後日談
数日後の午後。
ローレンス家の客間に、静かな陽光が差し込んでいた。
アルフォンスを迎え、父ローレンスと母セリーヌ、兄エレンが席に着いている。
クララは家族の隣に、イーサンはその少し後方で控え、立ったままだ。
空気は落ち着いているが、どこか緊張も残していた。
アルフォンスはゆっくり口を開く。
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「まずは報告だ。エリオット・ファルネストが関わった“甘い誘導”の被害者たちは、現在ギルドの保護下で治療が進んでいる」
クララは静かに息を呑む。
「……アルテン家も?」
「もちろんだ」
アルフォンスは頷いた。
「誤解による離散や混乱は、“被害として正式に認定される”。すでに医療術師が入り、家族の状態は改善しておるよ」
母は安堵の表情を浮かべた。
「……救われたのね、本当に」
「ローレンス家から得た証拠が大きかった。特にクララ嬢の観察と判断は、決定的だったよ」
クララは目線を落とす。
しかしイーサンの灰色が静かに揺れ、言葉は出さずとも“肯定”を示していた。
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母セリーヌは、ふと後方で控えるイーサンに視線を向ける。
「……ねぇ、イーサン」
「はい、奥様」
「これからも……クララを頼みますわね?家族とはいえ、私たちでは気づけなかったことを、あなたは気付き、ずっと見ていてくれたのでしょう?」
控えめだが、強い信頼がこもった声。
イーサンは胸に手を当て、深く一礼する。
「身命にかえても、お守りいたします」
クララは驚かない。イーサンはいつもそうだ。
けれど母は、ごくわずかに微笑む。
(……あ、いつも以上にピンクと、黄色が溶け合って柔らかな色が溢れている)
それは娘を見守る人への、穏やかな好意。
押し付けるでもなく、茶化すでもなく。
ただ、静かに感謝と信頼をこめたもの。
クララの胸が、ほんの少しだけ温かくなった。
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報告を終え、アルフォンスは立ち上がった。
「ローレンス家は幸運だ。優れた従者と、隠れた才能を持つ娘を得ている」
そして、クララにだけ視線を向ける。
「クララ嬢。“揺らぎの眼”は弱さではない。お前の心が強いからこそ、見えるのだ。もしまた困ったことや、その力を何かに使いたいと思った時はいつでも声をかけてきなさい。」
クララは静かに頭を下げた。
「……ありがとうございます」
アルフォンスは満足げに頷く。
「さぁ、これからは日常に戻れ。…揺らぎの穏やかな日々を、大切にするんだ」
杖をつきながら去っていく背中はどこか誇らしげで、温かかった。
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家族が散っていき、客間に静けさが戻る。
クララはふと窓辺を見た。
色は澄んでいる。
揺らぎは穏やかに、優しく揺れている。
イーサンが控えめに声をかけた。
「クララ様……少し、お疲れでしょう。お飲み物をお持ちします」
いつもと変わらない声。
けれど、その灰色はどこか柔らかい。
クララは小さく頷いた。
「……お願い」
平凡な日常の一片。
けれど、その静けさは何より尊いものだった。
ローレンス家は、確かに守られたのだ。




