玖は恥ずかしそうに逃げようとするが、当然それを保は許すわけがない。
逃げようとすればするほど、保は美玖を引き寄せる。結局は腰から抱きかかえるようにして歩いていた。
「……恥ずかしいです」
「どうして? 俺はリアルでもこうやって美玖と歩けるの嬉しいけど」
美玖は嫌? その言葉を言外に含むと、美玖は顔を真っ赤にしていた。
「いいいい、嫌なわけじゃないです。……慣れないだけで」
「じゃあ、慣れようか。そのうちイッセンたちとも外で一緒に遊ぶのもいいだろうし。あの二人はどこでも腕組んで歩いてるって話だし」
先日はリリアーヌの下着買いに付き合ったというのだか、羨ましい……でなく凄いと思うが。
「……その前に人がたくさんいるところに慣れないと駄目ですね」
「疲れたら言えよ。すぐに休むから」
「ありがとうございます」
ここまで純粋だと、保もどうしていいか分からない。休むにも色々あるということを教えておくべきか。
「久しぶりだね。My dear son」
全てをぶち壊す、嫌な男の声が聞こえた。
久しぶりにリアルの世界です。コメディ路線に持って行きたいと思ってます




