爽やかな来訪者
「ようこそ、エリオット様。遠いところありがとうございます」
母セリーヌが柔らかい声で迎えると、
エリオットの揺らぎが淡い金色に揺れた。
——上辺の社交の色。
内側はやっぱり黒紫のままだ。
「こちらこそ、お会いできて光栄です。ローレンス家の皆さまにご挨拶できますことをとても嬉しく思います。」
声は優しくて、微笑みは完璧。
なのに言葉と揺らぎがまったく噛み合わない。
(どうしてそんな色で笑えるんだろ……)
私は喋らず、ただエリオットを観察する。
喋ると疲れるし“色”に気を取られて話がまとまらなくなりがちだ。
兄のエレンが、穏やかな笑みで歩み寄った。
「父が戻るまで応接室で待っていてくれ。母ともいろいろ話ができるだろう」
エレンの揺らぎは爽やかな青。
真っ直ぐで嘘がない。
エリオットはにこやかに頷きながら、
家の中をちらちらと、一定のテンポで見回している。
壁、棚、廊下、扉。
どれも“一応見てます”という動きじゃない。
なんと言うか…目的を探しているような視線。
(…ねぇ、何を探してるの?)
私は喋らないままイーサンを見る。
イーサンはほんの少しだけ顎を引いた。
——了解、という合図。
彼は自然な動きで、私の隣にスッと寄る。
誰も気づかない速度と距離感。
エリオットがこちらへ視線を向けてきた。
私は“必要最低限の礼儀”として、小さく会釈をした。
「…クララです。よろしくお願いします」
声は小さめ。
これ以上話すと、思考と“色”の整理が大変だから。
エリオットはにこっと笑った。
その瞬間、揺らぎの色が黒紫から赤に一瞬だけ揺れた。それは驚きや苛立ちの色に近い。
(なんで…今、赤が混じったの?…挨拶しただけなのに?)
その細かな違和感を、イーサンは見逃さない。
私の方へわずかに体をずらし、
エリオットとの視線をゆるく遮る。
「クララ様は、大勢の場だと少しお疲れでして」
短く説明をする。
「…そうでしたか。お気を使わせてしまい申し訳ございません…」
エリオットは柔らかく返したが、内側の揺らぎは再び濁った黒紫に戻った。
(やっぱり…ただの来客じゃない。この色、普通じゃない)
母は嬉しそうに笑っている。
兄も安心している。
家族の誰も気づかない。
私だけが“本音の色”を見ている。
そしてイーサンだけが、私の変化を理解している。
何を企んでいるのかわからないが、手を打たねばならないかもしれない。
静かな朝が、わずかに軋みを上げて傾きはじめる。




