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無口令嬢、今日も色で嘘を看破します。  作者: ちょこだいふく


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20/20

灰色の誓い(イーサン視点)

数日後の午後。

ローレンス家の客間は穏やかな陽光に照らされていた。


クララ様は静かに窓辺を見つめている。

その横顔を、私は少し離れた位置から見守っていた。


(……“揺らぎの眼”の力。そういう理由だったのか)


あの日々の謎が、ようやく一本の線で繋がった気がした。


しかし、私が知っているのは結果論だ。

クララ様自身が言い出さなかったのには理由がある。

それでも――

私は、知らぬままでもずっと気づこうとしていた。



クララ様が十歳の頃。

庭で遊んでいたはずのクララ様が、突然動かなくなった。


風に揺れる草花をじっと見つめ、焦点の合わない瞳で微かに震えている。


「クララ様……?」


呼びかけても返事はなく、ただ、何か見えないものに怯えているようだった。


やっと言葉を発した時の一言。


「……風が、変に見えたの」


当時の私は、その意味を理解できなかった。


けれど——

あの“視線の泳ぎ方”だけは、強烈に記憶に残った。


それ以来、私は“クララ様の目の動き”を誰よりも注視するようになった。

どんなに小さくても、あの時の揺れを見逃さないように。



そして次はクララ様が十五歳になったある日。

クララ様は突然、声を失った。


家族も慌てていたが、誰も理由が分からない。

けれど……私はすぐに気づいた。


呼吸が浅い。

視線が揺れている。

手が震えている。


これは身体の不調ではなく、“何かに圧倒された時の反応”だと。


その確信があった。


私はただ、そばに立ち、呼吸のリズムを落とさないよう気遣いながら見守った。


声が戻った後、クララ様は静かに言った。


「……ごめん」


謝る必要などない。

だが、理由を言わないのは“言えない”のではなく、“説明できない”のだと感じた。


だから私は決めた。


クララ様の“呼吸の乱れ”だけは絶対に見逃さない……と。



そして事件の前夜。

クララ様は廊下で小さく震えていた。


「……色が、にじむ……」


意味は分からなかった。

だが、あのときのクララ様の“肩の震え方”は、昔と同じだった。


言葉より先に、身体が恐怖を語っていた。


だから私は、そっと寄り添い、声よりも“距離と呼吸”で安心させようとした。


(……守れるのかと怯えたのは私の方だった)


真実を知って、ようやく理解した。



そして現在、クララ様が窓辺に立ち、柔らかな光の中で穏やかに息をしている。


私は控えめに声をかける。


「クララ様……お茶をお持ちいたします」


「……うん。お願い」


その声音を聞いた時、胸の奥が静かに安堵で満たされた。


(……無事で、本当に良かった)




私は色の意味を知らなくても、

感情の流れを読む能力などなくても、


クララ様のわずかな変化に気づく訓練を、自分で積み重ねてきた。


彼女が理由を知らなくても、説明されなくても、


視線の揺れも、肩の震えも

呼吸の変化も————


ずっと、気づけるように努めてきた。


そして今、真実を知った私は、さらに強く思うのだ。


(……これから先は、二度と一人で震えさせない)


色の揺らぎを理解していなくてもいい。

ただ、クララ様が揺らぐ前に気づき、守る。


それが従者としての使命であり、

言葉にならないほど大切な誓いだった。


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