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6 幼女

朝起きると、腕につけている衛星時計は7時を迎えていた。


城内は静かな様子で、ムダルリッチの時もそうだったが、ブログディンナグの人は多少時間にルーズなのかもしれない。


「……沢野さん。朝だよ」


「……あと……くかー」


せめて何分で起きるかは言い切って欲しかった。


「さて、起こしにくるまで何をするかな?」


俺はふと考えると窓枠に登り、外を見た。


4階ということもあり見える景色は綺麗である。知ってる地名で例えるならバルセロナのような感じだろうか。

まだほとんどの人は起きてはおらず、兵士もまだ眠たそうだ。


……それにしてもガリバー旅行記に出てくるブログディンナグとは思えんな。


ガリバー旅行記に載っていた方は港町でエンジンのない帆船で魚を積み、馬車が石レンガの街並みを通り、ドレスや絹麻の服を纏う人々が活気の良いバザールで買い物をする……的な感じのイメージがあった。


しかし、ここから見えるのはエンジンが搭載されている漁船、常用車がビルの合間を通る(多少はレンガの家もあるが)、ユニ◯ロで売ってそうなTシャツ&ジーパンの人たち……まさしく発展している。他の国と関わりを持たなかったのに凄い進化だ。


……まあ日本も同じ期間で長屋からマンシヨンになったのだから人のことを言えないのかもしれないけど。


しばらく外を眺めていると、ガチャリと部屋の扉が開く音が聞こえた。


フローラさんが起こしに来たのかと思い、扉に目を向けるが……。


『……え? 誰?』


そこにいたのは、大人しそうな顔つきをした金髪の幼女だった。


*****


『沢野さま沢野さま』


「……んにゃ。……! のわっ! び、びっくりした……そっか、ここ王宮か」


『沢野さま、おはようございます』


『うん、おはよー。フローラさん』


沢野はベッドから降りると、背中を反る。

するとメキメキと関節が鳴る音が聞こえた。


『ところで……アリマーさまは?』


『ん、あれ? 先に起きてるとは思ってたけど、どこ行っちゃったんだろ? ……机から落ちたとか? フローラさん、踏んでない?』


するとフローラは顔をさーっと青ざめると、サッと飛び退いた。


『……ごめん。冗談のつもりだったんだけど』


『そんなあり得そうな嘘やめてください!』


*****


……どうやら気を失っていたらしいら眼が覚めると何やらふかふかの地面で寝かされていた。


「……ん……ん?」


『……気がついた?』


『!?』


ふと顔を上げると、其処にはまだ年齢が2桁にも満たないようなあどけない幼女の顔がひょっこりと覗かせていた。


どうやらこのぽんよりしている地面は、この子のお腹の上のようだ。


『……え、えっと、君は?』


『……ミミィ』


ミミィ……か。 ワンピース風のドレスっぽい格好からして城の関係者なのは間違いなさそうだけど……。


(アリマーさまー? どちらですかー?)


『あっ! そうだ、ミミィちゃん! 今度遊んであげるから、帰してくれない?』


すると、ミミィちゃんは俺の体をギュッと胸に寄せ付けた。不可抗力だ。


『……やだ。お姉様だけズルい』


『お、お姉様? ミミィちゃんのお姉さんって……』


『ルルア……王女様なの』


……姉妹似てないなぁ。


『お姉ちゃん昨日すごく自慢してたの。羨ましかったの。だから連れてきたの』


連れてきたというか誘拐なのですが。


『ちっちゃなお兄ちゃん遊ぼ。そしたら、戻してあげる』


『……よ、よし分かった。 何したい? ……あっ! 危ないのは無しだから』


『じゃあお相撲』


『聞いてました?』


解放されるには中々苦労しそうだ。


*****


『お兄ちゃんちっちゃいから、10数える間倒れなかったら勝ちでいいよ』


すると、ミミィちゃんは俺に向けて人差し指を向けた。幼女とはいえ太さだけでも60cm程ある。


『わたしは指だけでいいよ』


……幼女にハンデをつけられて相撲を取ることになるとはなぁ。


『んじゃ、転けないように頑張るよ』


『じゃあお兄ちゃんが押してきたらスタートだよ』


『はっけよい』はないらしい。まあ不平等になるからなぁ。


『よし、じゃあ行くよ……うりゃあっ!』


俺はミミィちゃんの指にもたれかかるように押した。


しかし、ピクリともせずに不思議そうな顔でこちらを見つめた。


『……始まってるの?』


ミミィちゃんは小さな声で呟くと、俺の体を指先で持ち上げた。


『うわあっ!? ミ、ミミィちゃん! 危ないから降ろして! 負けでいいから!』


『やったぁ。 ……これって押し出し? 寄切り?』


『……降参じゃない?』


『むぅ……』


するとミミィちゃんは納得できないらしく、手を広げると俺の体を机に押しつけた。


「っ……ぐぅ……っ!」


『何もしてないのに勝っても嬉しくないもんっ』


ミミィちゃんの押さえる力は幼いとはいえ、体格差で圧倒的だ。


「……あっ……くぅぅ……だ、だれか……」


『むぅ〜』


暫くして息をするだけで精一杯になり、呻き声もあげられなくなったところでようやく解放された。


『……お兄ちゃん?』


「……」


『っ!? ど、どうしよう……お兄ちゃんが……!』


ミミィちゃんが慌てだすと同時に部屋の扉が開いた。


『ミミィよ。 アリマー……ちみっこい男を見なかったか?』


『お姉ちゃん!! どうしよう! お兄ちゃんが動かなくなっちゃった!』


『なにっ!? やはりミミィが連れていたのか……。いいか? 妾はいつも必ずミミィの味方じゃ』


『うん……』


何やら話し始めた。


『とにかく、其奴を埋める場所を……いや、猫に食わすやら海に捨てる方が不幸な事故と見せかけられるかのぅ……』


『……お姉ちゃん?』


『大丈夫じゃ、安心せよ。まずは証拠の隠滅じゃ』


このままだと本当に命が危ないので、残っている微力を振り絞り声を上げた。


『……ちょ……か……てに……殺……すなっ……!』


『ぬぉっ!? しぶといな、まだ生きておったか』


『……お兄ちゃんよかったぁ……』


しぶといとはなんだ。


*****


後に俺はベッドに戻された。

食事は向こうから持ってきてくれるらしい。


フローラさんはホッとして、再び深く謝っていた。


沢野さんに関しては泣いて心配をかけたことを詫びさせてきた。……まぁ心配をかけたのは本当に悪かったと思う。


「……ぐす……有馬くん……。怪我はないって本当?」


「うん……まあ、すこし肺が圧迫されたくらいだから……」


とはいえ、寝ているだけでもかなりしんどいのが正直な気持ちである。


せっかく小さく切り分けてもらった食事もほとんど口にすることができなかった。


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