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5 王宮

王女は、俺と沢野を机の上に乗せると、目の前にドカドカと何かが降ってきた。


『この国の硬貨じゃ。これらを全て向こうの箱にしまってこい』


「え!? 無理だよ!」


沢野さんが嘆くのも当たり前だ。

この硬貨……銀貨は銅貨や金貨に比べサイズが大きく、俺たちの力では動かすのもやっとなのだ。

しかも、枚数も5枚やそこらではなく30枚くらいあるように見える。


『えっと……なんでそんなことをする必要が?』


『面白いからに決まっておろう。制限時間は5分じゃからな』


そして、王女は徐にタイマーをスタートさせた。


「え、えっとどうする?」


「ともかく、一枚ずつ持ち上げてみよう! 行くよ、せーのっ!」


*****


『時間切れじゃ、残念じゃったの』


俺たちは結局30枚どころか一枚も持ち上げることができなかった。この硬貨自体100kg以上あるようだ。


息を切らす俺たちを王女は蔑むように見下ろし、言葉を重ねる。


『惨めじゃのう。コイン一枚動かすこともできないなんてな。……だからな。罰ゲームじゃ』


すると、王女は車ほどの大きさのあるティーポットを持ち上げると俺たちに向けた。


そのとき


『王女陛下。おやつのお代わりをお持ちしまし……何してるんですかっ!?』


『あっ、フローラ……』


『王女陛下! こちらの方々はブログディンナグからの来訪者です! 奴隷や玩具じゃないんですよ!?』


フローラという女性はどうやら俺たちを助けてくれたらしい。


『……でもー」


『でもじゃないです!! 全く王女陛下は……』


『わかった! わかったから小言はよせ! ……仕方ないのう。じゃあ妾は城内の兵士でも捕まえて遊んでくる。その間、彼奴等の相手を頼んだぞ』


『……ほどほどにしてくださいよ?』


そして、王女はいなくなり、部屋には俺と顔面蒼白の沢野さん、そしてフローラというメイドだけになった。


メイドは机の上のコインを丸太のような指で拾いながら俺たちに謝った。


『お二方申し訳ありませんでした。これでも王女陛下は小さいものが好きなのですが……多分嬉しかったのでしょう』


『……えっと……フローラさんでしたっけ?』


『あ、申し遅れました。私、王女陛下に使わせていただいております、フローラ・レイチェットと申します』


そういうとフローラさんは、マッチ箱のような大きさ(大きさ的な比率で)の俺たちにも関わらず、一歩引いた位置から礼儀正しく頭を下げた。


釣られるように沢野さんも頭を下げる。


『ああ見えても王女陛下も優しいお方なんです。ただ少しお転婆というか破天荒といいますか……許してあげてください』


「……ねえねえ有馬くん。これってメイドさんが言うセリフじゃないよね」


「……返答に困るなぁ」


俺たちは顔を見合わすと苦笑した。


『まあそれはいいですけど……。このあと僕らはどうなるんですか? 出来れば戻して欲しいのですけど……国に返してもらえれば尚良いです』


『申し訳ありませんが、それは出来ません。国の仕来りとしてグリルドリグと同郷のものは城内にて飼……持て成すというものがありまして……そもそもこの国には外来の知識は皆無ですから……』


……なんか不吉な言葉が聞こえたきがするけど、気のせいだよな。


『もちろん傷つけたりはしません。死亡や負傷をさせた者は王女陛下であっても裁かれるという法律がありますから安全なはずです』


『え? でも王女陛下は……』


すると、フローラさんはティーポットをお茶に入れると一口飲んだ。


『王女陛下は猫舌ですから。この紅茶も十分に冷めてます。そもそもヤケドさせるつもりなど、さらさら無かったのでしょうね』


フローラさんはそう言い終わるとクスクスと微笑んだ。王女陛下と異なり既に大人なので、その様子も少し色っぽく見える。


「……有馬くん」


「ん? 沢野さん」


「……なんでもない」


「なんだよそれ」


*****


その後、何もすることなくダラダラと本を読みながら過ごし、夜になった。


食事は王女陛下と共に同じものを食べることになった。

監視役としてフローラさんがいるので多少安心である。


ただ大きさを整えるのが難しかったらしくブログディンナグ人サイズのえげつないものになってしまったのは考え事だが。


「……さてどうやって食べようかな」


「うん……。食器はこっちで持ってるもので代用できるけどね」


肉を切ろうにも厚さが膝丈ほどありナイフが進まない。

スープも泳げそうな大きさだし、野菜に関しては茎の部分の歯が立たない。


正直言って、食べるのが難しい。


『……王女陛下。お二方のアシストをした方がよいですか?』


『構わん。妾がする。皿を貸せ』


『え? あ、はい』


フローラさんは俺たちの料理皿を一言入れて運ぶと、王女陛下が器用にナイフを使って切り分けた。


『……こんなものじゃろう。これでチャラじゃからな』


改めて運ばれてきた料理を見ると、大きな塊とは別に薄く切られた料理が少し分けられるようにして置かれていた。


『あ、ありがとうございます』


『……構わん。妾も悪かった』


王女陛下が顔を赤くして謝る姿を見てフローラさんはクフフと笑いを堪えきれずにいた。


*****


夜も更け、寝ることにする。

寝床は王女陛下と隔離された4畳ほど(ブログディンナグ人からして)の広さで白い机が一つだけ置かれた部屋である。その上には受話器とベッド、そして何故かティッシュ箱が並んでいた。

理由は王女陛下の純潔がどうとか。

正直無理があると思う。


ベッドくらいなら簡単にできたらしく、木の箱に大きなクッションを入れたようなものが二つ置かれていた。


それを見た王女陛下は『お手玉みたいじゃな』と言っていたが、俺たちにとっては一時期流行っていた「人をダメにするソファ」にしか見えない。


『では何かあれば内線を使ってお伝えください。ではごゆっくりお休みください』


フローラさんはそう言うと部屋を出ると同時に電気を消して行った。


「……さて寝ようか」


「そうだね。疲れた〜」


俺はベッドにもふりと倒れこむ。綿が入ってるらしくなかなかフワフワだ。


「……城で暮らすのも別に変じゃないね」


「……最初は怖かったけどね」


「……でも、やっぱりムダルリッチの方がいいかな」


「……だよね」


そして俺たちはこれ以上会話することなく、眠りについた。

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