同じクラスの蕪木くんと箕浦くん
息抜きでBL読み漁ってたら、こうなりました。たまにはいっか。
(※BLに女子はいらない派の皆さまご注意ください、女の子出ます。)
「昨日見た動画がおもろかったから、まじ一回見て」
「うわ、箕浦。自分でハードル上げたな」
「つまんかったら昼飯奢って」
「なんでだよ」
至近距離の箕浦遼がスマホをいじりながら、近くに座っている男子たちとケタケタと笑っている。
俺も同じ輪にはいるけど。
こいつ…、なんでここ座ってんだよ…。
俺、蕪木翠明。高校2年生、身長170cmちょっと届かないくらい。帰宅部。
顔面は中性的な自覚あり。
子どもの頃は性別不詳と言われたもんだが、高校に入ってからさすがにそれもなくなった。
化粧映えする顔立ちなだけあって、姉貴のメイクの練習台になることがちらほらあるが、その時はさすがに自分でも可愛いと思う。
特徴といえば、それくらいだ。
俺の席は窓際で、窓を背にして座りながら近くの席の連中と喋っている間に、朝練組が教室に入ってきたところまではよかった。
ところが、なぜかこの俺より図体のデカい箕浦遼が自分の席に荷物を置くやいなや、まっすぐ俺のところにやってきて、そのままドカリと膝の上に座ってきやがった。
大変不服である。
「おい、遼。何勝手に座ってんだ、降りろ」
持ち上がらない膝をグイグイ動かすと、へらへらしながらこちらを見てくる。
「ええぇ、蕪木のケチ」
「体格差考えろ。自分が筋肉ダルマだって自覚持て、バスケ部」
「逆だったら、もっと怒るくせに」
「ったりめーだ、ふざけんな」
「じゃあ、こっちで正解じゃん」
「不正解だわ、あほ」
「ああ〜、蕪木が『あほ』って言いやがった!ひでえ〜!」
「降りろっつってんの!」
俺の怒りの声にもお構いなしで、降りようとしない。
ただニヤニヤ笑って、また他の奴との会話に戻っていく。
いや、だから降りろって。
大体、180越えの筋肉質男が、人の上に座ろうとするな。嫌味か。
俺が凄んでも意味なし、へらりと躱されるだけだ。
俺の膝の上に乗っている分で、余計に高い位置にある顔がムカつく。
はああ、と深いため息を吐くと、箕浦はくるりとこちらを向いてきた。
「蕪木がご機嫌斜めだ」
「誰のせいだよ」
「鏑木が俺にだけ冷た〜い」
「どこがだ」
呆れて眉間に皺が寄っていくが、なぜか箕浦は寂しそうな顔をして、腕を伸ばしてきた。
そのまま、ぎゅっと首に腕が回されて、抱きつかれた。
馬鹿デカい体に体重をかけられて、肩に顔を埋めてくる。
こいつ〜!
「重い!ダルい!暑い!うざい!降りろ!くっつくな!ダルい!」
「蕪木が優しくな〜い」
「うぜえ喋り方すんなっ」
「ギャハハ、蕪木どんまい」
「始まった、時々起こる箕浦のだる絡み」
「そうなったら最後だ、ガンバレー蕪木」
「助けろよ〜」
箕浦の筋肉の向こうに手を伸ばしたが、誰も助けちゃくれない。
発作とばかりに放っておかれている、解せん。
あーあ、早くチャイム鳴らないかな。
と、思っていると、後ろの席に人が座るのが見えた。
「大久保さん、おはよ。…あれ、そのリップ昨日言ってた新作のやつ?」
大久保さんのつけているリップグロスが、昨日姉貴が「店舗でゲットしたー!神!」とはしゃいでいたリップに似ている気がして、ついつい訊いてしまう。
ちなみにテスターとしてなぜか俺もつけられた、解せん。
「おはよう、蕪木くん。そうなの、実はゲットできたの」
「まじ?すげえじゃん、よかったね」
「駅からだいぶ離れたドラストに残ってたんだよね〜!絶対欲しかったからラッキーだった。でもこの色しか残ってなくてね〜」
「でも、その色が似合ってるよ」
「蕪木くんがそう言ってくれるなら、いい感じかも」
自分でメイクはしないけれど、見ている分には可愛いと思うし、姉貴のせいもあってしない奴よりは詳しいと思う。
見た目の中性さもあって、こういう会話で女子に混ざるのはよくあることだった。
のだけれど、いまだに抱きついている箕浦の腕の力がグッと強まった。
……苦しいって。
「ねえねえ、蕪木くん。放課後暇?一緒に選んでほしいリップがまだあるんだけど」
「時間はあるけど、それ俺でいいの」
「いいの!蕪木くんのセンス、めっちゃ参考になるから!いっちゃんも誘って、また3人で行こうよ」
「おっけー。ちゃんと選ぶわ」
「うん、そうして」
大久保さんは言ったそばから、いっちゃんこと市川さんにメッセージを打っている。
放課後はメイクコーナー巡りに、かわいいカフェコースだろう。
そういうのは割と好きだから、女子と友達で助かることのひとつだったりする。
「ところで、その大きい赤ちゃんどうしたの」
大久保さんが箕浦を指差すので、大袈裟に顰めっ面をしてみせる。
「知らん。離れん」
「あーあ、子育て大変ですねぇ〜」
「こんなデカい図体の赤ちゃん、可愛くねえだろ…」
「うっわ、蕪木がひどい」
不貞腐れたような声が首元から聞こえてきて、ますます顔を顰める。
「俺は可愛いだろ!」
「…ですって、大久保さん」
「ええ〜、私に振らないで〜」
「もうやだ、部活行く気失せる〜!」
「なんでだよ、関係ねえだろ」
「はははっ、蕪木に続き、大久保にまで振られてやんの。ほれ、箕浦。お前の機嫌がなおるものはこっちですよ〜」
俺の前の席に座る井ノ上が、ひらひらとスマホを掲げてみせた。
そこには、青年誌のグラビア表紙の金髪美女が写っていた。
「箕浦の好きそうなスレンダー巨乳系だろ」
「う〜ん、あんまピンとこん」
箕浦は俺に抱きついたまま、首だけそっちを向いて、楽しくなさそうに返事をした。
それに対して、井ノ上がやれやれと首を振る。
「はああ、贅沢だな。蕪木は、どう?」
「んー、俺、肉つきいい方が好きだからなぁ」
「え、ぽっちゃりがいい派?」
「どこまでをぽっちゃりっていうかわからんが、まあ、摘めるくらいの方が好き」
そう言った時に、箕浦の体が少し強張ったのがわかった。
こんだけひっついていれば、嫌でもわかる。
「ええ〜、蕪木くんのそういう話聞きたくなーい」
「男子の会話に女子は入ってこないでくださーい」
俺と箕浦越しに会話が飛んでいって、チャイムが鳴った。
ようやく、箕浦が俺から離れていったのだった。
その顔は、へらりと笑っていた。
「大久保さんには絶対こっち。市川さんは、こっちかな」
放課後、約束通り駅ビルに入っているメイク品コーナーを回っていた。
俺と大久保さんと市川さんの3人。
たまにあるメンツ。
ここにもっと女子が加わることはあるけれど、男子が加わることは滅多にない。
男子と遊ぶ日もあるけど、俺の友達は大体部活に入っているから、放課後となると女子と一緒にいることが多い気がする。
「じゃあ、こっちにしよう。ありがとう、蕪木くん」
「いえいえ。ついでに制汗シートの匂い、選んでくれん?」
「それ大事、教室中に振りまける匂いにしないと」
「それはもはや香害だろ。やっぱ無臭がいいかねぇ」
「私、好きな匂いあるよ!」
コーナーに移って、テスターの匂いを嗅いでいく。
あっ、これ、今朝箕浦からしてた匂いに近いな。
朝のホームルームまでひっついてきた箕浦からは、朝練部活終わりとは思えないほど爽やかな匂いがしていた。
そう思うと、箕浦がこれを使っているところを見たことある気がしてくる。
あいつも、これ使ってたかもなぁ。
「まさにそれ!いい匂いだよね」
「市川さんのお墨付きならこれにするか〜。そろそろ体育終わりの汗がやばいからね」
「それね。私も一個買っとこ」
俺は制汗シートだけ会計して、カバンの中に仕舞った。
その時、ちょうどスマホにメッセージが入ったのが見えた。
『部活終わった』
端的な内容にフッと笑いながら、『駅前にいる』とだけ送り返した。
すぐに既読がついて、『すぐ行く』と返事がきた。
俺はスマホをポケットに仕舞いながら、2人の会計を待った。
「リップ買えて大満足!」
「よかった」
「ねえ、このあとどうする?お茶にする?」
大久保さんの声に、俺はなるべく角の立たないような優しい声を出す。
「俺はそろそろ帰ろっかな」
「そう?じゃあ、うちらも帰るか」
「そだね、蕪木くん、今日はありがとね」
「こっちこそ。あ、改札まで送る」
「ありがとー。蕪木くんバスだもんね」
「そうそう」
改札までやってくると、同じ制服がちらほら見えた。
「部活組も帰ってるね〜」
「だね。蕪木くんありがとう、ここまででいいよ」
「ほいよ」
「じゃあ、蕪木くんまた明日ねー」
「うん、明日」
ひらりと手を振って、2人が改札の向こうに消えていくのを見送った。
そのままバス停に向かわずに、テキトーなスペースに立った。
これだけ部活組が帰っているなら、そろそろ来そうなもんだけど。
そう思いながら、スマホを確認していると、聞き馴染みのある声がした。
「蕪木っ…!」
やや切羽詰まったような声に顔を上げると、息を切らした箕浦がいた。
「なに、走ってきたん?」
俺が驚いている間に、箕浦は険しい顔で訊いた。
「……女子たちは?」
「今、帰ったとこ。お疲れ部活」
「うん、おつかれ」
「電車でいい?」
「うん…」
頼りなく頷く箕浦の前を歩いて、さっき2人を見送った改札を通っていく。
ついでにカバンの中からさっき買った制汗シートを出した。
「使うか?」
「あ、いや、自分のある」
「そ」
「てか、俺もおんなじの使ってる」
そう言ってカバンの中を探って、箕浦は同じタイプの同じ匂いである使いかけのものを出してきた。
「あーやっぱり?匂いが似てると思ったんだよな」
答え合わせが勝手にされていくのが可笑しくて笑うと、箕浦の動きがぎこちなくなった。
「俺と一緒の、買ってきたの?」
「そう」
「そっか」
普段の教室だったらウザいほど喋るのに、箕浦はそれ以上は何も喋らなかった。
俺も無言は気にならないし、やってきた電車に乗って、3つ目の駅で箕浦と一緒に降りた。
この駅は、箕浦ん家の最寄駅だ。
そのまま住宅街を歩いて行って、とあるマンションの4階まで上がっていく箕浦についていく。
ここまで何も言ってこない箕浦も珍しいが、特に気にしなかった。
箕浦が鍵を開けて入っていく玄関で、「おじゃましまーす」と一応声をかけておく。
まあ、ご家族はいない時間帯だって知っているけど。
箕浦は黙々と廊下を歩いて、自分の部屋のドアを開けて突っ立った。
先に入れということだと思って、箕浦の横を過ぎていくと、ドアが閉まるか閉まらないかくらいで、後ろからしがみつかれた。
「…おい、急に抱きつくなって。危ねえから」
「……」
「今度は無視かい。あと、お前なぁ、教室であれはやめろって言ってるだろ」
俺の文句は静かな部屋に飲み込まれて、ただただ箕浦の腕の力が強くなっていくだけだった。
機嫌悪そうなことだけは伝わってくる。どうしたもんか。
「…蕪木が俺に冷たいのが悪い」
「はいはい、さようですか」
「……あと、女子と一緒に過ごすことないじゃん。俺との時間なのに」
「つっても、お前部活だし。それまでの時間、暇なんだよ」
「…蕪木は、俺のなのに」
朝と同じように肩に顔を埋めて、ぶつぶつ言っている。
グリグリと頭を押し付けてくるから、まあまあ痛い。
「一回離せって。お前、自分の体重まあまあある自覚ないだろ」
「……」
「遼〜?」
俺の声にピクリと反応したかと思えば、グイグイ押されて、そのままベッドに押し倒された。
「う、わ」
俺の背中がベッドに沈み込んだと同時に、箕浦の体が布団でもかけるように上からのしかかってくる。
だから、重いんだって。
「お前、わざとやってるだろ。肉がつきにくい俺への当てつけだろ、こら」
「……蕪木、細っこいもんね」
「わかってるならどけ。お前の体重を支えられるほど、俺は力ないの」
「…しかも、ぽっちゃりがいいとか言ってた。俺、筋肉しかないのに」
「あれは、女子の好みの話だから」
胸と胸がくっついた状態のまま、箕浦は俺の顔の横で息をしながらちっとも動かない。
最後の抵抗のようで、言うことを聞きやしない。
こいつ、機嫌なおるまでこのままでいるつもりだな…。
こうやってこいつに体重をかけられるのは、嫌いじゃない。
制服越しでも、こいつに筋肉があることがわかる。
羨ましい限りである。
限度はあるが、しばらく付き合うかぁ。
押しつぶされそうな肺にめいいっぱい空気を吸い込んで、はああと吐いた。
隣にある顔が、ビクリとしていた。
そんな態度になるなら、不貞腐れずにこっち向けばいいのに。
仕方なく、箕浦の後頭部に手を回して、後ろの髪を掻き回す。
部活終わりのせいか、駅まで走ってきたせいか、湿っている髪の毛をあやすように撫でていく。
そうすると、今度は箕浦の方がため息をついた。
「…部活、休めばよかった」
「んなこと言うな、準レギュラー。週末の試合だって、出してもらえそうなんだろ?」
「蕪木、応援に来てくれないじゃん」
「俺、バスケ見ててもわかんねえもん」
「……俺だけ、蕪木といる時間ない」
「今、あるだろ。ちゃんとお前の部活終わりを待ってたろー?」
「そう、だけど」
全然納得いっていない声だけ届いて、苦笑いが漏れる。
もう片方の手を箕浦の背中まで持っていって、摩っていく。
箕浦の首からは、微かにさっきテスターで嗅いだ制汗シートと同じ匂いがしてくる。
やっぱ、この匂いだった。
「試合出れたら、おめでとう会してやるからさ」
「……そんなんじゃなくて、一緒にいてくれればいい」
「欲ないねー、お前。焼肉にしようかと思ったのに」
「それは食う」
「ははっ、じゃあ焼肉楽しみに俺はバイトを頑張ることにするよ」
「……アイスもつけて」
「仕方ない、コンビニのアイス一個な」
「それで、俺ともデートして」
「はいはい。アイス食いながら帰ろうぜ」
「…うん」
未来の約束をしたからか、箕浦が少しだけ体重をかけるのを緩めた。
わかりやすい奴だことで。
体育会系の体のデカさを考えろと言いたいところだが、箕浦が構って欲しがる時は、構うのが一番。
何より、俺が構ってやりたいし。
湿った髪をわしゃわしゃとかき混ぜて、ベッドに顔を埋めている箕浦の方を見た。
「遼、一回どいてくれ」
「……やだ」
「この姿勢じゃ、キスできないんだけど?」
俺がそう言うと、ピクリと動いたかと思うと固まってしまった。ダメだったか?
押しつぶされたままじゃ、こちらからできることは限られている。
おーい、どいてくださいなー。
「遼ー?」
もう一度声をかけると、今度はスムーズに離れていって、俺が沈んでいるベッドの横で律儀に正座をし始めた。
こういうところは、可愛いだよな。
俺は体を起こして、ベッドに座り直した。
カチコチに固まっている箕浦を見て、自然と笑ってしまう。
正座をして膝の上に拳を作って少し項垂れている箕浦の頬に、手を置いた。
下から覗き込むように唇を近づけていくと、箕浦が可哀想なくらいギュッと目を瞑った。
あーあ、そんなに赤くならんでも。
そう思いながら、何度か口付けをしていく。
箕浦はただ受け取るだけだった。
離れていくと、そーっと箕浦の瞼が開いていく。
「ははっ、やっとこっち見た」
「……もう一回」
「はいはい」
今度は俯いていない顔に、そのままキスをした。
俺の膝の上に乗ったり、上から押し潰してこなければ、こんなにキスのしやすい近い距離でいられるというのに。
身長差を考えてほしいものである。
最後に唇を舐めとると、箕浦はあからさまに動揺して、パッと自分の口元を手で隠した。
いつまで経っても慣れないねぇ、こいつ。
まあ、俺は楽しいからいいけど。
俺はベッドから立ち上がって、いつもより下にある箕浦の頭を撫で回した。
「んじゃ、帰るわ俺」
「えっ」
「あんまり遅いと、親に言われるし」
「え、あ、でも…」
「お前に会いたかっただけだから、もう十分」
そう言うと、潤んだ目がこちらを見上げてくる。
たぶん、まだ足りないと言いたいんだろうけれど、高校生はそんなに自由じゃない。
「部活終わりで汗かいてるだろ。風邪引く前に風呂入んな」
箕浦が体調を崩す方が困る。
カバンを肩にかけると、箕浦がグイッと引っ張ってきた。
「蕪木、俺明日部活ないんだけどっ」
「知ってる。空けてあるから、また明日な」
「俺とデートしてくれる?」
「ああ、カラオケでも飯でも、なんでも付き合うよ。俺はお前と一緒にいれればいいし」
「……それ、さっき俺が言った」
むくれる箕浦を見て、やっぱり笑ってしまう。
「デートにしないと、お前ずっとくっついてるだけで終わるじゃん」
「なんだよ、嫌なのかよ」
「全然。お前、俺が理性ある彼氏でよかったな」
「んなっ…!?」
今度こそ真っ赤っかな箕浦を見て、気持ちが満ち足りたので、額に唇をつけて部屋を出ていく。
「じゃあな、遼。風邪引くなよ」
「ああ、もう!蕪木…っ!」
俺は蕪木翠明、高校2年生、帰宅部。顔はかなり中性的だけど、しっかり男。
同じクラスの箕浦遼は、俺の可愛い恋人である。
了
お読みくださりありがとうございました!!
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