表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オフィスラブは禁止のはずですが ~天然部下に落ちた敏腕ディレクター~  作者: 蒼狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/11

第8話 オフィスラブは禁止のはずですが、葉山さんの手伝いと微かなざわめき

花火大会の翌週、プロジェクトは夏の本格的な制作フェーズに入っていた。


藤原みおはオフィスで資料をまとめながら、昨夜の花火のことを思い出して頰を緩めていた。

藍田朔の浴衣姿、並ぶ肩の温もり、冷たい視線の中の微かな熱……。

考えるだけで胸がざわつく。


「みお、ニヤニヤしてるよ。藍田さんのこと考えてるんでしょ?」


加藤遥が隣から冷やかすように言ってきた。


「え、えへへ……ちょっとだけ。花火の夜、藍田さん、肩寄せてくれて……クールなのに優しくて、ドキドキしちゃった」


みおが照れながら正直に答えると、遥はため息をついた。


「完全に落ちてるね。気をつけなよ、葉山さんも結構積極的だから。三角関係にならないように」


「そんなんじゃないよ! ただ……」


みおが言葉を濁していると、葉山圭介が爽やかな笑顔でデスクに近づいてきた。


「藤原さん、お疲れ! 花火大会、楽しかったね。浴衣姿、すごく可愛かったよ」


「ありがとうございます! 葉山さんもかっこよかったです!」


みおが無邪気に笑うと、葉山は資料を手に取って言った。


「実は今日、みおさんの担当部分のレイアウトを手伝えるかも。僕のチームのデザイナーと調整したんだけど、藍田さんの指示と少し被ってる部分があるから、一緒に見てみない?」


「え、本当ですか? 助かります!」


みおは素直に喜んだ。

葉山は人当たりが良く、仕事も丁寧だ。みおはすぐに葉山のデスクへ移動した。


二人が並んで画面を見ていると、葉山が優しく説明を始めた。


「ここ、みおさんのコピー『甘く溶けるような春を、唇に』に合わせて、ビジュアルを少し柔らかくした方がいいと思う。どう?」


「わあ、すごくいいです! 葉山さん、センス抜群ですね。ありがとうございます!」


みおが目を輝かせて感謝すると、葉山は笑顔で続けた。


「いつでも手伝うよ。藤原さん、天然だけどコピーのセンスは本当にいいから、もっと自信持って」


その言葉にみおは嬉しそうに頷いた。


その様子を、少し離れた自分のデスクから藍田朔が冷たい視線で見つめていた。

朔は無言でキーボードを叩いていたが、指の動きがわずかに強くなっている。


数分後、朔が立ち上がり、みおと葉山のところへ近づいてきた。


「……藤原」


低い、抑揚の少ない声。

みおはびくっと肩を震わせて振り返った。


「藍田さん!」


「資料の確認が終わったら、俺のところに来い」


朔の視線は冷たく、葉山に向けられる一瞬だけ鋭くなった。

葉山は爽やかに笑って手を挙げた。


「了解。藍田、邪魔したね」


朔は短く頷き、みおにだけ視線を落とした。


「休憩は十分に取れ。……暑いからな」


ぶっきらぼうな言葉だったが、みおにはその一言が優しく聞こえた。


午後遅く、みおが朔のデスクに資料を持っていくと、朔は無言で画面を指差した。


「ここ、葉山の提案を取り入れすぎだ。俺の指示を優先しろ」


「え……ごめんなさい! 葉山さんがいいって言ってくれたから……」


みおが慌てて謝ると、朔は冷たい視線をみおに向けたまま、ゆっくりと立ち上がった。


「藤原」


「はい……」


朔はみおの肩に軽く手を置き、低い声で言った。


「お前は、誰の言葉でも素直に受け入れすぎる。……俺の指示を、もっと信じろ」


その言葉は冷たく聞こえるが、手の温もりと視線の熱が、みおの胸を強くざわつかせた。

クールな表情と、肩に置かれた手の優しさ。

そのギャップに、みおの頰が一気に熱くなった。


「藍田さん……はい、気をつけます……」


みおが小さく頷くと、朔は手を離さずに、もう少しだけ体を近づけた。


「……葉山に甘い顔をするな」


掠れた低い声。

みおの心臓が激しく鳴る。


「え……甘い顔、してないです! ただ、親切にしてくれたから……」


みおの天然な返事に、朔の視線がさらに熱を帯びた。

冷たい仮面のまま、しかし瞳の奥に独占めいた感情がちらりと見えた。


その夜、残業が終わった後、みおは朔と一緒にオフィスを出た。

外はまだ蒸し暑く、夜風が少しだけ心地よい。


朔は無言で自分のジャケットを脱ぎ、みおの肩にかけた。


「汗を引くまで着ておけ」


「ありがとうございます……藍田さん、いつも優しいですね」


みおが笑顔で言うと、朔は前を向いたまま、低く答えた。


「チームに倒れられると面倒だ」


その言葉はぶっきらぼうだったが、ジャケットの温もりと朔の横顔が、みおの胸を甘く溶かしていた。


葉山さんの手伝いと、藍田さんの微かなざわめき。

夏のプロジェクトは、静かに熱を帯び始めていた。


オフィスラブは禁止のはずなのに、

みおの心は、藍田朔の冷たい視線に少しずつ捕らわれつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ