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君の声  作者: swan
8/10

聞きたくないもの2

 二人は割り振られた方角へ走りながら木々の中確認していく。


 広い森の中でもA・Bというポイント自体は狭い。

 それぞれに担当を作ればそこまで相手を見つけるのは難しくないはずだ。

 ……厄介な大人が選ばれていなければ。


 夜明けまでなどとルネは軽く言っていたが、時間はあまりない。皿を取った上で村に戻る必要さえあるのだから。


 先を走っていたジュニが器用に足元の朽ちた木々をよけながら越えていく。

 この森に正式な道などほとんどない。

 あえて村人は作る事をしてこなかった。だから今走るのも獣道であり、フミたちにとっては訓練で慣れた道だった。


 珍しく隠れている大人に当たる事無く20分ほど進んだ時だった。


「なぁ、フミ」


 早い足取りで足を動かしているのに一切呼気を乱すことなくジュニは言った。


「何」


 フミも落ちついた声で答える。

 ちらりとジュニは振り返った後、息を吐き出すようにして声をのせた。


「俺と付き合ってくれない?」


 耳に届いた言葉にフミは冗談とか聞き違いかと首を傾げた。

 けど、振り返った彼の顔に嘘などなくて思わずフミは足を止めた。


 ジュニもそれを見て立ち止まってフミのところまで戻ってくる。


「…それって」


「本気だ、友達じゃなくて恋人になって欲しい」


 飾り気がない彼の素直な言葉にフミは戸惑う。


 幼い頃から知っている彼が自分をそういう風に見てくれていたとは思いもしなかった。彼は集まりがあると必ず話をするし安心する事も多い。


「今、付き合ってる奴とか居ないんだろう?」


 自然な動作でジュニに手を握られてフミは頬が熱くなるのを感じた。初めて彼を異性として意識した。

 のぞきこむようにして見つめられて言葉を探す。


「あの…」


 じっと自分の返事を待っているジュニに言葉を返そうとした瞬間だった。


 ばぁあんっ! という破裂音が耳元で響きジュニが自分を強く引き寄せて抱きこみ屈んだ。


「きゃっ」


 その瞬間、あまりの勢いにフミは叫んでしまっていた。


「フミ、立て!」

「うん!」


 ジュニの声にフミは慌てて立ち上がった。

 演習中と言うのに別の事に気をとられていた事で気がつけなかった自分が呪わしい。


 ジュニは平然と戦闘態勢をとっていた。

 見ると木々の高さの中腹あたりに物体が浮かんでおり凄い勢いで自分へ向かってくる。それをジュニの位置と見極めて避ける。


 再び、ばぁん! と音が響く。


 自分の上を通過した人の頭ほどある塊の幹はジュニの力で跳ね飛ばされて地面に勢いをなくして落ちた。

 ジュニが見ているほうに目を凝らすと距離があるが木の上に器用に立っている人がいるのが分かる。


 ジュニは手にしていた大きな枝を大きく天に向けて放った。

 木の上へ向けてそれは勢いよく走っていく。

 見事なコントロールで相手へ当たるかと思われた。しかし、先ほどのジュニの力と同じように急速に幹に当たる直前に跳ね返された。


 ふわり


 急に二人の周りの地面から落ちた枝などが浮かび上がる。


 二十ほどの枝や倒木の幹が不気味にふわふわと浮いているのだ。一つ一つが自分を狙っている気がする。


「ついてねぇっ」


ジュニが悪態をついて足元の倒木を蹴った。


「絶対、親父だ」


 ジュニが苦々しい顔で呟いた。


 ジュニの父・バロも念動力ウゴカシの持ち主だ。

 つまり同じ能力で経験値は彼の比ではない。いつもジュニと同じでにこにこ笑っている金物屋の亭主の彼も実戦のとき容赦がないことを知っている。


「大丈夫、ジュニと私で行けばいい。そのために組んだんでしょ」


 フミはジュニに向けて自信有り気に笑いかける。

 ジュニはフミの顔を見て一瞬驚いた顔をした後に頷いた。


「そうだな」 


 真剣な顔で頷きあう。


 フミは腰に携帯していた火薬壜のふたを開けると指を差し入れた。右手の親指と人差し指で摘まれた火薬は微量。


「私から行く。離れてて」


 ジュニに告げると顔の横にいったん引き寄せた右腕を勢いよく前方に振り出した。


 ジッ!


 小さな発火音と共にフミの指先には「ホムラ」の能力で作られた火の玉が浮かんでいた。

 仕草だけ手首を使い遠くへ押し出すようにして振る。

 薄暗い中、意思を持つようにフミの手のひらサイズの火の玉は浮かぶ個体をすり抜ける。

 場所が分かればフミには難しい事ではなかった。


 すぐに樹の上に居たバロの横へたどり着いた事を確認してフミは指を鳴らす。


 ボンッ!


 派手な音で火の玉は破裂した。

 炎の明るさで樹の周辺だけが照らされて、そこいたバロが樹から器用に飛び降りるのが見えた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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