隠したいもの2
「話?」
「うん、ちょっと時間貰っても良い?」
ジュニに会った足でそのままフミはルネのもとを訪ねてきていた。
「いいよ。奥で話そうか」
ルネは嫌な顔ひとつせず頷いてくれた。
「ねぇ、僕も行っていい?」
キフィが入り口で話していた二人に覗き込むように尋ねた。
彼はルネのしている仕事に興味を持っているらしくいつもついて回っている。
ルネの書庫にある本も幼いながらに読んでいるようだ。そんな息子にルネはある程度の所であれば同行する事を許していた。
将来、彼もこの村を担うのだから。
ルネはちらりとフミの顔を見る。
フミは一瞬どう応えようか迷い、その間にルネが言葉を紡ぐ。
「キフィ、今日は少し大事な話をするんだ」
「そうなの?」
くるりとフミを振り返ったキフィにフミも頷いた。
「じゃあ、いいや。僕、母さんの手伝いをしてくるね」
「あぁ、後でお茶を取りに行くって伝えておいて」
「わかった。じゃあね、フミ」
ルネはフミを伴ってリビングの隅に付けられていた扉を開いた。
廊下からの入り口はひとつでも部屋の中は更に区切られているのだ。この館自体が家なのだが、共同住宅のようになっていた。
隣の部屋はこのルネ家族の部屋の中での仕事場になってる。館の裏にある小屋よりもすっきり整理されている。
「フミはそっち使って」
ルネからすすめられていつもの定位置に座る。正面に座りながらルネが口を開く。
「それで何について? ノウリョクの仕事について?」
「うん、こんどの演習…今回集まるのは若い者ばかりでしょう? 戦術訓練するって」
二人の間にあったノートを広げてルネは頷いた。
彼の管理しているスケジュールで村の若い能力者の行動は決まっていた。
このマム=レム王国軍が喉から手が出るほど確保したがる『能力者』、何千、何万人に一人の能力者がこの村には溢れていた。
一族の血筋、村人の半分は能力者かそうでなくてもその体には能力者の血縁の血が流れている。軍は執拗にこの能力者の一族を追い続けてきた。
力で行使される物には一族も力で抵抗しなくてはいけない。
そのために、普段は穏やかなこの村の大人たちは鍛錬をしていかなくてはいけないのだ。通常の基礎体力訓練とあわせて能力を使った演習も行なう。
「そうだね、実践練習もたまにはしないと」
「それなんだけど、能力別の訓練を私はジュニと組みたいと思うんだ」
ルネが意外そうな顔でフミを見た。
「ジュニ?」
「うん」
「…でも、フミはセーアと組んでるだろう? それにそんな急にジュニに替わるって言っても彼らがそれを受け入れてくれるか?」
ルネが難色を示すがフミは言葉を重ねた。
「ジュニとはさっき話してきた。彼から提案された事だし…私も彼と組んでみてどうなのか確認しておきたい」
ルネは考える素振りを見せて沈黙した。
「お願い」
フミは縋るように言った。
実際、彼女はこのジュニからの誘いに自分が凄く乗り気なっているのが本当の問題から逃げている事だと分かっていた。
それでも、ジュニからの誘いを受けた時セーアとしばらく離れられるのは良い機会だと思ったのだ。
「…確かに、他と組んでみてどうなのかを確認しておく事は大切だよ。戦闘はどうなるかなんて分からないんだからね。でも、7年も組んできて替えてみる事についてはフミがきちんとセーアに説明しなさい」
指導者としての澄んだ言葉に、びくりとフミは肩を揺らしてルネを見た。
「…ルネからは言ってもらえない?」
「それはできない。コレは僕が決めたことではないだろう? 本人から意思を伝えるんだ」
「でも…」
セーアと会いたくないフミは言葉を捜すが先にルネが続ける。
「セーアはここに住み始めたけれど、この小さな村じゃ別に全く会わない状況でもないだろう? せっかくの家族じゃないか」
そう告げたルネはいつも穏やかな雰囲気とは違う顔だった。
観察するようにじっとルネはフミを見ていたけれど、強張った顔で下ばかり向いていたフミは気付けなかった。
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