聞きたくないもの3
「げっ」
バロが容赦ない素振りで軽く腕を振ったのを見てジュニが慌てて腕を振る。
急速にこちらに近づいてくる枝などをジュニも力で跳ね返そうとして空中で枝や幹が不自然にくるくる回る。
フミは再び手元に意識を集中しながらバロへ人差し指を揺らした。
端から見たら子供が鉄砲を撃つ真似に見えるその仕草は見た目とは裏腹にバロの目の前に火の玉を浮き上がらせた。爆発などの脅しにしない限りフミの炎は何も無いところから急速に出現するものだった。
バロの周りを囲むように一気に炎の壁が現れる。
急に現れた炎にバロが気をとられ、いくつかの枝や幹が地面に落ちた。
「ジュニ、援護頼むね」
フミは軽い足取りでバロへ近づく。
「おじさん、お皿を頂戴?」
声を掛けながらフミが歩く側を相変わらずジュニとバロの力で浮かんだ枝が漂う。こんな状況にあってもジュニとの攻防をバロはやめる気がないのだ。
「おじさん? 今日のところはここまでにして、お皿をください」
フミはもう一度返事を返さないバロへ声を掛ける。
「フミっ、危ない!」
後ろからジュニが叫び振り返った瞬間、何かに強く押されてフミは腐葉土へと倒れこんだ。大きな物が地面に落ちる振動を感じる。自分の上に誰かが折り重なった。
誰か…ここにはジュニとバロしか居ない。
「ジュニ、大丈…夫?」
上に居た彼が起き上がったのでフミは立ち上がりながら声を掛けた。
しかし、自分の顔のすぐ近くにある瞳が深緋だったことで口を閉ざした。
それを見たセーアのその瞳に陰が広がるのを感じながらも視線を逸らして周りを見渡す。
倒れた時にフミの炎は消えてしまっていたので少し先にはバロが立っていた。
彼の肩のところには大きな鷲が乗ってる。
上手に爪を立てることなく乗っているが、それは見るものに恐怖を与える姿だった。
バロの顔が引き攣っている。抵抗する気が失せたようだった。
「ゲット~」
その言葉に鷲がひょいと飛び移った先に居たのはBブロックで単独行動していたタイチだった。彼は動物を使役して使う能力者だ。
「ほら~立てよ、お前ら。皿、回収したんだからさっさと村に戻らないと、ルネが怖いぞぉ~★」
既に二十歳を過ぎるはずの彼は茶目っ気たっぷりに言った。
歩くタイチの耳まで隠れる帽子の上に鷲は上手にバランスをとる。タイチはジュニに皿を手渡して背中をぽんぽんと叩いた。
「なんでここにセーアがいるわけ? Aブロックだろ?」
ジュニが不満顔で言った。
「セーアは自分の回収が終わったらすんげー顔して俺を捕まえてここまで引きずってきたんだぜ?」
「呼んでない」
冷たく言うジュニにセーアは無視して乱暴に立ち上がり、すぐ横に座りこんだままだったフミの腕を引っ張り体を起こさせた。丁寧な仕草でフミから枯葉を落としていく。
フミは何も言えずにセーアにされるがままにするしかなかった。
セーアがかなり怒っている事が伝わってきたから。
「わざわざどうして来た?」
ジュニは重ねて言葉を発する。
「他は皿を取り終わってる」
「俺たちだってあと少しで回収し終えられた」
セーアが面倒臭そうにジュニを振り返った。
「お前たちだけでは勝てなかったくせに口ばかり回るな?」
セーアが声を発する前にフミの後ろから聞こえて四人がそちらを見る。
バロは呆れた顔で息子のジュニを見ていた。
「お前だけではフミに飛んできた幹は防げなかった。そうだろう? 素直に彼らに礼を言うんだな」
父親の言葉にジュニは唇をかんだ。
不自然な沈黙の後、タイチが叫んだ。
「ぅあ、やべっ! こんな事やってる場合じゃないっ! 空を見ろよ空! もうすぐ夜が明けちまう!」
タイチが慌てて走り出したのを見て他の三人もつられて走り始めた。
木々の隙間から見える空は確かに薄く白みを帯びてきていた。
「おじさん! また後で!」
フミが声を掛けるとバロは軽く腕を振った。
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