2 居候
捕まりました。
場所はわかりません、なにやら箱の中に入れられています。
「なにされるんだろうね。」
「…さあな。そもそも、この島は何なんだ?蜘蛛がデカいとか女の子がデカいとか…なんかガリバー旅行記のブロブディンナグみたいだ。」
一つだけ、なんとも言えない可能性を出す。
でも、それなら彼女が英語を話せた理由にもなる。
なぜならガリバー自身、イギリス人だったのだから。
「でも、もしそれだったらどうするの?」
「うーん…もしガリバーのことが後世まで続いてるとしたとしても、…?」
すると、箱が開けられた。
今度は目の高さに少女の頭がある。
テーブルかなんかの上だろう。
しかし、目線が同じだと可愛いのが伝わる。見下ろされていたときは迫力と恐怖が混じっていたからだろうが。
「…なにかする様子では無いね。」
彼女は興味津々といった感じでこちらを見ているだけのようなので、早速聞いてみる。
「Do you think Gulliver?」
通じてないのか、首を傾げている。
いや、知らないという意味かもしれない。
「ねえ、有馬くん。ブロブディンナグではガリバーはなんて、呼ばれているの。」
本を出して調べる。
…なるほど。
質問を変えるべきだ。
「Do you think Grildrig?」
グリルドリグ。それがブロブディンナグで呼ばれていた名前らしい。
なんとも簡単な英語を基本英文だ。
しかし、その言葉を聞いた途端彼女は頬を赤らめて興奮した。正解らしい。
「Oh.Yes!…but you can't understand my ward…」
こちらが通じても向こうが通じないことを言っているのだろう。
しかし、本当にブロブディンナグだったとは。
正直、ただの風刺文学だと思っていたが、案外侮れない。
「本で見るよりも発展してるんだな」
「そうだね」
当たり前か、あれからもう300年以上経つのだから
ところでガリバーは最初になにをしたのだろうか。
ふと思い出したので、また聞いてみることにする。
「Can you teach us your language?」
言語を教えてくれという問いにも少女は快く引き受けてくれた。
彼女は笑顔で頷いてくれた。
「よし…あとは俺たちの問題だ。」
「そうだね、がんばって覚えないと!ブロブディンナグ語。」
…………………
……
あれから一週間が経った。
この一週間だけで、我ながらよくブロブディンナグ語を覚えたと思う。
(一応ノートに書いて勉強した。)
まあそもそも、思ったよりも簡単な言語だったというのもあるが…。
また、本とは異なるものが幾つもあったので、わかることを含め手帳に記しておいた。
例えば、昔と比べた発展具合。
昔はなんでも人力でしていたようなまさに中世ヨーロッパという感じではあったが、今では普通に電気が使われており、電話は愚か、テレビ、携帯、パソコンまである。
経済発展と共に治安も上がったようだ。
人身売買など恐ろしいこともなくなったらしい。
ただ変わっていないこともある。
政治が王政ということだ。
今でも王女が率いているようだが、まだ姿を見たことはない。
『アリマー。ご飯だよー。』
『ムダルリッチ。俺だって人間なんだから犬にやるみたいに言わないでよ』
ちなみに言わなくてもわかるだろうが、ムダルリッチというのは彼女の名前だ。
両親は農家で畑暮らしで、うちにはなかなか帰らないらしい。
『でもさー、サワノは犬みたいに食べてるよ?』
となりを見ると、すごい勢いで食べている。まさに犬だ。
「なんでそうも、急いで食べるんだよ。」
「だって本でさ、ハエが付くとか書いてあったじゃん!あれやだもん!」
日本語での会話を聞いて、ムダルリッチは首を傾げながらもニコニコしている。
『それにしても、グリルドリグとは違う国だったんだね。』
『まあ、一応僕らの国にも来航はしたんだけどね』
本の中ではかなり変な表現をされているけど。
『ところで、まだ出してくれないの?』
『ごめんね。ちょっと噂を広げてる段階だから。』
なるほど、意外とこの子策士かもしれない。
「どういうこと?」
理解をしていない沢野に説明する。
「いきなり小さい人たちがバーン!って出るよりは噂を広げていた方が混乱しにくくなるってこと。」
「ふーん。よくわかんないけど、まぁいいや。」
難しいことは理解しなくてもらわなくてもいいや。
『でも…ちょっとお願いがあるんだけど。』
突然沢野がムダルリッチに頼み込んだ。なんだろう。
『トイレとシャワーくらいは敷居作ってくれないかな?』
吹き出した。
『あーそっか、サワノとアリマーは異性なんだもんね。私は気にしないけど、確かに…ね。』
了解したようだ。
だが、気にしないというのも困る。
『俺は敷居の他屋根も欲しいのだけど。』
『気にしないでよ。別に抜いてるわけじゃないんでしょ?』
「あ、有馬くん…誰で抜いてるの?」
「そもそも抜いてないっ!」
突然、女性陣から下ネタの嵐を浴びたその時だった。
テレビからちょうど俺たちの噂がニュースになっていた。
『うん、そろそろ潮時かな?』
『え?』
ムダルリッチは手を叩いて、指揮を出した。
『じゃあ、シャワー浴びて服整えて出すもの出して!出かけるよ!』
そして、場所を知らされないまま俺たちは少し豪華な箱に入れられた。