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無機質な接触

「おい……なんだ、これ。僕のプロキシを全部素通りして……バックドアどころか、回路そのものを直接書き換えられてる!?」

九条の悲鳴に近い声が、スピーカーを通じて横浜の鴉のクリニックにも響く。

佐久間と鴉が息を呑んで見守る中、メインモニターに映し出されていた波形データが、音もなく崩れていった。

崩れたドットは、モニターの中央でゆっくりと再構成され、**「一つの文字」**を形作る。

それは、どこの国の言語でもない。幾何学的で、それでいて眺めていると脳の奥が痺れるような不気味な記号だった。

「佐久間、伏せろ!」

鴉の鋭い声。直後、九条の部屋にある全てのスピーカーから、あの「空白の5秒」に記録されていた、昆虫の羽ばたきのような金属音が爆音で流れた。

『――適合者、佐久間』

合成音声ですらない、音の断片を無理やり繋ぎ合わせたような不快な音が、直接脳内に響く。

『汝は、器の喪失を嘆く。だが、それは誤謬ごびゅうなり。我らはただ、腐敗を待つだけの情報を、永遠のアーカイブへと移送したに過ぎない』

「誰だ……どこから見ている!」

佐久間がモニターに向かって叫ぶ。

モニターの中の記号が、ゆっくりと形を変えた。それは――十年前、妹の遺体の傍らに落ちていたはずの、色褪せた押し花の形を模していた。

『妹は、今も我らの中で脈動している。彼女の脳、彼女の血液、彼女の記憶。すべては最適化され、完璧な標本として完成した』

「ふざけるな!」

『次の収穫は、汝が愛した「事実」という名の嘘。汝の脳に蓄積された十年の執念は、極めて質の高い触媒となるだろう』

モニターの光が、網膜を焼くほどの強さで放たれた。

画面には、今まさにこの部屋で、カメラを凝視している佐久間自身の姿が映し出されていた。しかし、映像の中の佐久間には**「影」がない。**

『三日後、座標は開かれる。……空っぽの器になりたくなければ、あの路地へ来い』

パチン、と乾いた音がして、九条のサーバーが火花を散らした。

部屋は完全な暗闇に包まれ、鼻を突く電気の焦げる匂いだけが残った。

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