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君の声  作者: swan
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温かいもの

のちのち近親相姦表現あります。苦手な方ご遠慮ください。

 あなたの存在を感じる事は全てを感じる事と同じだと知った。


 ふわりと自分を包むそのぬくもりにフミは口元を緩めた。

 いつでもこの温かさを感じるたびに幸せだと感じる。

 けれど、自分とひとつになる事は決してなくフミの思いなどまったく気付きもせずに離れていくのだ。

 少しその事実を恨めしく思いながら自分が回していた腕に力をこめた。


 途端に耳元でくすくす笑う声が漏れる。


「くすぐったいよ、フミ」

「ごめん、キフィがあんまり良い抱き心地だったから」


 素直に謝り解放してやると、ぴょんと跳ねて自分に彼は再び抱きついてくる。


「僕もフミにギュってしてもらうの好きだよ」


 飛びつかれてよろけつつもフミは微笑んだ。

 彼の黄金色をした髪の毛をすくように指を頭に差し入れる。


「あぁっ――!」


 背後から聞こえた叫び声にフミはキフィを抱えつつ振り返る。

 そこには金の長い髪を耳の横で二つに結んだ少女が立っていた。


「ずるいずるいずるいー!」


 フミとキフィに駆け寄りながら少女は口を尖らせる。


「お帰り、オリビア」


 キフィはフミに抱きついたまま殊更ゆっくり言った。オリビアが先程より鋭くキフィを睨む。


「オリー、落ち着いて」

「だって、お兄ちゃんばっかりずるいよっ! 先回りしてフミと遊んでるなんてっ」


 涙目で自分を見上げるオリビアにフミは一層柔らかく微笑みかける。


「じゃあオリビアも抱きしめるからおいで。キフィは一回オリビアに譲る事~」


 何か言いかけたキフィが先手を打たれて口を閉ざした。

 素直に兄としてオリビアにフミの腕を渡したキフィの頭を撫でてやる。

 代わりに自分へ腕を精一杯広げて抱きついてきたオリビアをフミは抱きとめる。


 彼らに会うと必ず行なってしまうこの行為はフミの安定剤なのかもしれない。


 幼い頃から繰り返してきたが二人は喜んで受け入れてくれる。


 しばらくオリビアを抱きしめると、二人とも落ち着いたらしくフミの顔をじっと見つめる。


 キラキラと輝く二人の瞳にフミは苦笑する。


「なんだか親心出ちゃうなぁ~、二人とももう11と12歳だっけ。10年なんてあっと言う間だぁ」

「フミはいくつになったの?」


 オリビアがフミを覗き込むようにして訪ねる。


「今、23歳だよ」

「じゃあ、お嫁さんになれるね! フミはすっごくビジンだから綺麗な花嫁になるよ」


 オリビアは頬を染めてフミの手を握った。

 きっと彼女は花嫁と言うものに憧れているんだろう。

 以前見た婚儀の時にオリビアは本当に羨ましそうに花嫁を見ていた。


 フミも、もうこの村では結婚していてもおかしくない歳だった。



 ある光景を思い出す。

 このプレセハイド村をまとめるお館様の息子、従弟でもあるシオンとアップルという少女の結婚式が村の中央にある広場で行なわれた。

 二人の幸せそうな顔にフミも少なからず羨ましいと感じてしまった。


 寄り添う若い夫婦は18と19歳だった。

 結婚する年齢としては特に早過ぎない、だからこそフミは何故結婚しないのかとよく聞かれるのだが相手が居ないのにどうやって結婚するのだ。


「アップルは起きてるかな?」


 回想で思い出した。


 今、アップルのお腹には子供が宿っている。彼女が産み落とす命が楽しみでならない。

 あの二人の子供だ、きっととっても可愛いだろう。


 フミは子供が凄く好きだった。

 彼らの無邪気さや曇りのない瞳を見ていると本当に幸せになれる。

 身が心から愛す人との子供ならそれは何倍も何千倍も幸せだろう。


 けれど、それはあり得ない、空想でしかない。


 だからこそ目の前にいる子供達を愛すのだ。


「アップル? うーん、どうかなぁ…もしかすると寝てるかも知れないね」

「行ってみる? 一応今日も全部窓とか締め切ってあるから部屋に入っても問題はないと思うよ」


 二人が口々に答えをくれる。


 オリビアの言葉にフミは窓の外を見た。

 森の木々の隙間から朱色をした太陽が傾きかけている。


 まだ、空は明るい。

 アップルは太陽に光に弱い。


 以前は完全夜行性を取っていたがシオンと付き合い始めてからは部屋に光が入らない状況であれば陽がある時間でも起きているようだった。


「…今日はやめておこうかなぁ。それより私、ルネと会う約束もしてたんだわ」

「お父さんは多分二階に居るよ。まだ裏には行ってないと思う」


 キフィが言うとオリビアがフミの手を引く。


「いこう」


 ちょうど一階の階段横の談話室で話していたので三人で廊下に出る。

 村の中心である館は信じられないくらいの広さだった。

 実際、使用人も数人暮らしている。


 お館様一族だけが住むには広すぎる建物。

 ずっと続く廊下。


 それだけの責任をこの家に住むものは負わなくてはいけないのだ。


ここまでお読みくださりありがとうございました。

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