正義の味方
「カッコ悪くなんてないもん」
「ぜ~ったいカッコ悪いね」
昼下がりの公園で子供たちが感情をぶつけていた。
「だいいち、顔がパンなんておかしいよ」
「そうだよ。みんなに食べられたら気持ち悪いだけじゃんか」
「そ~だそ~だ」
議論、というよりは国民的ヒーローを擁護する一人の少年を残り五人の「戦隊ヒーロー」派な子供たちが一方的に捲し立ててるといったところだった。
「怪人役が嫌だからって嘘ついてるんだろ」
「嘘なんかついてないもん。強くて優しい正義の味方はいつだって悪いやつをやっつけてくれるんだ」
しかし子供の言い合いはどうしたって少数派の意見が駆逐されてしまうものである。
そんな彼に助け船を出すようにその公園の目の前の家から少年の母親がやって来た。
「みんな~。おやつの時間よ。手を洗って食べましょう」
魔法の言葉のようにそれまでの言い争いが止むと我先にと子供たちは少年の家に上がっていった。
「聞いてお母さん。みんなお腹壊して今日休んだんだよ」
「あら、大丈夫なの?」
「うん。先生が明日はみんなくるだろうって言ってた」
「心配ね。昨日出したおやつがいけなかったのかしら」
「おやつなら僕も食べたよ。それにあいつらは僕の正義の味方をバカにしたんだ。だからバチが当たったんだよ」
「こらっ。友達を悪く言うんじゃないの」
「は~い。あ、始まる時間だ」
「じゃ、お母さんはご飯の準備しちゃうね」
テレビにかじりつくようにヒーローの登場を待つ息子の後ろ姿を微笑ましく見送ると聞こえていないと分かりつつ優しく言った。
リビングを離れ台所に行くと昨日出したおやつがしまってある戸棚に手を伸ばす。
「あら、だれかあんパン食べなかったみたいね」
自分の子供が嫌いなものを確認するようにそう言うと遠くから馴染みのある音楽と息子の歌声が聞こえてきた。
「そう、正義の味方は悪いやつをやっつけるものなんだよね」