逢瀬5秒
俺がその少女の存在を知ったのは春だった。
帰宅途中の道、車線を挟んだ向こう側。
花壇の上に立ち何処か一点を見つめていた。
そのまっすぐな背筋と、強い眼差しに興味がわいた。
少女は毎日同じ時刻に立っていた。
雨の日も、風の日も、暑い日も。
少女は何の為にそこに立ち、その目で何を見ているのだろう。
その行動の理由を知ったのは、少女を知って3ヵ月後の時だった。
その日俺はいつもより30分ほど遅れてその道を通っていた。
すると少女は笑顔を見せて遠くに手を振っていた。
声は聞こえないが口の動きで分かった。
『パパ』
少女の前にやってきたのは自転車に乗った一人の男性だった。
男性は少女の髪をなで額をくっつけて抱きしめて、
手を振りながら行ってしまった。
その間5秒
少女はパパが見えなくなるまで手を振った後
花壇を降りて隣のアパートへ入っていった。
あぁ、そうか。
少女が花壇に立ったときの背丈は
自転車に乗ったパパと同じ高さだった。
アパートとは反対にあるお店のおしゃべりなおばちゃんが教えてくれた。
少女のパパはママと別居中で、仕事の行きしなに少女に逢いに来る。
少女はパパの時間を取らせないためにあそこで待っている。
その逢瀬5秒。
やさしいやさしいその5秒。